建設グラフインターネットダイジェスト

〈インターネット特別企画〉

日本の道路整備(新道路整備5箇年計画)

計画的・重点的に道路政策を推進

「我が国の道路を取り巻く状況」 講演:国土交通省道路局長 大石久和

主   催 中国国道協会
道路整備促進期成同盟会 島根地方協議会
道路整備促進期成同盟会 広島地方協議会
道路整備促進期成同盟会 鳥取地方協議会
道路整備促進期成同盟会 山口地方協議会
道路整備促進期成同盟会 岡山地方協議会
開催日時 平成13年11月7日 10:00〜11:00
会   場 赤坂プリンスホテル 別館5階 ロイヤルホール

中国地方道路整備促進総決起大会大会記録(1)−講演−

司会 着席のアナウンス
司会 皆様大変長らくお待たせいたしました。只今から国土交通省道路局長「大石久和」様をご紹介させていただきます。
 大石様は昭和45年、京都大学大学院工学研究科をご卒業後、平成5年には、国土庁計画・調整局総合交通課長、道路局道路環境課長をはじめ、大臣官房技術審議官を歴任、平成11年に道路局長に就任され、ご活躍中でございます。
 本日のテーマは、「我が国の道路を取り巻く状況」と題してご講演いただきます。
 それでは、大石様よろしくお願いいたします。


講演者(大石局長)

  ご紹介いただきました、国土交通省道路局長の大石でございます。
 日頃から、皆様方には道路行政につきまして何かとご支援いただきまして、大変ありがたく思っております。
先ほどは、大きな大会においていろいろなご決議をされたとお聞きしております。
改めてあらゆるご支援を頂いておりますことに感謝いたしたいと思います。
 道路を取り巻く情勢は、昨今誠に厳しいものがございます。
私共がなぜ道路整備をしようとするのか、どういう考え方でそれを構えようとしているのかということにつきまして、その考えの一端を述べさせていただきまして、ぜひ引き続きのご支援をよろしくお願いする次第でございます。
 私の略歴のご紹介がございましたが、皆様方に大変お世話になっております。国土交通省の中国地方整備局長の前田さんは、私が総合交通課長をしています時に、計画調整局の計画課の計画官をしていらっしゃいました。丁度現在、新しい全総。4全総を見直して、5全総。5全総というのか、国土のグランドデザインというのか、色々な言い方をしているようですが、その取りまとめにご苦労された方で、私と一緒に汗をかいた仲間でございます。
 彼が中国地方で皆様方に大変お世話になっていることを、友人の一人としてお礼を申し上げたいと思います。


