建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年6月号〉

interview

道路もルネッサンス期へ突入

既存のイメージに拘らない施策の展開を実現

国土交通省 道路局長 谷口 博昭氏

谷口 博昭 たにぐち・ひろあき
昭和23年8月1日生
和歌山県出身
昭和47年 東京大学工学部 卒業
昭和47年 建設省入省
平成3年4月 建設省大臣官房技術調査官
平成6年4月 建設省道路局企画課道路環境対策室長
平成7年4月 建設省道路局国道課道路整備調整室長
平成7年11月 国土庁計画・調整局調整課長
平成10年11月 建設省道路局高速国道課長
平成11年7月 建設省道路局企画課長
平成13年1月 国土交通省道路局企画課長
平成14年7月 国土交通省近畿地方整備局長
平成16年7月 国土交通省道路局長
旧日本道路公団等が民営化されて後、公共事業費が削減されるだけでなく、今日では道路特定財源の一般財源化と、事業のスリム化を求める議論も起こっているが、そもそも道路というインフラの資産価値を、交通需要の度合いだけで計ることは得策だろうか。古来より社会資本として、産業だけでなく文化や文明の発達のカギを握ってきた道というもののあり方について、国土交通省の谷口博昭道路局長は「道路ルネッサンス」をキーワードに、道路を「みち、道、路、美知、未知」と様々な道の思想的側面を捉え直す必要性を説く。同局長に、今年度の施策と、その背景にある道の思想について語ってもらった。

