建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2009年7月号〉

寄稿

コシヒカリのふるさとを洪水から守る県営ダム

――治水・農業用水・水道用水・発電・環境保護など多方面で効力を発揮

寄稿特集・新潟県ダム

奥胎内ダム

 胎内川は、新潟県胎内市の藤十郎山(1,332m)を水源として山間部を東西へと下り、頼母木川、鹿ノ俣川などの支川と合流しつつ、胎内市笹口浜地先で日本海に至る流路延長39.1km、流域面積143.4kuの二級河川。
 昭和42年8月28日の豪雨では、新潟県下越地方から山形県西部にかけて、河川の氾濫や土砂災害が発生した。流域の胎内市(旧北蒲原郡中条町、黒川村)では、氾濫や支流小河川の土石流などによって、死者・行方不明者42人、重軽傷者275人、住宅全半壊313棟、床上・床下浸水約6,000棟という甚大な被害を受けた。
 このため、胎内川に多目的ダムを建設し、既存の胎内川ダムと連携することで最適なダムの運用を目的とした、胎内川総合開発事業の一環として奥胎内ダムが計画された。
 これによって、胎内川ダムと合わせ毎秒870m3の洪水調節を行い、沿岸の洪水被害を防ぐとともに、流水の正常な機能の維持が図られる。また、既設胎内川ダムとの相互運用により、胎内市に1日あたり1,500m3の水道水を供給する。さらに胎内第四発電所を建設し、最大出力2,600kWの発電を行う計画だ。


広神ダム
 広神ダムは、一級河川信濃川水系破間川支川和田川に建設されている多目的ダム。平成16年からコンクリート打設を開始したが、梅雨前線豪雨や新潟県中越地震といった自然災害にも見舞われながらも、20年8月に打設を完了した。
 広神ダムは、和田川流域に約370m3/秒(流入量約410m3/秒、放流量約40m3/秒)の水を貯め込んで洪水調節を行い、和田川及び和田川合流点下流の破間河沿川の洪水を防止する。破間川流域における治水計画を検討した結果、基準点(魚野川合流地点)での基本高水のピーク流量は3,900m3/秒になる。そこで既設の破間川ダムと合わせて1,100m3/秒の流量を調節することで、基本高水流量を2,800m3/秒に減少させることになった。これによって、70年に1度程度の大雨にも氾濫や洪水を防ぐことが可能になる。
 一方、和田川には、うぐい、かじか、こい等の魚類が生息している。一方、沿川の耕地では約330haの水源としても利用されているが、平成元年や平成6年の夏期には水量やかんがい用水の不足をきたしたことから、広神ダムに約190万m3の水を貯めて、動植物の保護や流水の清潔保持などの河川維持と、かんがい用水の安定的供給に必要な流量の補給を担う。
 また、新潟県企業局ではダム直下に発電所を建設し、最大有効落差40.2m、最大使用水量5.0m3/秒で、最大出力1,600kWの発電を行う計画だ。


鵜川ダム
 鵜川は柏崎市南部の尾神岳を水源とし、田屋川、上条芋川などの河川と合流しながら、柏崎平野を流下する流域面積108.7km、流路延長24.6kmの2級河川で、鵜川ダムは下流の柏崎市の洪水被害防止、河川機能維持のための用水補給を目的としている。
 鵜川流域では、豪雨により洪水が何度も発生しているが、中でも最大となった昭和53年6月の水害では、浸水家屋2,954戸・浸水農地 1,569ha・被害総額73億円もの甚大な被害をもたらした。そうした災害の度に河川改修は行われてきたが、流域は近年に至って工場進出や市街化が進み、資産が集中していることから、治水の重要性はますます増大し、抜本的な治水対策が強く望まれていた。
 一方、その河川水は水辺に棲む多様な動植物を育むとともに、流域の耕地の重要な水源にもなっているが、何度も渇水が発生しており、平成6年にはとりわけ深刻な水不足となり、稲作が減収するなど大きな影響を受けた。このため、渇水時にも利水や環境のために必要な最低限の流量を維持し、河川の正常な機能維持と増進が求められていた。
 そこで、基準点「八広橋」での基本高水ピーク流量毎秒700m3を、毎秒600m3に低減し、渇水時の既得農業用水や河川環境維持のための流量を確保する目的で、総貯水容量4,700,000m3規模のダムとして計画された。工事は、平成16年から本体に着手している。




国立公園内におけるダム建設

〜ダム建設と自然環境保全との共生をめざして〜

鹿島・大成・加賀田特定共同企業体
奥胎内ダム工事事務所 所長 木村 淳二(鹿島建設株式会社)

▲ダムサイト全景(上流より)

1.はじめに
 奥胎内ダム建設地点は磐梯朝日国立公園内に位置し、周辺全域が保安林指定されているとともに、猛禽類をはじめ貴重な動植物が生息する自然豊かな地域である。そのため、当ダムの計画・建設においては自然環境への影響を最小限とするべく各種の環境保全対策がなされている。また、積雪5mにも及ぶ豪雪地帯のため、年間での施工可能期間が5月〜11月の7ヶ月と短い中、平成22年秋からのコンクリート打設開始に向け、堤体基礎掘削工を鋭意施工中である。

▲基礎掘削・法面対策工 施工状況(右岸側)

