建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年7月号〉

interview

大きな効果を発揮する地下調節池に期待(前編)

降雨特性を把握して適切な治水対策を推進

東京都建設局 河川部長 野村 孝雄氏

野村 孝雄 のむら・たかお
昭和47年3月 京都大学交通土木工学科修士課程修了
昭和47年4月 東京都採用
昭和63年4月 第三建設事務所工事第一課長
平成4年4月 都市計画施設計画部施設計画課長
平成7年9月 第六建設事務所副所長兼工事課長
平成11年6月 株式会社ゆりかもめ建設担当部長
平成12年8月 港湾局離島港湾部長
平成16年8月 建設局企画担当部長
平成17年7月 建設局河川部長
東京都内には、127河川があるが、治水対策の必要な河川での護岸整備率は60%に止まっている。都では財源に制約がある中、整備率を上げるべく事業を進めているが、その間にも豪雨は待ったなしで容赦なく来る。しかも、高度に土地利用が進んだ過密都市だけに一旦浸水するとその被害の程度は大きなものとなる。都民はそうした緊張感の中に暮らしているが、都道環状7号線の地下に整備された地下調節池は、水害被害の軽減に大きな効果を発揮しており、今後も期待が寄せられている。都河川部の野村孝雄部長に、都内の治水整備の状況などについて伺った。

