建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年3月号〉

寄稿

新若戸道路整備事業について

国土交通省九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所 響灘建設事務所 先任建設管理官 花田 孝美

花田 孝美 はなだ・たかみ
昭和30年生
昭和49年4月運輸省 第四港湾建設局 採用
平成13年1月国土交通省中国地方整備局 海域・環境海岸課 課長補佐
平成14年4月国土交通省 九州地方整備局 港湾事業課 課長補佐
平成16年4月国土交通省 九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所 先任建設管理官
1.新若戸道路工事の概要
1-1.新若戸道路計画
平成7年に北九州港は国の港湾整備長期構想で中枢国際港湾に位置づけられ、北九州市は、ひびきコンテナターミナルを中心とした「北九州港響灘環黄海圏ハブポート構想」を策定した。これを受けて北九州港港湾計画では大水深岸壁が位置づけられ、国は平成9年度に岸壁(-15m)2バースに着手し、平成17年4月1日に1期工事が完成、供用開始するに至った。
洞海湾を横断するアクセス手段としては昭和37年に建設された若戸大橋があるが、朝夕の渋滞が著しく、ひびきコンテナターミナルが本格稼働されれば、響灘地区から戸畑・小倉方面への交通量が増大することが予測される。

新若戸道路は、洞海湾を横断する交通の円滑化を図るため若松区安瀬〜戸畑区戸畑間4.2kmの臨港道路(自動車専用道路)として計画されている。この道路は、地域高規格道路にも指定され、港湾事業と道路事業との合併事業となっている。このうち、港湾事業(国直轄施工)は約1.2kmを担務することとしており、これとあわせた道路事業の1.1kmの合計2.3kmを1期事業として整備し、整備効果が早期に発現するような事業計画となっている。

図1−1 新若戸道路直轄施工縦断図
1-2.新若戸道路の計画条件

(1)道路計画緒元 表-1.1に示す。

表-1.1道路計画諸元
道路計画 港湾事業延長 1,181m
道路規格 2種2級(自動車専用道路)
設計速度 60km/h
車線幅員×車線数 3.25m×4車線(2車線×2)
最大縦断勾配 5.00%
設計交通量 41,000台/日
航路条件 航路幅員×水深 250m×-9.0m
道路法線
および近接する
構造物
戸畑側 企業倉庫
航路部 西部ガス(沈埋函)
若松側 工場
▲新若戸道路 若松側全景航空写真
(若松側より戸畑方向)
1-3.新若戸道路沈埋トンネル方式の特徴
(1)新若戸道路沈埋トンネル方式の特徴
1)換気塔(立坑)が無い
新若戸道路は、トンネル部の延長が約770mと短いことから通常時及び渋滞時は自然換気で対応でき、また火災時は換気シミュレーションで検証の結果φ1500のジェットファンを若松側上下車線に2基ずつ合計4基設置すれば対応可能であるとされているため換気塔は設置しない。

2)沈埋函の延長が同一でない
新若戸道路が横断する若松航路は、法定航路であり昼夜で1日160隻程度の船舶が航行しており、函体据付時においても航行船舶への影響を軽減するため、沈埋函据え付けのため設ける仮航路の幅員も加味して航路端部は長く最大長106m、航路中央部は短く最短長66.5mとした。

3)沈埋函部7函すべてが曲線(R=540m)
新若戸道路は、1期工事で若松区北浜と戸畑区戸畑の都市高速道路にも連結することから、この間の道路法線としては、洞海湾の水域内に曲線部を持ってくる形状となっている。
その結果、沈埋函7函のすべてに平面形状として曲線が入り、さらに横断勾配も変化していることから、全函で個別に細部設計を行っている。
図-1.2 伸縮性止水ゴム構造図
4)伸縮性止水ゴムの使用
新若戸道路は、沈埋函部が各函で曲線となっていることから、函の接合部の方向修正の容易性が施工管理上の重要な要素である。
ゴムガスケットの選定は、浮遊打設によるひずみの吸収、航路の早期解放、方向修正コストの縮減等の要素で検討の結果、既にキーエレメント用として開発されていた伸縮性止水ゴムガスケットを一般函への適用性について実験を行い、方向修正及び不陸追随性の容易性から、当該止水ゴムが適当と判断した。

