建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年12月号〉

特別企画・大滝ダム

大滝ダム 完成に向けて

国土交通省近畿地方整備局 大滝ダム工事事務所長 渡邉 泰也

渡邉 泰也 わたなべ・やすなり
平成 5年4月建設省関東地方建設局 荒川下流工事事務所調査課長
平成 7年2月外務省在大韓民国大使館二等書記官
平成10年4月建設局河川局水政課課長補佐
平成11年5月建設省河川局河川計画課課長補佐
平成13年1月国土交通省近畿地方整備局 大滝ダム工事事務所長
▲美しい姿を現すことになるダム完成予想図(CG)
事業の目的
大滝ダムは、紀の川(吉野川)上流の奈良県吉野郡川上村において建設中の多目的ダムである。紀の川流域では、昭和34年9月の伊勢湾台風により、奈良・和歌山両県で死者約130名、浸水・流出家屋約1万5千戸という大災害が発生し、この災害を契機に計画されたもので、40年の歳月を経て、まもなく完成をむかえようとしている。
事業の目的は、紀の川の洪水調節、奈良県・和歌山県への水道用水等の供給(7立方メートル/s)、河川環境の保全及び発電である。ダム型式は重力式コンクリートダムで、高さ100m、堤体積103万立方メートル、総貯水容量84百万立方メートルである。
事業の現況
昭和37年度実施計画調査、同40年度建設事業に着手したが、ダム建設に伴う移転家屋が約500戸と多く、また川上村の役場等の中心部も移転する必要があったため、地元の方々のご理解を得るのに非常に長い年月を要した。
しかしながら、今日では関係者の方々や関係機関のご理解とご協力により、貯水予定地周辺での代替宅地造成・生活再建や国道169号線の付替工事等もほぼ概成している。また、ダム本体工事についても、14年8月8日に最終打設を完了し、クレストゲートの据え付け、制御施設の設置等、最後の仕上げの段階である。
事業実施にあたって
事業の実施にあたっては、技術開発を積極的に推進している。例えば、細骨材に冷風を当てて気化熱を利用して骨材の温度を下げる気化冷却施設、景観設計の観点からゲート室がダム天端に出ない油圧式クレストゲート、軽量化を図るためスライド式の常用洪水吐予備ゲートを採用している。また、常用洪水吐を大型化して当初の5門から3門に変更することや、濁水処理で発生するケーキに固化剤を混ぜて威勢工の導流壁の裏込めに用いるなど様々な工夫によりコスト縮減に努めている。
ダム本体の景観設計については、「大滝ダム景観デザイン検討委員会」を設け、地域住民、専門家等を対象にアンケート調査を行い、ダムの上端に連続的なアーチを施すとともにゲート室を堤体内に収めた非常にすっきりとしたデザインを基本としている。
また、自然環境にも配慮しており、工事等で掘削した斜面の緑化につとめるとともに、平成8年にはクマタカの営巣が発見されたため、雛が巣立つまで近傍の道路工事を一時中断した。それ以降についても、地元のわしたか研究家の方の協力を得ながら猛禽類の調査を継続している。
コミュニケーション型国土行政の一環として、平成8年4月にはダムサイトに、水と土木とダムの体験学習施設である「学べる建設ステーション」を開館している。小学生などの来場も多く、これまでの入場者数は20万人に達している。また、見学した子供たちに壁新聞を作ってもらう「ダム見学新聞」コンクールも行っており、毎年千人を超える地元、特に給水地域の子供たちからの応募があり、水の大切さ、ダムの役割等々の理解を深めることに大いに役立っているものと思われる。
水源地の村づくり
地元川上村では、水源地の村として上流の源流域を保全するため、平成11年から本年度までに約800haの天然林を購入し、管理してくこととしている。また、この天然林の管理や4月にオープンした「森と水の源流館」を運営する組織として(財)吉野川・紀の川源流物語をこの4月に設立し、この財団を核として水源地からの情報発信や上下流の交流等を進めることとしている。
今後、ダム及び貯水池を管理していくには、源流域を含む流域をいかに良好な状況に保っていくかが大きな問題であり、このような地元川上村における取り組みとダム管理が一体となってこそ、すばらしい水源地となるものと認識しており、「川上村による水源地の村づくり」を引き続き支援していきたいと考えている。
ダムの建設は水源地域に大きな影響をもたらすものであるが、「水源地域の振興なくしてダムの成功はありえない」という理念のもとに、川上村と連携しながら地域振興を図るとともに、事業完成に向けて、職員一丸となって事業を進めているところである。
▲谷間に架かる連続アーチ橋をイメージしたデザイン(CG)
古都奈良を洪水から守る〜国土交通省近畿地方整備局 大滝ダム工事事務所
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