2.工事概要
 奥胎内ダムは堤高82m、堤頂長198.9m、堤体積26万m3の重力式コンクリートダムである。
 当ダムの特徴は、@堤体掘削ズリのコンクリート骨材原料としての有効利用、A造成アバットメント工法・タワークレーンによるコンクリート打設工法の採用による掘削土量・改変面積の縮減、B進入用縦坑からの仮排水トンネルの施工など、環境に配慮した計画があげられる。
 工事経過は、平成15、16年で進入用縦坑からの仮排水トンネル掘削・覆工の施工を完了。平成16年10月の仮排水トンネルへの河川転流、上流仮締切工の施工に引き続き、平成17年より堤体基礎掘削工・法面対策工を施工中である。現在、全体掘削量29万m3の74%にあたる21万5千m3の掘削を完了している。

3.自然環境保全への取組み
 前述のダム計画上の特徴のほか、施工においても種々の環境保全対策、資源の有効利用を図っている。
@ダムサイト周辺で確認された猛禽類の巣にCCDカメラを取り付け、インターネット回線で冬期間も猛禽類の営巣状況を常時確認できるシステムを構築。営巣状況の把握により、春先の施工開始時期・通行車両規制期間等を的確に判断し、施工にあたっている。
Aダムサイト、土捨場より発生する伐採材は、破砕後に副資材を添加、熟成させることにより基盤材を製造、掘削法面の緑化基盤材として場内で有効利用した。
 その他、使用機械は猛禽類の警戒色である赤・黄色以外の塗装色を採用。夜間の照明は最小限とし、動植物への影響の少ないナトリウム灯を使用。騒音の発生する機械は建屋で覆い防音対策を実施。
 このように種々の環境保全対策を実施し、国立公園内のダム建設に取り組んでいる。





施工中に大震災、豪雨災害を体験した広神ダム

―――地域に喜ばれるダム造りを目指して

ハザマ・清水・福田特定共同企業体
広神ダム出張所 所長 冨森  淳(株式会社間組)

▲完成予想図
▲広神ダム 右岸より堤体を望む(平成21年5月末)

1.まえがき
 広神ダムは、一級河川信濃川水系破間川支川和田川の新潟県魚沼市小平尾地内に建設される堤高80.5m、堤頂長225.0m、堤体積315,700m3の重力式コンクリートダムで、洪水の調節、流水の正常な機能維持及び発電を目的とする多目的ダムです。
 工事は平成13年3月に着工し、平成16年6月にコンクリート打設を開始して、平成20年8月上旬にコンクリート打設完了しました。打設は15.5t固定式ケーブルクレーンによる拡張レヤ工法で実施しました。現在、試験湛水に向けて周辺整備工事等を鋭意施工中です。
 広神ダムは本体コンクリート施工中の平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震の本震(17時56分発生、M6.8)震央から約10.5km、最大余震(18時34分発生、M6.5)震央から約4.3kmに位置し、ダムサイトが強い地震動を受けたものと推測されました。地震後は一時的な工事中断を余儀なくされましたが、各種調査と対策工を実施し、平成17年6月にコンクリート打設を再開しました。
 また、平成16年7月の新潟・福島豪雨、平成17年6月の梅雨前線豪雨、同年8月の集中豪雨により、河川水が上流仮締切を越流し、堤体打設面上に土砂が堆積する等の被害を受けましたが、直ちに復旧作業を開始することで工事中断を最小限にしました。

2.施工にあたっての留意点
 広神ダムでは、品質確保、環境保全のためにいくつかの創意工夫等を実施しました。主なものを以下に示します。
@マスコンクリートの暑中コンクリート対策として、練混水への冷水使用、粗骨材への散水、細骨材貯蔵ビンへの散水等を実施しました。
A固定式ケーブルクレーンが主打設設備であるため、狭隘部打設用として大型シュートを設置したり、別途25tラフタークレーンを堤体内に配置したりしました。また、堤頂部打設用として桟橋上を左右岸方向に移動できるスプレッダコンベヤを設置して、コンクリート打設をしました。
B建設副産物対策として濁水処理設備他から発生する脱水ケーキ等をセメント系固化材で固化処理し、盛土材として有効利用しました。

3.地域に喜ばれるダム造り
 広神ダムでは、発注者と協力して現場見学会等の実施や地元行事への参加を積極的に行い、地元の方々とのコミュニケーションを図ることでダム工事に対する理解を深めていただき、円滑な工事進捗に協力していただきました。今後も工事内容の伝達発信等を積極的に行い、地域に喜ばれるダム造りを目指して、平成22年度の完成まで鋭意努力してまいります。





集中豪雨や震災にもめげずにいよいよ着工

前田・東急・植木特定共同企業体
鵜川ダム作業所 所長 水野 秀雄(前田建設工業株式会社)

▲鵜川ダム完成予想図

 鵜川ダム本体建設工事を施工する前田・東急・植木特定共同企業体所長の水野秀雄です。平成16年の着工以来鋭意施工して参りました仮排水路トンネルへの転流を平成19年12月に実施し、平成20年度より本体基礎掘削を行っております。
 その間、平成16年17年と続いた集中豪雨、平成16年10月の中越地震、平成19年7月の中越沖地震という二度の大地震を経験いたしましたが、「工事の安全・地域との融和・環境保全」をモットーとして無事に工事を進めております。
 工期が平成30年までと長いため、地域に伝わる重要無形民俗文化財「綾子舞」等の理解を深め、地域と連帯していくとともに、今後も「清流鵜川の環境保護」に努め工事を進めてまいります。


HOME