図-1.3 伸縮性止水ゴム構造図
5)鋼コンクリート合成構造(フルサンドイッチ)の沈埋函
函体を鋼殻(上床版、下床版、側壁、隔壁などで構成、各版(壁)は鋼板のみで製作し60〜100cm程度の空洞を内部に有する)として製作後、内部空洞に充填コンクリートを打設する、鋼とコンクリートが一体となった構造形式。版の両面の鋼板にコンクリートが挟まれた構造となっているためフルサンドイッチ構造と呼んでいる。
鋼コンクリート合成構造としたことにより、鋼殻内部に縦横に組まれた補強鋼材により、せん断力及びずれ力に対する抵抗性が高い。また、外周が鋼板のため、漏水などによるコンクリート劣化が防止され耐久性が高い構造物となっている。

6)6号函をキーエレメント(最終継手)として使用
延長80mの6号函をキーエレメントとすることにより、別途最終継手の製作期間が不要となり、また製作費用が低減できる。

7)沈埋函鋼殻内部への加振併用型充填コンクリートを開発・採用
鋼コンクリート合成構造の函体には、従来、バイブレータによる加振が不要で自己充填性を有する高流動コンクリートが用いられてきた。高流動コンクリートは、所定の品質管理が煩雑でコストが高いことから、補助的な加振で充填性を確保できるコンクリートとして独自に開発した。

8)浮遊打設時の係留安全装置(防舷材式緩衝装置)の開発・採用
新若戸道路では、沈埋函内部にコンクリートを打設する作業は、鋼殻を仮設桟橋に係留して海上に浮かべた状態で行う。
係留索は、桟橋側をクレモナロープ、海上側はワイヤーロープとしているが、ワイヤーロープはバネとして作用しないため長周期波の影響などによりワイヤーが破断するおそれがあり、防舷材式緩衝装置により動揺エネルギーを吸収させるため独自に開発した。

図-1.4 防舷材緩衝装置イメージ図
9)沈埋函は全函剛継手
沈埋函沈設位置が基盤岩に着底していること、及び近傍で想定される小倉東断層のレベル2地震動が420gal程度と函体に及ぼす影響が比較的小さいことから、沈埋函部同士の連結に可撓性継手を配置する必要が無く、よって全函を剛継手とし、コスト低減を図っている。

10)限界状態設計法による最先端の設計手法を導入
「港湾の施設の技術上の基準」に限界状態設計法が取り入れられたのは平成11年度であるが、この後、新若戸道路の細部設計が開始されたことから、新若戸道路は最新の設計手法である限界状態設計法により行っている。これにより、従来の許容応力度設計法に比べて合理的な構造設計となっており、コスト低減が図られている。

11)バリアフリー対応
新若戸道路は自動車専用道路であるが、緊急時対応として避難通路を沈埋函部に配置しているが、当該通路は避難時に車いすでも避難できるような幅員としている。

▲1号沈埋函鋼殻製作状況
(2)新若戸道路を沈埋トンネル方式とすることの優位性
1)動線計画の自由度が高い
新若戸道路の整備効果を早期に発現するため、1期工事は若松区北浜と戸畑区戸畑の都市高速道路とも連結するが、橋梁構造の場合は、航路横断部の通行船舶に対するクリアランスが必要であり、またシールドトンネルの場合は、海底面との土被りが管径の1.5倍必要であり、このため長いアプローチが必要で縦断勾配を加味すれば線形が悪くなる。このため、最も短い距離で整備が出来る沈埋トンネル方式が有利である。

2)用地買収範囲が少ない
沈埋トンネル方式は航路横断のための海底部のクリアランスが浅いため短い距離でも所定の縦断勾配が確保できることから道路延長を短く整備することが可能であり、用地買収範囲を狭くできることから買収費用コストと用地買収交渉のための時間コストを低減できる。

