建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年5月号〉

interview

財政再建“人件費削減に配慮”公共投資で歳入拡大

公共事業入札制度の改善を実現

北海道議会議員・建設委員長  丸岩 公充氏

丸岩 公充 まるいわ・きみあつ
昭和16年12月3日 台湾台中州に生まれる
昭和35年3月 道立本別高校卒
昭和39年3月 法政大学法学部法律学科卒
昭和39年4月 札幌市採用
平成3年3月 南区市民部長
平成6年5月 札幌市退職
平成7年4月 北海道議会議員初当選(札幌市南区選出)
平成11年4月 北海道議会議員2期目当選(無投票)
平成15年4月 北海道議会議員3期目当選(無投票)
<主な公職>
建設常任委員会 委員長
北方領土調査特別委員会 委員
自民党道連 組織委員長
北海道観光議員連盟 幹事長
北海道道路利用者会議 会長
北海道農業土木測量設計協会 顧問
北海道造園緑化建設業協会 顧問
かつて札幌市職員から自民党北海道議会議員へと転出した丸岩公充道議は、現在は建設委員長として、公共投資を通じての歳入拡大と財政再建の実現を目指している。自らが行政官としての長いキャリアを持つだけに、政治だけでなく行政実務にも通じていることから、いわば文武両道と言い得る立場にある。景況において全国に取り残された北海道の経済をどう立て直すのか、その道筋が見えづらい情勢下にあるが、同氏は五輪と新幹線と建設産業の三要素をもって北海道の生き筋を明快に展望する。
――札幌市職員から道議へと政界転出し、早くも3期が過ぎましたね
 丸岩
元は札幌市議会事務局に勤め、南区役所などにも配属されるなど、行政職員の経験があるので議員という職務には心得がありました。一期目には道庁不正事件の問題が発生しましたが、かつて行政側にいた者としては、その裏表の事情がよく見えていました。また、商工労働委員会副委員長に就任しましたが、その時期に拓銀が倒産したため、何度も当時の大蔵省、自治省、地元選出代議士のもとへ陳情、要請に行きました。そして当選当初は建設委員でしたが、三期に入った今では建設委員長を拝命しています。 この間、常に心がけてきたのは、定数110人の中の一人として収まるのではなく、発言力、説得力、実行力ある議員たることを目指してきました。
――建設業界は、談合問題や事業費の削減、入札制度改革、業界再編など様々に揺さぶられています
 丸岩
私は北海道開拓から始まり、今日までの北海道経済を支えている大きな基幹産業は、第一次産業もさることながら建設業であるとの思いを強く抱いてきました。しかし、北海道の入札・発注はいろいろと改正すべき点が多いですね。近年は落札価格が、かつては適正価格の95%で落ち着いていたものが、80%に減少しています。それによって、15%分の事業予算が浮いたと喜ぶかもしれませんが、黒字の収入を得られる施工会社などはないのです。請けたところで収支は赤字で、その負担を元請け一社で負うのではなく資材会社への支払い、下請けへの発注価格、労賃などに反映することで吸収しているわけです。しかし赤字であっても、事業量の減っている情勢だから、無理にも請けなければならず、このためにダンピング競争が行われています。 建設業を支援する私としては、それでは税収は上がらないことを当時の堀知事に説得し、ランダムカットという入札方法が廃止されました。施工会社は、今まで毎年1億円の工事を確保していたものが、今後は受注できる保証がなくなるため、人件費の高い職員に退職してもらうしかなくなり、リストラが増えてしまいます。そのために失業率も全国一のレベルとなる一方で、就職の間口も狭くなりました。 全国的な不景気の影響もありますが、北海道の場合は建設業界の不振とダンピングが、特に大きな影響を与えました。そのため、建設危機という局面を何とか変えなければならないとの思いから提言し続けたのです。 しかし、その一方では、相変わらず談合問題も発覚し、その対策も考えなければなりませんが、談合は業界の問題であって、行政の問題ではないのです。とはいえ談合をすれば刑事罰を問われ、役所側の信用も失います。いずれにせよ、建設業界が北海道経済を左右し、その浮沈のカギを握っている重要産業であることは確かです。
――公共事業に予算を無駄遣いしているという世論の批判に圧されて、発注者が必要以上に見積もりを抑制しすぎているとの印象もあります
 丸岩
