建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年6月号〉

interview

ようやく始まった札幌都市再生への動き〜

創成川通アンダーパスと駅前通地下歩道が民間開発の呼び水に

札幌市建設局長 波田 正明氏

波田 正明 なみた・まさあき
昭和22年6月8日生
昭和46年3月 北海道大学法学部卒業
昭和46年4月 札幌市総務局市民部戸籍課
昭和57年5月 札幌市北区総務部総合窓口課戸籍係長
平成3年7月 札幌市総務局国際部課長職
平成7年6月 札幌市都市局開発部再開発担当部長
平成8年4月 札幌市総務局国際部長
平成10年4月 札幌市企画調整局企画部長
平成13年4月 札幌市北区長
平成14年4月 札幌市経済局長
平成16年4月 札幌市下水道局長
平成17年4月 札幌市建設局長
――もう一つの顔となる駅前通地下歩行空間の整備計画の概要は
 波田
札幌は現在、商業圏が駅周辺地区と大通・すすきの地区に二極化している状況ですが、駅前通の地下に、気候や天候に左右されない地下歩行空間が完成すると、札幌駅からすすきのまで一貫した流れが生まれます。これはオールシーズンで都心部の歩行者の回遊性を高めると同時に、民間の設備投資へもインパクトを与えることから、オリンピック時に建てられた沿道ビルの建替工事が誘発され、まちづくりを活性化する効果も期待できます。
 札幌の歩行者ネットワークは、地下街もあれば狸小路のようなアーケードもあり、それらとの組み合わせによりネットワークができれば、都心エリアが広がり、回遊性が高まるでしょう。
――地下歩道が完成すれば地下鉄の乗客が減る懸念はありませんか
 波田
それほど影響はないと思います。札幌駅〜大通駅間の利用者には若干影響はあるかもしれませんが、以前に北海学園大学の工学部の方が研究されていたように、都心全体の回遊性が高まれば、都心を訪れる市民が増えると試算しております。都心全体の魅力を高める取組みにより、多くの人が集まるようになると、郊外から都心への人の移動が増え、地下鉄全体の利用の増加が期待できます。
――以前に、jr札幌駅南口再開発を担当したjr担当責任者が、札幌は駅と中心部が離れた旧式の都市構造だと指摘していましたが、開発によって一体化しつつある状況なのですね
 波田
この整備で、より一体化が促進されると思います。今は大通商圏と駅前商圏がライバルの関係にあるような状態ですが、相乗効果で最後はすすきのまで連担されることを想定しています。  実際に、狸小路商店街でも再開発の動きがあります。これによって人の流れが変わりつつあり、商圏の一体化に向けては、理想的な動向になっていると思います。
――かつて電線の地中化を進めていた頃には、沿道のビルにセットバックを促し、歩道空間の拡大に力を入れていましたが、地上空間の確保から地下空間の有効利用へとステップが進んだのでしょうか
 波田
やはり全天候型の地下空間の方が、インパクトは強いと思います。現在、沿道ビルは28棟ありますが、正式に本工事と併せて地下空間に接続することを決定しているのは12棟です。
 すでに工事が先行しているビルもあり、その他の16棟についても人の動線の趨勢をみて決めようという動向です。そうした後付けの接続にも対応できるよう、構造上の配慮をしながら工事を行っています。
▲創成川アンダーパス連続化事業 完成イメージ図
――札幌駅前通で地下空間をつくる工事というのは地下鉄施工以来ですね
 波田
そうです。しかも地下鉄と併せてつくられたポールタウンと違い、既に地下鉄空間が存在しており、関連する事業者も上下水道、電気、ガス、電話、熱供給管など多岐にわたっているため、その間隙を縫っての施工となります。
地下埋設物が非情に輻輳し、その限られた空間で地下埋設物の移設処理をしなければならない上に、沿道にはビルやホテル、オフィス、商業施設がある中で、多方面にわたる調整をしなければなりません。この調整にも時間がかかります。また、ひとつの管を動かせば、全ての管に影響する場合もあり、本来は年度当初に工事発注の予定でしたが、当初想定した以上に時間がかかったので着工は秋にずれ込む予定です。
――国が各地で進めている共同溝を導入し、そこに一括して収めるのは無理でしたか
 波田
地下鉄と同時進行の施工であれば、可能だったと思いますが、30年後に掘り起こすことになるわけですから、そうはいかなくなってしまいましたね。
――構造的特徴は
 波田
地上と地下をつなぐスルーホールや出入口のつくり方にも工夫しています。地上からの自然光も取り入れ、地下からの光も地上に漏れて一体感を持たせています。
――地下商店街は形成されるのでしょうか
 波田
