建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年4月号〉

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宇治川流域の慢性的な浸水被害を軽減・解消する「新宇治川放水路」

宇治川床上浸水対策特別緊急事業の一環として放水路を新設

国土交通省 高知河川国道事務所 新宇治川放水路

▲宇治川周辺航空写真

宇治川は、西日本最高峰の石鎚山から太平洋に注ぐ四国第三の大河川・仁淀川の河口から9.8km地点に合流する流域面積14.2km、流路延長7.5kmの左支川である。
宇治川流域は上流に行くほど地盤高が低いという低奥型地形で、河川勾配も極めて緩いことから洪水が流れにくい状況にある。また、仁淀川本川の出水時には自然排水が出来なくなる内水河川であることから、毎年のように浸水被害を受けている。加えて近年の都市化の進展によって、人口が急増し、地域の治水安全度の低下が憂慮されている。
このため、流域関係諸機関(国土交通省・高知県・伊野町)は、慢性的な浸水被害を軽減・解消することを目的とした総合的な治水対策を実施。国土交通省では宇治川床上浸水対策特別緊急事業として、流下断面積を広げる河道整備、宇治川排水機場の増設、新宇治川放水路の整備を進めている。
事業はこれまでに排水機場の増設と河道の整備が概成し、現在は新宇治川放水路の建設を鋭意進めているところだ。

▲平成16年8月1日 集中豪雨による浸水被害状況
新宇治川放水路建設事業
▲トンネル防水シート・配筋施工状況
▲石見地区土砂場流路施工状況
▲呑口側導水路工事仮設矢板施工状況
(全景)
▲吐口側導水路工事本体ボックス部施工状況
(全景)
同事業は、宇治川の洪水をバイパス放流し、最大55m3/秒の排水能力で浸水被害を軽減・解消する排水路新設事業である。
工事は放水路トンネル工事、吐口導水路工事、呑口導水路工事に分かれて整備を進めている。
<新宇治川放水路トンネル工事>
新宇治川放水路トンネルは、延長2,365mのウォータータイトトンネルであり、宇治川側の延長1,320mを第一工事、仁淀川側の延長1,045mを第二工事として建設を進める。
新宇治川放水路トンネル周辺の地下水位は全体的に高く、生活用水や農業用水に広く地下水が利用されているが、トンネル工事では周辺地下水を排出するため、一定範囲における地下水位の低下は避けられない状態にある。
同事業ではこのことを踏まえてトンネル外周をウォータータイト構造(シート張りによる止水構造)とし、完成後に地下水を速やかに回復させるなど、地下水への影響を極力少なくする技術的対策を採用している。
さらにトンネル縦断方向の対策として、防水シートと覆工コンクリートとの接触面を止水する「ウォーターバリア」と、トンネルの周りにエリマキ状の壁を造る「ファンカーテングラウチング」を採用する。いずれの工法もトンネル縦断方向に水が流れることを防ぎ、地下水の低下を防ぐものだ。
<吐口工事>
トンネル取付工、点検孔、サイフォン部、樋門部、排水ボックス部から構成される。 
サイフォン部から排水ボックス部は、基礎地盤の沈下に応じて構造物が柔軟に沈下する柔構造樋門を築造する。吐口部の予想沈下量は最大10cmであるが、各構造物は沈下しても水漏れを起こさない特殊な継手で繋がれている。
また、サイフォン部は、透水層内の構造物築造により地下水の流れを阻害する恐れがあることから、駆体の周辺を透水性のある河床砂礫で埋戻し、地下水を迂回させて下流に導く「迂回水路」を設置する。
<呑口工事>
越流堤、整水池、管理橋、除塵機、溺堤、樋門、管理用進入路から構成される。
施工にあたっては、樋門部周辺が軟弱地盤であることから「DJM粉体噴射攪拌工法」を採用する。これは軟弱地盤中に粉粒体の改良材を供給し、強制的に原位置土と攪拌混合することにより土と改良材を科学的に反応させ、土質性状を安定なものにするとともに、強度を高める工法である。
この工法は、建設省総合技術開発プロジェクトの「新地盤改良技術の開発」研究のひとつとして開発されたもので、多くの特許により権利が構成されている。
▲呑口部完成予想図 ▲吐口部完成予想図
新宇治川放水路の施工にあたって
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