建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年5月号〉

interview

財政再建“人件費削減に配慮”公共投資で歳入拡大

公共事業入札制度の改善を実現

札幌市建設局長 波田 正明氏

波田 正明 なみた・まさあき
昭和22年6月8日生
昭和46年3月 北海道大学法学部卒業
昭和46年4月 札幌市総務局市民部戸籍課
昭和57年5月 札幌市北区総務部総合窓口課戸籍係長
平成3年7月 札幌市総務局国際部課長職
平成7年6月 札幌市都市局開発部再開発担当部長
平成8年4月 札幌市総務局国際部長
平成10年4月 札幌市企画調整局企画部長
平成13年4月 札幌市北区長
平成14年4月 札幌市経済局長
平成16年4月 札幌市下水道局長
平成17年4月 札幌市建設局長
永年の都市整備の課題だった創成川通アンダーパスと札幌駅前通地下歩道の整備がいよいよスタートした。半年間は冷凍した大地と暴風の吹きすさぶ荒んだ気候の積雪寒冷地にあっては、地下空間は市民にとってはシェルターとなる非情に貴重なスペースだが、当時の駅前通はオフィス街であり、民間事業などからの大きな盛上がりは無く、市民の長年の悲願は実現しないまま凍結されてきた。それが、ようやく工事着手にこぎつけたことで、半死半生で冬眠状態の札幌経済にも息吹きが戻り、春風が吹くものと期待される。特にこれらの都市再整備が、さらに民間投資や再開発の呼び水となる期待が持たれ、関東以北で最大規模の北の大都にも、ようやく冬眠から目覚めさせる活発な槌音が響き渡ることになる。
――新年度予算の執行を迎えて、新施策のアピールポイントは
 波田
やはり駅前通地下歩行空間と創成川通アンダーパス連続化が大きいですね。いよいよ工事が本格化してくることがアピールポイントで、その他にもjr白石駅周辺整備事業など、18年度はようやく夢のあるインフラ整備事業が動き出すことになります。
――全市を見わたしたときに、道路ネットワークはある程度概成しているとみて良いでしょうか
 波田
概成とは私たちの立場からは言いにくいのですが、都市の骨格としてのネットワークは概ね水準に達していると考えています。あとは道路の効率性と、まちづくりへのインパクト、そして環境の問題が課題としてあります。ここが非常に大事なところで、現在着手している創成川通アンダーパス連続化と駅前通地下歩行空間は、ともに自動車交通の円滑化だけが目的ではなく、その後に続くまちづくりに大いに期待したいところです。それがあってはじめて有効投資となり、整備した意味が出てくるものと思います。 昭和47年の冬季オリンピック開催時では、そうした効果がかなり大きく見られ、まちづくりを10年も20年も先取りしたと言えるでしょう。大きな都心改造事業としては、そのオリンピック以来のことであり、両事業とも都市再生プロジェクトという国家的プロジェクトに位置づけられており、国と札幌市の連携事業としてもオーソライズされています。 これらに伴って、関連開発の動きが表面化してきたならば、経済効果の測定なども実施したいと考えています。予想では、かなりの民間設備投資が誘発されてくるでしょう。例えば、完成すれば人が集まって買い物などをすることで消費の拡大が促され、大体年間230億円の経済波及効果があると試算しております。さらに、建設時のみの投資による効果としては約320億円の効果を試算しております。
――オリンピックを機に、都市インフラの完成に注力したのは、正しい方向性でしたね
 波田
かつては、例えば下水道がなく、降雨によって浸水する地区もありました。しかし、下水の普及と同時にそうした実態もだんだんと消えていきました。下水道整備はオリンピックが過ぎてからも根気よく継続しましたが、当時の板垣市長はたとえば「人口膨張時においての都市基盤整備としては後追い的だ」と批判され、道路市長、下水市長などと揶揄されてもじっと我慢して、とにかく道路網の構築と下水道整備については徹底的に取り組んだのです。
――それが今日の近代的で衛生的な都市生活を享受できる結果となったのですから、正しい投資の仕方だったと言うべきですね
 波田
そうです。都市の発展段階のひとつの時期ではあったのですが、やはりそれに取り組んで良かったと思います。また、当時は人口が増えていたので、多少の予算も回収できた状況でもあり、そのお陰で資産が今でもしっかり残っています。
▲創成川アンダーパス連続化事業 完成イメージ図