――今年度の事業予算はどんな施策分野に重点配分されましたか
 谷口
今年度の施策のポイントは、橋梁の耐震補強など防災、減災と、交通事故などを防止するための安全対策、co2削減などの環境対策、そして大都市圏のネットワーク整備などによる活力向上や景観対策などが重点です。 防災面では、大規模災害時に、救助・救援活動や、緊急物資輸送を行う緊急車両が通る緊急輸送道路の橋梁や、新幹線や高速道路を跨ぐ跨線橋・跨道橋など、特に耐震補強が必要な橋梁について耐震補強3箇年プログラムを進めており、平成19年度までには耐震補強をほぼ完了させていく予定です。同時に、緊急輸送道路沿線にある老朽建築物の倒壊を防止し、災害時における緊急輸送道路の機能を確保するため、沿道建築物の耐震改修なども支援します。 特に、新潟の中越地震では、道路が寸断されて救援物資の輸送はおろか、避難路も確保できずに地域が孤立してしまいました。そうした事情を解消するためにも、緊急輸送ルートとしてのバイパス整備も必要です。
また、豪雪地帯であるために、地震による地盤崩壊の上に、例年にない豪雪が追い討ちをかけて住宅などへの被害を拡大し、また積雪で通行が確保できずに孤立しました。そのため積雪寒冷地での除雪や防雪、あるいは凍結による雪害を防止する事業を重点的に推進しています。
一方、昨年は地震による津波災害が世界的なニュースとなりましたが、沿岸部などでは津波対策として避難路等の整備を進めていきます。また、津波による浸水の可能性のあるエリアを回避する高規格幹線道路を整備したり、道の駅の防災拠点化を新規施策として推進します。
――昨年は台風も異常に多く、都市部では浸水も見られました
 谷口
豪雨などの異常気象の時でも通行を確保できるよう、道路の社会的信頼性を高めることも必要です。斜面対策や孤立化を防ぐバイパスの整備に取り組みますが、斜面対策は全国で10万カ所で必要なのですが、完成しているのは16年度時点で3万カ所程度でしかなく、進捗率はわずか30%に止まっているので、この対応を急ぎます。
また、幹線道路での事故対策はもちろん重点的に進めますが、生活道路においても歩道を広く確保するなど、安心して歩行できる空間の確保に努めます。昨年の交通事故による死亡者は、6,000人台に停まりましたが、それでも発生件数で見ると90万件に上り、死傷者数は100万人を越えていますから、安全になったとは言えません。
効率的に事故を減らしていくため、事故危険箇所や死傷事故率の高い区間を抽出して重点的に措置を施します。また、死傷事故発生割合の高い住居系地区又は、商業系地区でその外縁を幹線道路が構成する地域では、歩行者を優先する道路構造へと改良し、「あんしん歩行エリア」として整備していきます。 これらの対策を通じて、目標としては今年度中に1億台の自動車で1q当たり110件に減らし、来年度には108件まで減らしたいと考えています。 その他、近年では都市部で開かずの踏切で事故が発生するケースも見られましたが、こうした実情を解消するために踏切対策も急いで進めていきます。連続立体交差事業などの「抜本対策」と歩道拡巾などの「速攻対策」への両輪で実施する方針です。
――時間帯によっては、横断は諦めた方が良いと思われるような地域もありますね
 谷口
全国におよそ36,000箇所の踏切がありますが、ピーク時に40分以上も遮断される踏切は約600箇所に上ります。それも含めて、緊急対策を要する踏切は約2,100箇所もあるのです。そのため、取りあえず「開かずの踏切」などの踏切約1,300箇所で重点的に速効対策を進めることにしています。 その際、我々は「賢い踏切」と称していますが、急行列車や各停列車などの速度を検知して、警報開始時間を最適化するシステムも導入していく考えです。また、自動車の通行の多い踏切などは連続立体交差事業のような抜本対策について、これまでの2倍のスピードで実施していく方針です。
――環境対策もかなり高度なものが求められるようになりましたね
 谷口
京都議定書の達成計画では運輸部門においてco2排出量が250百万t/年とするなど、2008年から2012年までの平均値を1990年に比べてマイナス6%にするように目標が設定されています。日本の排出するco2のうち、運輸部門の排出が20%を占めており、中でもその90%は自動車の走行によるものです。  しかし、現実には自動車交通需要が拡大しており、それに伴って渋滞も深刻な状況にあります。
――狭い国土で自動車保有台数が多いとなると、どんな対策も間に合わないのでは
 谷口
ポイントは、渋滞の解消によって走行速度を上げていくことです。大都市圏で走行速度が20キロ前後というのは、日本だけで、それほどの道路網の不足と渋滞の激しさを物語っています。渋滞解消のためには、渋滞ポイントとなる交差点の立体化と、踏切の解消などを進めていくことが重要です。24年度までには1,800箇所の交差点と、540箇所の踏切を立体交差化していく方針です。
また、首都圏の中央環状、外環、圏央道と三環状の整備を急ぎ、20年代中には完成率を約8割にまで高めたいものです。これによって、渋滞による時間的損失を減らしていく方針です。
高速道路では、環境負荷の軽減や料金所での通過時間を減らすために、etcの普及促進に努めます。そして、自動車の燃費の改善も必要ですね。
――都市部においては、特に緑地確保が理想的ですね
 谷口
盛土ののり面などに植樹し、道路の緑化を積極的に進めると同時に、ヒートアイランド対策として、路面温度を低下させる効果のある保水性舗装などを採用し、さらに太陽光や地熱を利用した照明施設や融雪施設を導入していこうと考えています。
大気汚染状況は全国的に改善傾向にあるものの、局所的に厳しい状況にある箇所については、交差点改良などのボトルネック対策などを進めます。併せて低公害車の普及促進のために、低公害車導入に対する補助や燃料供給施設の設置に対する支援を行います。また、騒音基準を上回っている地域については、低騒音舗装や遮音壁の設置を進めます。
また、道路は通行という機能だけではなく、都市景観の向上にも寄与しています。美しい景観や活力ある地域をつくるために、日本風景街道(シーニック・バイウェイ・ジャパン)を進めています。これは地域にある自然、歴史、文化、風景、資産などの資源を最大限に活用し、その魅力を引き出す道づくりで、地域の再生を支援するという道の担ってきた役割を再生するという趣旨のものです。例えばnpoと協力して、地域の調査計画を行政として支援しそれに基づく植栽、駐車場整備、標識設置などのハード事業に協力するといったプロジェクトで、すでに 全国72のルートを応募頂いております。今後、日本風景街道戦略会議(奥田前経団連会長)において応募頂いたルートの活動内容を調査し、日本風景街道理念・仕組み・制度の検討を進めます。
(以下次号)

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