〈建設グラフ1999年4月号〉札幌駅南口再開発事業 
上の階層へ



 札幌駅南口開発

基本コンセプトはsapporo FRONTIA
「札幌駅南口地区」は、鉄道高架化により発生した在来線跡地をメインとする土地区画整理事業を施行してきたことで、国鉄清算事業団、札幌市、北海道旅客鉄道(株)の土地が各々集約されることとなり、一体的な開発をめざし話し合いを重ねてきた。
 北海道旅客鉄道(株)、(株)大丸、札幌駅南口開発(株)の三事業者は、札幌市の整備構想や街づくり委員会の提言を参考として、開発の基本コンセプトや導入機能などを検討しながら、「札幌駅南口総合開発計画建設委員会」(委員長・渡辺東京大学名誉教授)を設置して施設計画の検討を進めてきたものだ。

●関連事項の経緯
平成 2年 9月 札幌駅付近鉄道高架化工事完了
4年 5月 「札幌駅周辺地区整備構想」策定(札幌市)
5年 3月 「札幌駅南口土地区画整理事業」都市計画決定・施行認可
5年 7月 「同事業」による仮換地指定
7年 11月 「同事業」による北海道旅客鉄道(株)本社屋移転
8年 12月 「札幌駅周辺街づくり委員会」設置(札幌市)
9年 3月 建物提案方式による契約締結(提案内容:百貨店)
9年 4月 「札幌駅周辺街づくり委員会」提言
9年 7月 「札幌駅南口総合開発計画建設委員会」設置(事業者)
9年 10月 札幌駅南口開発(株)設立
10年 3月 札幌駅北口駅前広場供用開始(札幌市)
10年 5月 札幌駅南口地下街増改修工事着工(札幌駅地下街開発(株))
10年 7月 札幌駅南口駅前広場造成工事着工(札幌市)
 基本コンセプト『sapporo-FRONTIA』をもとに、@「地域交流の拠点」、A「地球環境との共生」、B「情報の発信基地」の3つのテーマを掲げた。
 全体計画は、“札幌の新しいランドマーク”として、過去における歴代駅舎の面影を残しつつ、街並みに映える「より駅らしい駅」をデザイン。
 環境対策として、天然ガスによるコージェネレーションシステムの採用や自然換気システムの導入を図り、省資源・省エネルギーに貢献する。高齢者、子ども、女性、身障者、来街者に優しい空間を提供するため、設備、サインの整備に十分な配慮をなす。
 また、周辺の道路混雑緩和のため、敷地内に自動車専用道路を設置するほか、付置義務約1,000台の駐車場を確保する方針で、現在、高架上屋屋上にも約300台の収容を検討中だ。
 駅機能として、鉄道利用者の主要通路および街の南北を結ぶ、幅員東側30m、西側20mの札幌駅コンコースと同じ幅員の通路を確保し、巨大な吹き抜けを持たせたパブリック空間を提供する。また、地下鉄との接続エスカレーターの増設、段差の解消などにより乗り換えをよりスムーズにするほか、鉄道利用者の商業施設へのアプローチを容易にするために、高架上屋の屋上の改札口から直接アクセスできる機能を検討している。
 そのほか、開発建物、駅、駅前広場、地下街が一体となった無理のない歩行者ネットワークを創造し、みどりの窓口、旅行センター、駅レンタカー窓口などの駅施設や、公共サービス施設を分かりやすく利用しやすい、利便性が向上する配置にする。
 商業・アミューズメントは、都心総合型百貨店と専門店を組み合わせて、回遊性・滞在性の高い“時間消費型商業コンプレックス”を構築する。また、都心型シネマコンプレックスなどの導入も検討する。
 ホテルは、道内一の眺望という特性を生かした「中級の上」クラスの利用しやすい約350室を備えた宿泊主体型ホテルを計画している。
 オフィスは、道内一の立地環境を生かし、21世紀の多種多様化するニーズを想定した高品質なインテリジェントオフィスとなる。
 文化は、道内初の約1,000席ロングラン専用劇場を設置する。


すべての人々の心と身体に“バリアフリー”文化を届け続けたい  

北海道旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 坂本眞一

昭和 15年2月19日生(本籍:東京都)
昭和 39年 3月 北海道大学工学部卒業
4月 日本国有鉄道に入る
54年 2月 東京第三工事局 次長
58年 4月 大阪鉄道管理局 施設部長
60年 4月 総裁室 調査役
7月 経営計画室 計画主幹
62年 3月 北海道旅客鉄道叶ン立準備室分室付
4月 北海道旅客鉄道
取締役鉄道事業本部営業部長
平成 2年 3月 鉄道事業本部営業本部長
6月 開発本部長
3年 6月 常務取締役開発本部長
5年 6月 専務取締役総合企画本部長
8年 6月 代表取締役社長(現職)

 『札幌駅南口開発構想』は、深刻な不況の折りさらに厳しい北海道経済のなか、基本計画を発表し、本格的なスタートを切った。   だが、この逆風がかえって好都合に結びつけた大きな要因ではないかと思える。バブル崩壊後の道内は、様々な大型プロジェクトが希望のなかで生まれては、期待を惜しまれながら夢破れ破綻してしまった現実が多々ある。
 我々は、そうした事例を多角的かつ詳細に分析し、決して二の舞いにならぬよう、また、北海道経済の夢を華開かせるためにその起爆剤にならなければならない旗揚げ役として、慎重を期して計画を遂行、検討を重ねてきた。
 『札幌駅』は、都心に残された唯一の一等地であると同時に、大変貴重な公共資産である。また、札幌駅は鉄道だけの経営では賄うことが難しい当社にとって、今回のプロジェクトは新たな経営資源として大きな希望の広がりを持たせてくれる一大事業となる。まさに、社運を掛けたこの事業の成否を握るポイントは、建物自体のハード面が重要なのではなく、そのなかでどのような機能やサービスを人々に提供するのか、また、それによって人々にどのような感動をもたらすのかというソフト面の充実に比重がより重く、大切なものとなってくる。
 ひとつは、駅ビルを集客力のある複合施設とすることで、鉄道利用客の増加を促すことが可能であることだ。この点で楽しみなのは、商業施設の中核テナントとして正式契約に向けて交渉中のファッションビル経営「ラフォーレ原宿」(本社:東京)が筆頭に上げられる。上京した際、東京ラフォーレの各店舗を視察したが、多種多様なジャンルのエンターティナーを呼び、大々的なイベントを繰り広げるなどの斬新で型破りな店のスタイルに度々驚かされた記憶がある。
 そこで札幌駅では、JRシアターでロングラン講演を続け、立て続けにヒットし人々を魅了してきた「劇団四季」による劇場や、札幌市内でも競争が激化している複合型映画施設「シネマコンプレックス」なども合わせて提供する。
 いくつもの文化や最先端の流行の発信源、情報源としての類まれな魅力を生み出し続け、その時代時代の流れをつかみ取りたいと考えて止まない。
 その一方で、忘れてはならないことは、身障者やお年寄りに優しい施設をつくることである。
 実際にこれまで、市民や有識者などを交えて進めてきた「札幌駅周辺街づくり委員会」などの計画づくりのなかで、最も要望が大きかったものだ。一段と加速度を増す高齢化社会に備える意味でも、エスカレーターの増設はもちろん、可能な限り段差をなくし、「バリアフリー」の発想を徹底させていく。
 “人”と“文化”の交流に、老若男女や身体条件の壁があるわけがなく、お互いにそれらを共有することができてはじめて、「人々が行き交うべき温もりあふれる施設になるはず」であることを私は強く切望する。