 結論的な議論から進めたいと思います。
 『道路は一体何のためにあるのか』『道路は一体どういう目的で整備するのか』ということについて考えを述べる必要があるかと思います。
 道路はもちろん目的ではありません。
 道路を整備するということはその地域の活力を引き出し、その地域の皆様方の生活の利便性を向上し、且つ、生活の安全性を増すということは誰にでも理解でき、そのような表現なのであります。
 私たちは、よく考えてみると旧国土庁ではありませんが、日本人の生活を豊かにするためには、私たちの日本という国土の舞台しか使えないのであります。
 それは、多くの方々はそうじゃないとおっしゃるかもしれません。
 ユニクロは、中国でもモノを作っているし、最近では、北朝鮮などで背広も作っているじゃないか。或いは、小麦やトウモロコシは、アメリカから輸入しているではないかと思われるかも知れません。
 確かに、私たち国民、1億2500万人は、世界中の国土を使っています。
 しかし、その国土を使った成果が、私たち国民、消費者に届くためには、国内のインフラが必要であります。
 立派な港湾がなければ、安定的に、安全に私たち消費者に届きませんし、その港湾と道路が結ばれていなければ、全国隅々までモノが運べません。
 どう考えても、私たち国民の生活舞台、活動舞台は我が国の国土であります。
 この38万平方キロをどのように使うのかが、私たちの最も大きな命題の一つであるわけで、もちろん政治の目的、行政の目的には色々あるわけですが、その中でも最大の目的が、アダム・スミスの時代からそうですが、国土に対するインフラによる働きかけというものが、これは個人や企業の個人的な利潤動機では達成できないものです。
 これは、「公共」という考え方で進めなければならない典型であります。
 道路はその中でも、今日の車の保有状況、使用状況から考えると、最も根幹的且つ強力な国土に対する働きかけのツールであると思っています。
 その国土に対する働きかけによって、例えば、中国地方なら中国地方が、より豊かに暮らせる地域に変えるとともに、その中国地方に全国の多くの方々が来やすい状況を作って、中国地方が持っているポテンシャルを、最大に引き出すための道具立てであると考えています。このように考えると道路というものは判りやすいと思います。
 そうなると、国土に対する道路というインフラによる働きかけでありますから、道路整備量が多いか、道路の投資量が多いか少ないかを議論するならば、私達の対象としている国土が、例えば、GDPの比率で、公共投資が6%を越えている国は先進国の中で我が国だけだから、これを下げるべきだという議論が一方ではあります。
 確かに現在、イギリスやドイツやフランスの公共事業のGDPの占める割合は2%台というオーダーでございます。
 しかし、1970年というわずか30年前を振り返ってみますと、私たちの国と彼らの国の公共投資にかかるGDPの割合はそれほど変わってはいません。
 それよりも、もっと古い時代からいえば、道路でも下水道でもそうでありますが、パリの下水道をジャンバルジャンが走り回ったとうのが1800年代の初めという状況から考えますと、彼らの分厚いインフラの蓄積、彼らがモータリゼーションの時代を迎えたときは、すでにヨーロッパの大都市は、ほとんど都市内は舗装されていました。
 舗装されているだけではなくて、その地下には下水道があり、パリなどではガス灯の管が入りというインフラを持っていて、都市間のインフラさえ整備すればほとんど新しい時代を迎えることができたという状況でした。
 ご存知と思いますが、東京と大阪を結ぶ国道1号という最も根幹的な直轄の国道がございますが、この改良がされましたのは、昭和40年代であります。
 そんなところまでかかったわけです。
 その時に、モータリゼーションの爆発がありましたから、高速道路の整備もしなければならないというように、幾つかの目的を追いかけなければならなかったわけです。