各ビルの地下に入居するテナント・店舗などは、地下街というかたちではなく、沿道ビル側に張り付け、懐を広く取って地下街風な商業空間を展開できるようにしたいと考えています。地下街のポールタウンのように、最初から店舗の部分を確保し、地下街としての形態で工事を進めると、コスト的負担がかなり重くなり、商業者はそれを負担してまで出店するのも難しいでしょう。
そこで沿道のビルと地下空間を繋ぎ、その顔出し部分に商業系施設の配置が可能な構造にします。
――再開発が盛んな東京都内では、再開発ビルの地下が独立型の商店街のような構造になっていますね
 波田
汐留再開発をイメージしてもらえば分かりやすいと思いますが、「商店街」ではありませんが、沿道ビルと非常に近接性が高く、商業空間らしい佇まいがありますね。あれほど華やかではないまでも、閉鎖的ではなく、いろいろな世代の人が受け入れられるような賑わい、憩いの空間をデザインしていきたいと思います。 今後、沿道の各ビル側の計画いかんによって変わってくると思うのですが、なるべく近いものになることを期待しています。
――長期的な展望としては、景況が回復し、経済的余裕ができた時点で本格的に地下街に転換することは可能でしょうか
 波田
沿道ビルの接続ポイントが違ってくるので、本格的な商店街の構造へ変更するのは、厳しいものと考えております。ただ、両サイドに軒を連ねるだけではなく、島式にワゴンを配置するというものはあり得るかもしれませんが、今後の検討課題となっております。
――この開発によって沿道整備再開発などが誘発されれば、新たな開発面積も確保できるのでは
 波田
そうです。開発という点で言えば、実はそれが大事で、駅前通の沿道接続ビルだけでは終わらせたくないと考えています。面開発まで誘発できれば最も理想的で、都心全体の街並も相当変わるものと期待しています。
――国、道、市の主要官庁が散在しているので、それら公共機関とのアクセスも重要では
 波田
そうですね。道庁へ向かう北3条通の交差点部を広場状態にし、少し広くスペースを確保し出入口を設ける予定で、赤れんが庁舎正面の銀杏並木あたりにアクセスできる計画にしているので、感覚的にはかなり接近性が高まってくると思います。
ただ、道路単独の事業としてはそこまでが限界なので、そこから先は民間での面開発が伴えば、その中で新たなアクセスツールも考えられると思います。何しろ、工期は長いので、そのうちにいろいろなアイデアが出てくることを期待しています。
――積雪寒冷地では、こうした地下空間は大変に貴重なスペースですが、豪雨の場合には地下空間が危険地帯となることも懸念されます。災害対策は十分でしょうか
 波田
地上の部分が冠水した場合でも、出入り口部分に水が入らないような高さにしておりますし、防潮堤のような施設もあり、防災面の配慮をしています。
――施工に当たっては、近年は工区をあまりにも細分化し過ぎたり、事業費を節約し過ぎて施工現場に過重な負担がかかっているケースも見られ、公共事業施工のもたらす経済波及効果が全く望めない事例も見られます
 波田
この工事費に対しては、賛否両論がありますが、そのバランスを上手く取っているつもりではあります。これだけの大規模工事ですから、杭打ちの機械や土木施工のための大型機械が入るので、工区割りにしても、それほど細分化はしていません。やはり、効率的な工区の切り方というものがあるので、合理的で不必要に高コストとならないよう工夫しています。したがって、実際にはかかるコストを無理矢理ダウンさせる考えはありません。
ただし、元々の設計上のコストは目一杯縮減し、効率性を高めることは考慮しています。無駄なコストを削減することは、当然必要で、実際にそれは行っています。例えば、両事業では大学の学識者や専門家からなる「デザイン検討委員会」を開催し、札幌市の都心としてふさわしい顔になるデザインをつくっていただいているところです。経費節減しながらも都市景観に配慮したもので質が高くローコスト、この両方を満たすことが汗のかきどころだと思います。
――その他の建設事業の展望は
 波田
現在、交通結節点改善事業としてjr白石駅周辺地区整備や、踏切対策として立体交差事業を行っており、渋滞になっている踏切ポイントを少しずつ解消する方向です。このほか、広域的な交通連携道路の工事などを不断に進めております。
――jr白石駅周辺地区における整備も必要ですね
 波田
南北市街地の一体化・活性化と乗り継ぎ利便性の向上を目ざすため、線路上に全天候型の通路いわゆる「自由経路」と、駅へのアクセスを高める「南北駅前広場」等の整備を進めることとなりました。すでに事業としては進めていますが、18年度は用地補償及び支障となる構造物の移設を行い、19年度からは本格的に工事をすすめてまいります。札幌市内では同様なかたちで、jr手稲駅周辺整備が完了しております。

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