2.施工課題と対応

2-1.若松側陸上トンネル部
1)工事概要
若松側陸上トンネル部は、平成13年10月工事着手、工法は開削工法を採用。
コンクリートの躯体は120m(最大延長45m)の2径間BOX-C構造
図-2.1 若松側陸上トンネル部構造図
2)土留壁施工時の細砂層による影響
土留壁は、止水性を確保するため基盤岩層まで根入れを行った。基盤岩層を打ち抜くための工法としては周辺構造物への影響を軽減するためCDによる先行掘削、ソイルモルタルに置き換え、中堀圧入方式で施工した。
CD掘削機は、低振動・低騒音対応として最適な工法であるが、CDでの掘削の際、周面摩擦を軽減するためケーシングを上下しながらハンマグラブで土砂を排土し徐々に掘削深度を深くしていく。
陸上トンネル部の土質は、埋立土層の下部にシルト混入の細砂層が約10mの厚さで分布しており、ケーシングの上下動や土砂掘削のハンマグラブの動きによる負圧で細砂層の地下水が変動、またはケーシング周辺の細砂層の吸い出しを生じ、結果的に隣接工場に影響を与えた。
対応策として、土留壁と工場との間にsmw、ccp、鋼矢板による止水壁を構築し、地下水並びに砂の移動を遮断する措置を講じた。
また、開削に伴う鋼管矢板の変位により周辺地盤の沈下が生じないように、鋼管矢板内にコンクリートを充填し矢板の剛性を高める措置を行った。