そういう条件の違いや、もう一つ自然条件の違いというものがあります。
力を入れて申し上げたいわけですが、自然条件の違いだけでも、残念ながら私たちの公共事業のコストは大きなものがございます。それ以外にも社会的費用(条件)の違いもあります。
 自然条件の違いで申しますと、最近、「アクアライン」とコペンハーゲンのユトランド半島の先にある島(シェラン島)とスウェーデンが結ばれた(2000年7月1日)「オーレスン・リンク」との工費の比較がよくいわれます。
 どちらもトンネルがあり、橋梁があり、延長(4kmの海底トンネル、約4kmの人工島を縦断し、マルメまで7.8kmの橋)も良く似ています。
 工費は、我が国の方が3倍から5倍高いといわれています。
 でも、表面だけを見てその判断をしたらいけない訳で、まず彼らの国にほとんど地震がありません。
 皆さん方が小説をお読みになって、パリの小説を読む、或いはベルリンが舞台の小説を読む、或いはモスクワが舞台の小説を読むときに、大きな地震に遭遇したという表現をした小説があるでしょうか。
 彼らの歴史の中に大きな地震は記憶されておりません。
 パリやベルリンやロンドンというように、私たちと競争しなければならない首都のある国に大地震はないのであります。
 しかし、私たちの国は、東京だけではなくて、日本中のどこでも、それこそ中国地方でも、それは山陽側でも、山陰側でもどこでも、ものすごく大きな地震、阪神淡路級の地震が起こりうることを想定して物事を進めなければなりません。
 この違いがどれだけ大きいかということは、ちょっとご想像頂いても分かるのでありますが、少し専門的になるかも分かりませんが、私達の国の震度法という設計のやり方でいいますと、その自重の0.2ないし0.3の力が横方向に突然加わることを想定して設計することになっています。
 色々な設計方法がありますが、簡単なものでいうとこうなります。
 例えば、60sの人間ですと、12sの力でその重心位置に突然横に引っ張られるということで、その時に耐えられる鉄筋量だとか、柱の太さがなければならないわけです。
 このようなことを想定しなければならない国と考えなくてもいい国との違いがあります。
 この「オーレスン・リンク」のトンネル部分は「沈埋トンネル」といいまして、陸上部でトンネルを造って、水深10メートルの下には石灰岩の極めて固い岩があるわけですが、その上に載せるだけであります。
 私たちの国の東京湾、地下30メートル、水深約50メートルのところにシールドトンネルというものを掘らなければなりませんでした。
 このような違いがございまして、大変大きな違いになっているわけです。
 これは残念ながら、そういう国土を預かっている、私たち国民の宿命であります。
 これを克服して、私たちは近代的な国を造り続けてきたわけです。
 時々申し上げますが、『豊葦原の瑞穂の国』と言われるように、私たちの国は極めて自然条件に恵まれた国であります。
 農業をやりお米を作るという意味では、私たちの平野のほとんどが大河川の氾濫原にありますから、こんなに恵まれた土地はありません。
 しかし、その大地に鉄筋コンクリートや鉄骨という建物を支えていくということは、これほど不利な国はありません。
 ベルリンもパリもロンドンも、今から数百万年前に、氷河が削り取った固い台地の上に成り立っていることを思えば、私たちの住んでいるほとんどの土地は、一万年前から「縄文海進」といって水面が高くなり、どんどん引いてきたところに、河川が土砂を押し出して作り上げた、専門的には「マヨネーズ層」と言うそうですが、そういった大地の上に、私たちの暮らしは成り立っています。
 お米を作る、水田を造るには、これほど適した土地はありませんが、私たちの近代的なビルディングや構造物を支えるということになると、これほど不利な自然条件を持っている国はありません。