公共事業には会計検査院で承認されている適正価格というものがあります。それを下回る限りは、適正価格の範囲での競争をしていることになります。新聞などは、予定価格の90%での落札は談合の結果ではないかと追及しますが、まともな競争の結果であれば、95%であろうと97%であろうと、問題はないのです。問題は赤字が出るような工事を請けさせることにあるのです。建築というものは釘一本まで単価が決まっているので、まともに積算すれば、概ね役所の適正価格と同じ数字が算出されるものです。そして、建築工事での利益率は3%から5%、土木も5%前後と言われますが、その範囲でお互いを見ながら競うわけです。そうした利益があるからこそ納税もでき、安定した雇用もできるものです。 ところが、その利益をはるかに下回る20%代でダンピング競争をしていたのでは、どこにも利益は計上されないのです。負担は関係する全業界にしわ寄せされるので、全業種が赤字で施工しなければなりません。それでも、工事がないから、無理をして受注するわけです。そんなことを行政が企業にさせて良いのか、というのが私の問題意識です。 最近は姉歯建築士の耐震偽装事件が注目されていますが、このようなダンピングをしていれば建築だけでなく、土木工事でも不安になってきます。北陸で高速道路の橋桁の偽装も発覚したほどです。土木でもダンピングすれば、それを誘っているようなものではないかと言えます。 また、公共事業は税金を財源としますが、例えば1億円で工事を発注し、片や9千万円、片や8千万円の入札があれば、当然8千万円の方に落札します。しかし、8千万円の施工が5年しかもたず、9千万円の施工では10年もつとなると、どちらが得でしょうか。単価や金額の競争だけではなく、そうしたことまでも検査できるレベルの建設技術が必要で、そこまで言及できる技術者の養成が必要なのではないかと思います。
――性善説をもって見られてきた建築界のイメージと信用が、低下することが懸念されますね
 丸岩
土木などはかつては豪奢な社屋を構え、社長はベンツに乗ってゴルフ三昧といったイメージから、どうせどんぶり勘定でいい加減な経営をしているのだろうと、性悪説で見られていましたが、近年はどこの企業もみな必死で、ゴルフに現を抜かす社長などいません。 私も10年ほど以前には、選挙区での建設業界で企画されたイベントへの参加要請に応じ、麻雀大会やゴルフコンペにも顔を出す機会がありましたが、この7、8年間はまったくありません。かつては和やかだったメンバーたちが、今では生き残るために角逐し、睨み合っている状況です。 行政がそんな険悪ムードにして良いのでしょうか。赤字が出ても安く施工しろという制度はおかしいのではないか。行政には、業界を育成し技術を向上させ、いい成果品をつくらせ、新規技術を開発するという使命があるのです。にも関わらず、今ではただ価格が安ければ、誰が相手でも落札する始末で、まともに積算しているところはなかなか受注できない状況です。
――それを改善するために、建設委員長としても様々に行動してきたのですね
 丸岩
私も大いに発言してきました。お陰で、建設部の部会では建設業経営効率化のための政策立案に懸命に、取り組むことになりました。品質管理法を視野に入れているわけですが、良いものを生み出すために、官民が一緒になって考えることが大切です。行政職員が業界に赴いて研究する姿勢が必要で、何でも役所に呼びつけるのではなく、例えば工事契約が完了したなら、行政者と設計者と施工業者が会し、これをどのようにすれば、最良のかたちでできるのか、三者協議を行う体制が重要です。 とかく公務員倫理法で制約されているため、良い意味でのコミュニケーションが失われてきています。行政者と施工者が面会すれば談合と疑われたり、汚職につながるなどと性悪説で見られています。 例えば、JCの会員同士であっても、かつての同級生にも会えず、同窓会ですら出席できないようなムードです。入札制度改正も職員の不正を防止するためにランダムカットを導入し、公募制の拡大、予定価格の公示をしたのですが、不正を防止することが目的の改正というのは納得できません。職員の不正はないのが当たり前であって、そもそも不正をすれば地方公務員法の規定で免職となるのです。それを業界を巻き込み悪影響を与えるような方法を取るのは不合理です。この点については、特に二期目でかなり追及しました。そんなことまでして、なおかつ行政側の責任で不正事件が起きた場合は、業界にどう弁明するのかと。不正防止のための入札制度改革などは、本末転倒で、不正を前提とする発想自体が間違っています。 橋梁談合や防衛施設談合など、まれに不祥事も起こりますが、業界全体としては真面目に業務に取り組んでいるのですから、それを前提に政策を進めるのが本来でしょう。
――そうした後ろ向きの発想で北海道経済は萎縮していますね
 丸岩
公共事業も減らし、道も職員の人件費や歳出をカットしていますが、ムダを省くのは良しとしても、人件費削減などは限度があるのですから、むしろ、財政再建のためには、歳入を増やす方法を考えるべきです。北海道では約3千億円を建設事業に投じていますが、工事費の節減など目先のことよりも、それに伴い税収が少しでも上がる方法を考えるべきだと思います。税収が上がれば、職員の給与も上がります。企業の収益が上がれば民間人の人件費も上がり、購買力の回復につながります。そして、リストラせず安定的に雇用できるようになります。 そのためにこそ、入札の在り方をもう一度考え直すことが必要です。談合やダンピングをさせずに受注できるシステムを構築するしかないと思いますね。
(以下次号)

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