3)盤ぶくれ対策
施工開始後に実施した揚水試験の結果、基盤岩の透水係数が大きくgl-8.8m(4段開削面)面まで土砂を掘削した場合、盤ぶくれ現象が生ずる可能性が想定された。
対応策を検討の結果、被圧地下水を低減するディープウエルのみによる対応では周辺構造物の沈下管理限界値を満足出来ないことが判明したため、三次元浸透流解析及び簡易沈下量算定システムを用いて対策工を比較検討し,ディープウエル+底盤全面改良+リチャージウエルによる方法で対応した。
底盤改良は、ダムグラウトのコンソリデーショングラウトの考え方を適用しセメント(bb種)ミルク注入とし、地盤の改良目標を5ルジオン(透水係数k=5.0×10-5cm/sec相当)、超過確率15%以下として実施した。
図-2.2 若松側陸上トンネル部構造図
4)躯体のひび割れ防止対策
陸上トンネル部の躯体は、底版・側壁・頂版の版厚が1.3mあり部材寸法が大きなマスコンクリート構造物である。
当該施設は重要な公共施設であり、かつ海岸から200m程度しか離れていないことから海水の影響も受けるため構造物の耐久性に対し特段の配慮が必要であることに加え、地盤面から15m程度掘り下げた地中構造物であること、さらには隣接して民間工場もあることから、構造物のメンテナンスも容易ではない。
このため、施工当初から温度応力によるひび割れを極力抑制するため、低発熱セメントを採用した。
また、施工段階では、ひび割れの発生を抑制するため、ひび割れ指数を1.2と規定している。現場で実施した施工段階におけるひび割れ防止対策として
@躯体内部のクーリングについては、試験練りを通じて得た低発熱コンクリートの力学特性、熱的特性及び温度応力解析の結果、最も温度応力が大きくなるのが面的に広い底版に拘束される側壁及び中壁部の1ロット(約3.5m高さ)部であることが明らかになったことから、当該箇所に1m間隔にシース管を挿入し20〜25℃の冷水によるクーリング対策を行った。
コンクリート打設後は温度及び温度応力の変化を計測し、クーリングを5日間以上実施すれば、躯体の水和熱低減に効果があることが確認された。
Aまた、誘発目地については17m程度に1カ所の配置が必要と算定されたことから躯体延長が平均40mであることを考慮し、概ね15mに1カ所の誘発目地を設けた。なお、誘発目地の断面欠損率の試験施工において60%程度断面を欠損させれば確実にひび割れを誘発することを確認して実施した。
コンクリート打設後、ひび割れの発生状況を確認の結果、概ね誘発目地部にクラックが誘導され、版厚が1m以上の標準部ではひび割れを防止することが出来た。
図-2.3 ひび割れ防止クーリングによる温度応力測定位置図
2-2.若松側堀割部
1)工事概要
若松側堀割部は、2工区に分割して、平成15年11月工事着手。
工法は隣接する民間工場側にSMWによる縁切壁を設置後、各工区とも2函ずつ合計4函をニューマチックケーソン工法で施工。
躯体については、陸上トンネルと同様、低発熱セメントを使用しひび割れ指数も1.2と規定。
図-2.4 若松側掘割部(ニューマチックケーソン工法)構造図
2)大規模ニューマチックケーソンの施工管理
ニューマチックケーソン工法は、一般的には水中部における橋脚基礎等に用いられ、道路本体構造物としての使用例は少ない。新若戸道路で当該工法を使用するに当たっては、隣接する若松側陸上トンネル部における開削工法の諸課題から総合的に検討し適用したものである。
ニューマチックケーソン躯体は、長辺41〜52m、短辺約35mと大規模なニューマチックケーソンであり、沈設深度は約14mである。
この大規模ニューマチックケーソン工事における沈設時の課題は以下の点が上げられる。
@ 4函の各函は接続時の開削施工を極力減らす関係で2.5mと離隔・近接している。(函の間を開けないと足場が設置出来ない)
A 沈設後道路となるため、沈設精度が高い。精度確保にあたっては、油圧ジャッキ併用であるため、圧入(強制沈下)時に過大な応力が躯体に発生する。
B ケーソンの過沈下や傾斜が起こりやすい沈設初期段階に地耐力が不均一と考えられる埋立土中を掘削する。
C 沈設終点の地層構成にn値のばらつきが認められ過沈下や傾斜が危惧される。
従って、沈設開始から最終沈下床付け後の作業室への中詰めコンクリート打設まで傾斜計、沈下計、刃口反力計などの機器を利用し計測施工を行った。
▲戸畑側 陸上トンネル部 部下内部掘削状況
2-3.戸畑側陸上トンネル部及び堀割部
1)工事概要
戸畑側陸上トンネル部は平成16年10月に工事着手、戸畑側堀割部は別工区として平成17年10月に着手。
いずれも、工法は開削工法を採用。
躯体については、若松側と同様、低発熱セメントを使用しひび割れ指数も1.2と規定。

2)近接企業との利用調整
戸畑側陸上トンネル部及び堀割部は、周辺構造物とは離隔距離が10m以上あり、工事による構造物への影響は軽微であると考えるが、反面、企業の生産活動は、新若戸道路施工区域を挟んで、その両側でほぼ自由に行われており、そのため、工事の施工と企業活動との調整が戸畑側工区の大きな課題である。
戸畑側工区では、発注者も入った場で、工事エリアと資機材搬入路について周辺企業協議会と事前調整を行い、実施に当たっては、請負者がエリア占有の工事工程や安全対策について関係する企業と個別に詳細調整し、円滑な工事進捗を図っているところである。

3.施工期間の短縮と海上工事の安全対策
新若戸道路工事の進捗は、若松側、戸畑側とも陸上部は平成19年度末までには概ね完成見込みであることから、今後海上部での工事工程が、早期供用開始のクリティカルパスとなる見込みである。
海上部での工事では、1日160隻程度が航行している若松航路の利用者との調整が重要である。現在、通行船舶に影響を与えず、かつ工事工程の短縮を図るため、昼夜間連続施工や水域内2船団同時施工など工程短縮の具体的な方策を進めるため、講ずべき安全対策を関係機関と調整しているところである。
工事の実施に当たっては、港運関係者や海事関係者に周知徹底を図り、第三者に対する事故が生じないように工事実施を行っていくこととしている。
図-2.4 戸畑側工区域における臨港道路等の利用調整例
新若戸道路の施工にあたって
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