 社会条件についても同じようなことがいえます。
 そのような幾つかをご紹介したいと思います。
 このような国土の条件、自然条件を乗り越えて、その地域が持っている観光資源であったり、自然資源であったり、人的資源、気候風土というポテンシャルを活かして、できるだけ広いエリアで、国民全体で共有していき、その地域が持っている力をいっぱい吐き出して頂いて、その地域が富め、国全体が豊かになっていくために、色々な道具立てが必要であります。
 明治の初めには、鉄道と港湾を用意しましたし、現在では、道路というものを用意しなければならないわけです。
 その道路の本質は、「空間とネットワーク」だと思っています。
 道路という空間の中に、私たちは色々なものを入れています。
 下水道の100%は道路の下にあります。
 有名な話しでありますが、大阪の梅田の数軒に下水道が引けないために、大阪市がバキュームカーを走らせていました。
 何故そんなことが起きたのか。
 それは街路の整備ができなかったからです。
 街路の整備が数百メーター整備できない。
 結果として下水道がそこまで入らない。
 全部の施設が出来上がっているのだけれど、それが出来ないために、大阪市がそのエリアだけバキュームカーを持たなければならなかったということが、象徴的にありますように、下水道というものは、道路を前提としなければ成り立ちません。
 下水道の100パーセントは道路の下にあります。
 電話線、電灯線、電力線、ガス、水道、最近では光ファイバーといったものは、ほとんど道路を経由して家庭へ届いています。
 車が走る空間、人が歩く空間だけではありません。
 そういった空間だけではなく、都市に緑を供給している空間でもあります。
 また、容積率が道路との関係で決まっていますように、各家庭への採光空間としても道路の役割があります。
 さらに、阪神淡路大震災でも明らかなように、道路が十メーターから十数メーター空いている所では、延焼が起きませんでした。防災空間としても非常な意味を持っています。
 このように、空間という意味が非常に大きいものがあります。
 従って、高速道路やそれに類するものは違う考え方になるかもしれませんが、道路の空間をより充実させていくということは道路政策の一つの方向であります。
 もう一つは、ネットワークであります。
 ネットワークは、高速道路が一番判りやすいですが、他の道路と比べて隔絶されたサービスを提供する空間であります。
 その空間が、サービスの体系として色々国民に提供されなければならないと考えています。
 今我々は、管理者の体系。
 日本道路公団が管理する道路、国土交通大臣が直轄管理する道路(現実には、国土交通省地方整備局長が管理する)、県が管理する道路というように管理の体系でみていますが、これからはもっと、サービスの体系でみていく必要があるのではないかと思います。
 ネットワークをサービスの体系で見直すわけです。
 それは、ある種の道路になると、非常にエリアの情報がたくさん取れる道路。異常気象時や工事の混雑が起こるようなものが、リアルタイムで情報が取れるというものです。
 最近では、ETCやカーナビゲーションというような道路と路側が対話しながらリアルタイムの情報を得ながら進むことができるといった技術が手に入ったために、そのようなことが非常に可能になるわけです。
 このように、情報量が多い、情報量が少ないといったネットワークもあり得るわけです。
 これからは、そのような道路の情報の度合いに応じた判断をしなければ、交通量をみたのでは、道路の見方を間違えるというわけです。
 そのようなサービスを体系化するネットワークを提供していきたいと思います。
 また、もう一つ前提としてお話ししたいこととしては、現在整備計画の「9,342km」が多いか少ないかが議論されていますが、一部の方々は「9,342km」という数字の位置付けを誤解されているようです。
 四全総の際にコミューター空港を全国に30〜50ヵ所作ろうと描いたことがございます。
 しかし、この四全総で書きました30〜50ヵ所というのは、具体的に島根の何処に、或いは鳥取の何処に、岡山の何処にという積み上げ、用地計画があり、都市計画がされたというものではありませんでした。
 30〜40コミューター空港があれば我が国が大体ネットワークできるかなあという数字です。
 このような数字と「9,342km」という数字を混同して議論しているところがあります。
 どういうことか申しますと、この「9,342km」を整備計画で定めましたのは、11,520kmに至る平成11年12月時点での通過点でしかありませんが、この通過点でしかないこの数字は、現実に地域において何処にインターチェンジができ、このインターチェンジに対してどういうインター線を作り、そのインター線に合わせてどういう地域の立地計画があるかという、都市計画、環境アセスメントが終わった数字であります。
 地域の方々にとって、1/2500で、リアリティとして提出された積み上げが「9,342km」であります。
 従ってこの「9,342km」というものは、国民との約束ですと申し上げているのは、「9,342km」という数字があるのではなくて、「9,342km」の中に地域の方々にすでに縦覧するような手続きを経て、1/2500で示したもの積み上げが「9,342km」であります。
 このようなリアリティが背景にはあるということが理解されなければ、この「9,342km」は自由にちぎっていいんだという議論になりかねないということです。
 同時に我々の試算ですと、例えば事業費ベースで道路に1兆円投資しますと、用地のインパクトの部分を除いた場合、民間の方々の活動が10年分で3兆1,500億円の活発な活動につながるとみています。
 これは、フローの効果だけではなくて、道路ができたことによって工場が立地したりするようなストックの効果も入っています。
 これだけでも分かるように、道路というものは道路単体であるのではなくて、民間の色々な活動が背景についているということです。
 1兆円の単年度の投資が、10年間の積分値として3兆1,500億円の民間の投資に結びつくということです。
 その結果、同じく10年間の積分値で、1兆3,000億円もの税収が還ってくるという試算を持っています。
 道路投資を1兆円やることによって、民間が3兆1,500億円の活動があり、結果として1兆3,000億円の税収があがってくるということになります。
 このように道路というものは、車が走る空間、人が歩く空間だけで考えていたのでは、間違えてしまうインフラであります。
 もちろん、他のインフラも同じような効果をもっているのですが、道路ははるかに大きな力を持っているわけです。
 このようなことを考えながら、道路整備をしていく上で幾つかの制約条件や耳新しいお話しをご紹介したいと思います。


