建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年7月号〉

interview

まちの起源たる巷(ちまた)を形成する「御ち」の文化

道路特定財源は国際情勢と御ち(道)の文化を踏まえた論議を

国土交通省 道路局長 谷口 博昭氏

谷口 博昭 たにぐち・ひろあき
昭和23年8月1日生
和歌山県出身
昭和47年 東京大学工学部 卒業
昭和47年 建設省入省
平成3年4月 建設省大臣官房技術調査官
平成6年4月 建設省道路局企画課道路環境対策室長
平成7年4月 建設省道路局国道課道路整備調整室長
平成7年11月 国土庁計画・調整局調整課長
平成10年11月 建設省道路局高速国道課長
平成11年7月 建設省道路局企画課長
平成13年1月 国土交通省道路局企画課長
平成14年7月 国土交通省近畿地方整備局長
平成16年7月 国土交通省道路局長
我が国の道路整備は、ワールドワイドの視点から見れば、まだ不十分であり、しかも急成長著しい中国の追い上げもあって、整備の手を緩めるわけにはいかない。さらに、新設路線も既存ストックも含めて、国交省道路局としては、街が形成される起源となった道のもつ歴史性や文化的背景と思想を見直し、新たな視点での政策展開を目指している。前号に引き続き、谷口博昭局長に今後の高速道路網整備への取り組みと、道の文化と思想を伺った。

――高速道路は、日本道路公団が特殊法人から株式会社へと体制が変わりましたが、料金体系と整備は大幅に変わってきたのでしょうか
谷口
昨年10月に民営化しましたが、料金については民営化のメリットを国民に還元するため、etcを利用した割引制度により、高速自動車国道については、平均して1割程度の値下げを実施しています。管理コストについては、17年度予算の時点で、14年度より3割減を実現、民間企業の経営ノウハウを生かした経営がなされています。
今後の整備については、有料道路方式と新直轄方式を組み合わせて整備します。また、新会社が建設する一般有料道路についても、我々の行う直轄事業と連携して整備します。 
――不採算路線と批判されている地方の高速道路を、どう再生しますか 
谷口
有効利用されていないのは、インターチェンジ間の間隔が長すぎたり、料金が画一的であるなどの理由がありますが、これらを見直すことが必要です。そこで、saやpaに接続するスマートicの導入を本格化し、料金所をスムーズに通れるように改善します。
料金体系も、早朝夜間割引やマイレージ割引を導入したり、一般国道と並行する区間などの割引も、社会実験をしながら検討していきます。
また、高度医療や消費、レジャーなど都市型サービスの広域利用を可能にするため、緊急車専用の退出路を整備し、隣接する中心都市をつなぐ区間の連絡道路網を強化します。中心都市と言っても、近年は市町村合併が進められているので、それを支援する意味でも特に合併市町村の拠点を連絡する道路の整備を重点的に行います。
その他、港湾との連絡も強化していきます。重量が44トン高さ4.1mになる国際標準コンテナ車が、各地の重要港湾と大規模物流拠点とを積み替えなく通行できる国際物流基幹ネットワークを構築します。特にスーパー中枢港湾に係るボトルネック区間については、概ね5年以内の解消を目指すこととしています。icから拠点的な空港、港湾への10分アクセス整備率についてもさらに向上を図ってまいります。
――道路特定財源を一般財源化すべしとの主張があり、論議が起きていますね
谷口
かつて、70年代から80年代にかけてレーガン政権だったアメリカでは、財政の悪化と経常収支の低迷から、国内のインフラは落橋や通行止めが頻発し、荒廃するアメリカと呼ばれましたが、その教訓からインフラに投資して、橋梁の危険率は4割にまで低減しました。
一方、経済成長率が9%代で推移している中国などは、国際競争力が高まりつつあることから、日本経済にとっても脅威となっていますが、高速道路の整備がこの10年で日本の約10倍以上のペースで進んでいます。欧米は中国ほどではないにしても、整備率は現在も着実に上昇しています。
我が国の国際競争力の確保のためにも、真に必要な道路整備は進めていく必要があると思います。

――道路は、単なる交通手段のみでなく、活用によって様々な展開が可能ですね
谷口
道路の持つ役割は多様であり、整備された空間の管理・運用においては未知数の可能性があります。例えば、ある区間を歩行者に解放し、歩行者天国にすれば人々が集える広場としての場を提供出来ます。そこで様々なイベントが行われれば、感動を共有し合える場にもなります。道の駅なども、近年では地域が様々に企画して、地域情報の発信や観光ビジネスに有効活用していますが、工夫次第ではさらに新たな活用も可能です。
私は、道路ルネッサンスと呼んでいますが、本格的な道路整備がスタートしておよそ半世紀が経過し、厳しい経済情勢の中で道路の持つ役割というものを最大限に発揮させていかなければなりません。近代的で合理的な思想、科学、文化などが萌芽した文芸復古のルネッサンス期として捉え直すべき時期だと考えます。これによって、道路をパブリックスペースとしての機能をフルに発揮し、快適な環境と暮らしを実現するため、沿道地域と一体となって、従来の道路としての枠に拘らない施策の展開が必要です。
――道路を「みち、道、路、美知、未知」と様々に呼ぶのは、そうした思想的背景があるのですね
谷口
「みち」という言葉は、「あっち」、「こっち」という方向を示す「ち」に「み(御)」が付いて神々しい名前となっています
「ち」の「また」、即ち交通結節点というべき「ちまた(巷)」は、にぎわいの場や市場であり、「ちまたのにぎわい」によって、やがて「まち」や「市」ができあがってきました。
このように、我が国の「まち」、「地域」は「みち」によって形成されてきました。これが、欧州は「広場の文化」と言われるのに対し、「我が国は「みちの文化」、「街道の文化」と言われる所以だと思います。

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