――地下鉄整備以来の大規模な都心再生事業となる駅前通地下歩行空間、創成川通アンダーパス連続化も本格化しますが、創成川通のアンダーパス連続化事業の概要からお聞かせ下さい
 波田
創成川通は、札幌のシンボル的な南北都市軸ですが、本事業は南5条から南2条に至る南アンダーパスと、大通から北3条に至る北アンダーパスの2路線を結んで連続化し、自動車交通の円滑化を図るものです。 創成川周辺は、札幌の歴史的な遺産エリアでもありますので、都心環境の改善として緑地を確保し、親水性を高める空間として計画しています。これは最後のステージで整備が行われることになりますが、国道36号線から北2条通までの創成川の両サイドが緑地に生まれ変わることになります。 そのほか、創成川通には明治2年に木橋で架けられ、43年に石橋で造られた創成橋があるのですが、この事業にあたっては解体方法や将来の復元について「創成橋保存検討委員会」を設けて検討を重ねてきました。その結果、札幌は歴史の若い街とはいえ、それでも貴重な歴史的な資源ということで、創成橋は保存することになりました。特にこれまでの調査の結果、日本橋と同じ工法で造られたことが判明し、しかも下部のアーチ部分のほとんどは札幌軟石が用いられており、その外側で止めている石も、風化に強い札幌硬石が使われています。今後、復元の方向性が見えてきた時点でprしていきたいと考えています。
――地元住民の反響などはいかがですか
 波田
復元にあたっては地元町内会、沿道商業者方々のご意見も伺いながら進めていく予定です。やはり石橋ですから、そのまま車を通行させるのは耐震対策上からもクリアすることは難しいです。使っても歩行者専用の利用が妥当かなと考えていますね。歩道やちょっとした広場のようなかたちにするか、そのあたりを検討しているところです。 ここに一つの魅力が生じて、東側の開発にはずみがつくことを期待しています。小なりといえども「川の向こう」という疎遠なイメージは何とか払拭したいですね。目と鼻の先でありながら、やはり分断されている土地勘が強烈に強いと思うのです。この事業が完成すれば、地上の側道は残りますが、約半分の車は地下に分離されるので、人が自由に行き来出来るようになります。
▲札幌駅前通地下歩行空間 完成イメージ図
――今後、東側に向けて大通公園の延伸も考えられるのでは
 波田
構想としては将来の動きを見ながらということになると思います。大通公園東側の再開発構想は、古くからあるのですが、北電、nhkなど主要事業者の事情もあり、なかなか動き出せずに来たので、このアンダーパス事業が契機となって、何らかのインパクトをもたらすことを期待しています。東側、西側の両側のまちづくりに刺激を与え得るものでなければ、ならないと考えます。
――両事業の施工に当たっては、何らかの特殊技術や施工法は見られますか
 波田
施工は通常の開削トンネル工法で進めています。創成川通の場合はトンネルが浅いので、天井部分には通常のコンクリート打設ではなく、プレキャストというコンクリート版を乗せる工法を採用しています。駅前通地下歩行空間の場合では、既存の地下鉄躯体の上にかぶさるようなかたちになります。下に足のような部分が出ていますが、これはエネルギー供給用のピットで冷熱と温熱の両方のパイプが入るスペースです。このエネルギーネットワーク事業自体も、都市再生プロジェクトの一環となっています。 なお、創成川通では既存のアンダーパスの閉鎖に伴い、片側2車線でしか通行できず大変ご迷惑をおかけしていますが、夏頃には覆工板を敷設して、片側4車線で通行が可能となります。工事期間中は交通混雑を緩和するため、できるだけ他の道路をご利用していただくようお願いしております。
――地盤的な問題点は
 波田
幸いにして地盤は非常に良く、むしろ良すぎて玉石などが出土するので、杭打ちの時には地盤を軟らげながらでなければ、杭が立てられないほどです。地下水は最深掘削面ぎりぎりのところを流れていますが、水圧的には問題はありません。当初は上部掘削により、水圧の変化で地下鉄が浮いてしまうのではないかと懸念されましたが、調査の結果、問題はないようです。
――工事で掘り返した残土の有効活用などは
 波田
環境局のゴミ処分場の基盤材として利用します。厚別区の山本東地区などは、特に地盤が悪いため、処分場の埋め立て用地ですが、基盤を強固にする必要があるので、残土を有効活用していくこととなります。
(以下次号)

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