 先ほど自然条件のお話しをしました。
 地震があり軟弱地盤が存在し、大河川の河口部に都市が存在するなど、自然条件の厳しさがありますが、もう一つは、社会条件の厳しさがございます。
 これは、地籍でございます。(ここからスライドで説明)
 地籍の確定率が全国平均で43%となっています。
 これは世界の国々に比較して著しく低い数字で、我が国は先進国の中にあって唯一地籍の確定していない国であります。
 韓国も地籍が確定しています。
 地籍というものは「一筆ごとの土地の所有者や地番や地目、境界や面積が確定している状態」でありますけれど、これが確定していない状態が「地籍が確定していない」ということであり、結果としてどのようなことが起こるかといいますと、道路整備をする際に、「地籍の確定」を道路整備側がしなければならないことになります。
 用地買収費を払わなければならないわけですから、この土地が誰のもので、誰の土地で面積が確定しているのか、隣地との関係がはっきり確定しているのかということが判らなければ、私たちは用地補償費を払うことができません。
 しかしながら、43%しか地籍が確定していないということは、残りの57%について、公共事業サイドで調整しているということであります。
 公共事業の用地に占めるコストの高さは、皆様方はよくおわかりだと思います。このことがどれだけ公共事業のコストを押し上げているかは明らかであります。
 特に、山間部で道路を造るということになると、公図混乱のために用地取得ができないという個所がたくさんでてまいります。
 こんなことは、先進国の中で我が国だけだということをどれだけの人が理解しているでしょうか。
 毎年、国土交通省で地籍の確定率を上げるために努力をしていますが、なかなか困難であります。
 全国平均は43%でありますが、ご覧のように、赤いところは20%未満というわけです。
 大阪はわずか1%であります。
 東京は17%であります。
 青森と沖縄が90%以上という状況であります。
 こういうことをしっかり確定させていくことがインフラの基本だと思います。
 この地籍確定を今、公共事業サイドがやらされているということであります。
 用地補償費の割合でございますが、だいたい平均して20%でございますが、かなり高い用地比率で用地を買わなければならないことがございます。
 しかし、この用地補償費も先ほどいいました乗数効果には入っていませんが、これも色々な意味で景気に対してプラスに効くわけですから、必ずしもマイナスの意味で理解することはできないかもしれません。
 次に、中国も16,000qの高速道路をすでに整備しています。
 最近は、大変な勢いで西部開発ということで、年間約2,000kmの供用をしています。
 私共の道路ストックが約6,860km、今年の暮れには6,890qを超えますが、近年高速道路を整備している国は、先進国の中で日本だけだという言いかたをされる方がいますが、決してそのようなことはありません。
 1982年からみても、ドイツ、フランスに比べて、私たちの高速道路の供用延長は下回っています。
 アメリカはあれだけの道路大国でありながら、この十八年間に約1万キロの新規供用をやったわけです。
 中国の16,000qは、私たちの先輩である沓掛哲夫(現参議院議員)氏が道路局長時代に、中国に高速道路の造り方を教えに行ったといいますが、中国と日中道路会議というものを始め、その時に私たちの構造の考え方等をお教えしたわけです。
 その後彼らの国は、私たちの国を遥かに上回って整備されたということです。
 すでに、上海と北京の間は高速道路で結ばれています。
 私たちは高速道路のストックだけではなくて、ここには(資料)、制限速度60キロ以上の道路ネットワークが、どれだけあるかということの、ドイツと日本の状況が書いてございます。
 私たちの国は、一般道路法定速度が60キロでありますが、色々な事情によりまして、市街地や家屋連担地域では制限速度が60キロ以下に設定されています。
 ドイツなどは、都市の真中でこそ30キロ規制、20キロ規制などはありますが、都市のエリアを離れると、遥かに延々と小麦やブドウ畑が広がっているという土地利用でありますから、都市と都市を結んでいます一般道路においても、かなり高い速度サービスができるようになっています。
