〈建設グラフ1997年7月号〉

寄稿

水産食糧基地としての漁港の整備

北海道開発局 農業水産部水産課長 高木伸雄 氏

高木 伸雄 たかぎ・のぶお
昭和22年4月福岡県生まれ
昭和47年昭和九州大学大学院修士
昭和47年水産庁漁港部勤務
昭和55年砂防課長
昭和57年水産庁振興部開発課長補佐
昭和61年岩手県林業水産部漁港課長
平成 2年水産庁漁港部防災海岸課防災計画官
平成 3年水産庁漁港部計画課長補佐(総括)
平成 4年科学技術庁原子力船計画部付課長
平成 5年(財)漁港漁村建設技術研究所第1研究部長
平成 8年現職
1.はじめに
漁港は、様々なかつ多面的な役割を果たしている。例えば、@漁村のコミュニティーの場としての役割、A生産活動の基地としての役割、B流通加工の基地としての役割、C沿岸域の管理拠点としての役割(国土・自然環境の保全場の貢献、台風等異常気象時に於ける船舶の避難の場etc)、D漁港背後の住民の生命や財産の安全の確保の役割、E国民への美しく豊かな余暇空間の提供の役割(自然体験型余暇空間、海洋性レクリエーションの活動拠点、海の文化の継承の場etc)などが挙げられる。
しかし、これからは水産食糧基地としての漁港の役割がより重要になってくると考える。もとより北海道は、広大な土地とその周りに有用な水域を持ち、漁場としても極めて重要な場を形成している。このため我が国の水産動植物の生産及び国民への安定供給にとって、重要な役割を果たしてきたし、今後更にその重要性は増して行くものと思われる。
21世紀に向けて、水産物を含めた食糧を確保していく上での地球的な環境は、極めて厳しい条件下にある。世界の人口は毎年9,000万人増加し、2025年に約80億人、2050年に100億人になると国連は予測している。
一方、地球の環境は、経済活動に伴う二酸化炭素の放出による地球の温暖化、異常気象による嵐・洪水の多発・干ばつ・熱波の発生、乱伐による森林破壊、土壌の浸食による耕地の消失、環境破壊による生態系への影響などが顕著になってきており、このような状況が世界の食糧生産に多大な影響を及ぼしている。
特に、水産食糧についてみると、漁獲技術の向上などによって乱獲が進み、世界の漁場でその荒廃が見られるようになり、世界15の漁場すべてで許容量ぎりぎりのレベル、あるいはそれを越えて漁業が行われていると言われている。そのうち、13の漁場では既に衰退傾向にあるとfaoは報告している。

2.水産食糧基地としての 漁港の整備
既に述べたように、水産物を含めた食糧を巡る地球的環境は極めて厳しい状況下に在ることから、ますます「つくり育てる漁業」を中心とした管理型漁業の推進を図って行くことが緊要となっている。
我が国も1997年1月1日より国連海洋法条約に関わる関係法案を成立させ、水産資源の量的管理への移行等、漁業を巡る新たな海洋秩序に対応した漁業管理制度としてtac制度を導入するなど、我が国沿岸水域に於ける漁獲可能量を定め、生物資源の適正な保存・管理を行うこととなった。
また、海洋生物の生態にも十分配慮しながら漁港の整備を行ったり、漁場としても利用が可能となるように構造物全体に工夫を凝らしたり、さらには、漁港の港内の水域を水産増養殖のために利用するなどの方法が取られている。
この他にも、漁港の整備と沿岸漁場の整備との整合を取って水産振興に努めたり、ミティゲーションの概念を取り入れて、海洋環境に配慮したりして、生物生態系の保全に努めている。
この様に海洋環境に配慮しながら、また新たな国際的な水産状況に対応しながら漁港・水産施策の展開を図ってきている。
このうち、北海道の3,4種の漁港については、北海道開発局で事業の計画及び実施を行っているが、表−1のように主な漁港で新たな施策に沿って事業計画の実施を推進している。
その他に、今後とも北海道が我が国の水産食糧生産基地としての重要な役割を果たし、豊かな北海道の漁港漁村の生活が維持できるように、20年後を見越した「北海道マリンビジョン21」を示して、これまでに、宇登呂漁港、羅臼漁港、サロマ湖漁港、福島漁港、青苗漁港、追直漁港の6漁港をモデル漁港地区に指定して事業の実施を図っている。
3.水産食糧基地としての漁港(直轄事業)の整備事例
北海道開発局が直轄で整備を行っている3,4種の漁港のうち、新海洋秩序に対応し、また「つくり育でる漁業」の推進や水産食糧の確保の観点からの漁港の整備の事例を数例取り上げ、その概要をしめしたい。 ■追直漁港(3種)
活魚流通の伸長などに伴い、活魚の安定供給と価格の安定を図る施設の整備として追直漁港では一時的に漁港内の水域に活魚を蓄養するとともに、利便性の向上に配慮し潮位とともに上下する蓄養水面付き付帯式係船岸の整備を行っている。 (図-1参照)
■サロマ湖漁港(4種)
オホーツク海は、流氷に覆われる日本で唯一の海域であり、漁業活動を妨げ、漁舶の船体損傷などの被害を及ぼすことがある。この様なオホーツク海特有の自然現象から漁船などを守る漁港施設として、サロマ湖漁港では、オホーツク海とサロマ湖の湖口にアイスブームを設置して湖内に入る流氷を防ぎ、この離接岸時期の漁船の航路を確保するとともに、湖内内水面漁業への被害防止を図るために整備を行っている。 (図-2参照)
■抜海漁港(4種)
つくり育てる漁業の推進を図るため、また近年需要が増加しつつある活魚の安定供給と価格の安定を図るため、市場に出荷する前に一時的に漁港内の水面で蓄養する施設として、抜海漁港に港内の海水交流も確保できる、かなり広い水域施設の整備を行っている。 (図-3参照)
■寿都漁港(3種)
水産生物の生態系を保全し、つくり育てる漁業の推進のための漁港施設として、寿都漁港に日本海側に広く分布するヤリイカの産卵の場としての機能を備えた漁港構造物の整備を行っている。 (図-4参照)

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