▲護岸の整備(神田川文京区関口付近)
――昨年は、都内西部の都市で浸水被害が見られましたが、近年の被災状況は
野村
近年、東京都で短時間かつ局地的な集中豪雨が頻発しています。こうした豪雨は、現在進めている治水施設の整備水準を上回ることも多いために、浸水被害が発生しています。例えば、平成11年8月の集中豪雨では、時間最大115mmを記録する豪雨により、港区など区部中心を流れる古川などで、浸水家屋約5,000戸という被害が発生しました。また、17年9月4日にも、夕方から5日の未明にかけて大規模な集中豪雨が発生し、妙正寺川や善福寺川の流域では大規模な浸水被害があり、中野区や杉並区などを中心に6,000戸以上が被災しました。
歴史的に言いますと昭和33年9月の狩野川台風では、時間雨量76mm、総雨量444mmという未曾有の豪雨をもたらし、都内の中小河川は各所で氾濫しました。
この台風により東京都内では、浸水面積211km2、被災家屋46万棟に及ぶ被害を受け、被害額は1千億円に達しており、これが中小河川の洪水被害としては最大のものとなっています。
――過密状態の首都圏では、それだけ被害が大きくなるので、早急な治水対策が必要ですね
野村
先の狩野川台風を契機として、いわゆる都市型水害に対応する中小河川の改修整備が本格的にスタートし、河川の拡幅による護岸整備や分水路、調節池の整備を進めてきていますが、それでも平成11年の集中豪雨、平成17年の台風14号に伴う集中豪雨などにより、浸水被害が各所で発生し、一層の整備促進が求められています。
妙正寺川・善福寺川については、昨年の被害を受けて、緊急かつ重点的な河川の整備を実施するために、河川激甚災害対策特別緊急事業の採択要望書を国土交通省に提出し、昨年11月18日に採択されました。今後、平成21年度までの5ヵ年で護岸整備などを重点的に進め、災害の再発防止を目指していきます。
また、近年の局地的な集中豪雨の地域的な偏りなど降雨特性を明らかにしたうえで、河川、下水道、流域の貯留浸透施設など総合的な治水対策を推進することが求められています。このため、都市整備局、下水道局と連携して豪雨対策基本方針を策定することとし、この取り組みを都の平成18年度重点事業に位置づけました。
基本方針の中では、集中豪雨の頻発地域や浸水被害多発地域などを重点エリアとして設定し、河川、下水道施設、流域貯留浸透施設の重点的な整備を行うほか、建物の地下室など設置の規制なども検討していきたいと考えています。
大まかに言って整備対象水準の時間50ミリを上回るような豪雨の場合でも、少なくとも床上浸水だけは防ぐ、といった認識でいくべきかなと思っています。
――都内には、どれくらいの水系と中小河川があるのでしょうか
野村
水系としては、多摩川水系、鶴見川水系、荒川水系、利根川水系、そして海へ直接注ぎ込むその他の水系に分類されます。都内には127河川、総延長は890.5kmのうち一級河川は92河川、二級河川は15河川、準用河川は20河川という内訳です。
また、地形によって分類するなら、都内の地形は東西に長くひらけており、大きく三つに分けられます。西部の山地と、武蔵野台地と呼ばれる中央部の台地、そして東京湾に接する東部の低地です。都では東部の低地を流れる河川を「低地河川」、区部山の手や多摩地区の大地を流れる河川を「中小河川」とよび、それぞれに適した事業を進めています。
――それぞれの整備の概要はどうでしょうか
野村
中小河川では、洪水による水害の危険から都民の生命とくらしを守るとともに、うるおいのある水辺環境の形成をはかることを目的としています。先程も述べましたが、現在は、一時間に50mmの降雨に対して河川の溢水が起こらないよう、護岸や分水路、調節池など河川施設の整備を進めています。
隅田川など東部の低地河川では、高潮からまちを守るため、高潮防御施設の整備を進めています。また、大地震にも耐えられるように堤防、護岸などの耐震強化を行っています。さらに、まちづくりと一体となって、スーパー堤防などを整備し、地震に対する安全性と水辺環境を同時に向上させております。
――昨年も浸水被害が見られたのは、整備が追いついていないのでしょうか
野村
中小河川の改修には用地買収も必要であり、洪水に対する流下能力の向上が必要な46河川、計画延長324kmのうち193.7kmが完成しており、整備率は60%にとどまっています。
しかし、高田馬場分水路をはじめとする分水路7箇所、環状七号線地下調節池など調節池25箇所が供用中であり、水害の軽減に効果を発揮しています。
また改修に当っては都民が水辺に近づけるよう緩傾斜型の護岸にするなど、親水性に配慮した整備にも努めています。
特に多摩部においては、洪水を安全に流下させるとともに、上流域に残された貴重な河川環境に配慮し、旧河川敷を利用して水生生物の生息・生育環境を保全したり、人々が親しめる空間の確保を行い、治水と環境のバランスのとれた整備に努めています。
――今後、重点的に整備すべき河川として、神田川水系以外でどこかありますか
野村
大規模な整備が必要な河川として古川があげられます。古川の護岸は大正から昭和初期にかけて整備されたものの、流域は早くから都市化が進んだこともあり、近年はいわゆる都市型水害が頻発しています。例えば、平成16年10月の台風22号では地下鉄南北線の麻布十番駅が冠水し、地下鉄が運休するという事態になってしまいました。こうした状況から、古川の抜本的な治水対策が必要です。
しかしながら、古川の場合は、河川沿いにまでビルや首都高の橋脚などが建ち並んでいることから、河道拡幅による整備が困難な状況となっています。そのため、地下調節池など、最も効果的な整備手法の検討を進めているところですが、とりあえず来年度は、選定した整備手法について、水理模型実験など具体的な検討を進めていく予定です。
▲護岸の整備(空堀川東村山市内)
――問題は、財源の確保ですね
野村
そうです。河川の総事業費は、4年度がピークで1400億円でしたが、その後は減少が続き、現在は半分以下の約600億円となっており、整備の進捗に支障が生じています。さらに、三位一体改革などによって国からの補助金も厳しい状況であり、18年度も前年度比で約0.95となっています。
今後とも首都東京でまだまだ河川整備の必要性が高いことを、様々な形でprして行き、財源の確保に努めていきます。
また限られた予算で効果的に事業を進めていくため、今まで以上に河川整備の重点化を図っていくことも必要と考えています。
――豪雨は、そうした財政状況にお構いなしに発生するので、治水対策は待ったなしですね
野村
そのとおりだと思います。昨年9月4日の水害は、6,000棟を越える浸水被害が発生した訳ですが、整備目標を大幅に越える降雨によるものです。最近100ミリを越える降雨が増加していると言われていますが、この9月4日は3時間で200ミリを越え、かつその降雨範囲も相当広く、東海豪雨に近い規模のものであったと言えます。このような雨が毎年降るとは考えにくいとは言え、今年も来ないという保障はありません。従って、先程も申し上げたように、河川激甚災害対策特別緊急事業を着実に進めると共に、「東京都豪雨対策基本方針」を策定していきます。また情報提供などのソフト対策の充実を図ることも重要と考えております。
(以下次号)

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