 これは(資料)等縮尺で書いてございますが、右の国土と左の国土と、どちらが効率的にものが運べ、どちらが効率的に人が移動できるかということを考えても明らかであります。
 さらに、100キロということになりますと、次に書いてございますとおりです。
 ドイツもさすがにアウトバーンのネットワークになるわけです。
 ほぼアウトバーンのネットワークで彼らの国は、制限速度を入れていないために、推奨速度130キロなっていますが、そのネットワークでいきますこのような(資料の)状況であります。
 私たちの国は、高速道路の整備が進んでいますが、設計速度80キロの区間もあったりして、100キロで走行できる道路というのはこれほど少ないわけであります。
 国土が持っている力をより十分に発揮させようと思うと、地域と地域が結ばれて連携していくという時代が必至でありますが、そのためには高速交通体系で結ばれていなければならないわけです。
 ネットワークが不十分であるばかりではなく、このような状況にあるということを理解した上で、私たちの国は間違いなく、この国と競争しているわけですから、この競争状態をどう考えるかということです。
 そりから、道路と医療のお話しでございます。
 最近、色々な観点からこの点についてお話しさせて頂いていますが、この右の下は、中国地方の三次医療施設でございます。
 三次の医療施設は、脳卒中、心筋梗塞、頭部外傷等の重篤な患者を24時間受け入れるという施設です。その施設に一体どのくらいの時間で到達できるか、30分以内で到達できるかどうかによって、命が助かる助からないといったことがよくあると聞きます。
 左が東京の三次医療施設がございます。
 東京には、13の三次医療施設がございます。
 もし、同じ時間で行けるとすると、東京都民は13の病院を選択することができるわけです。
 しかし、中国地方は残念ながら、広島の一部や岡山の一部を除き、選択の自由すらありません。
 東京23区が一施設あたりのカバー面積が47.2平方キロ。
 ところが、中国地方の一施設あたりのカバー率は、2,900平方キロという数字でも明らかです。
 もちろん、道路だけがこの条件を克服できると考えておりません。
 色々なものが必要でありますが、高速道路がこのような施設へのアクセスビリティを高め、地域の方々の命を救うという役割を果たしているということは明らかです。
 次は、「生命維持装置」と書いていますが、同じエリアを交通量で見た絵と、血液の輸送状況で見た絵でございます。
 太いところは交通量が多いわけですが、右の図をご覧頂きますと、交通量だけで整備の必要性を議論すると、ここにありますように松江と出雲の間は国道9号で見ていますが、交通量が多いから整備しなければならない、渋滞を解消しなければならないと見えるわけです。
 それはそれで正しい見方であります。
 しかし、それぞれの病院へ血液がどのように運ばれているか。
 血液の輸送ですから、今日は雨が降って通れませんとか、雪でなかなか通れませんという道路整備では困るわけです。
 そのような状況から考えますと、この太い線をみてみると決して松江と出雲の間だけが太いというわけではないということが判るわけです。
 これらの地域の生命、救急医療を考えると、この道路ネットワークが災害に強く、定時性が確保されており、高速性が高いということがいかに必要かということがわかるわけです。
 このような見方をしてみますと、我々道路局が、交通量で道路を評価してきたということに大きな反省をしなければならないと思います。
 私たちは「生命維持装置」としてのどのように提供していくのかということについて、もう少し整備のあり方について工夫をする必要があると考えます。
 次に、「道路は効率的な社会システムの形成に貢献」とありますが、「行政システムの効率化」は、三重県の北川知事は『道路整備によって三重県の出先機関の統廃合が相当出来た』とおっしゃっています。そのことを参考に書かせて頂いています。
 「経済システムの効率化」については、「営業所の再配置による営業改善」とございますが、これは中部電力の会長からお聞きした話しでございます。
 ここ10年、20年の間に、中部電力では営業所を半減することができたということです。
 これは道路整備のお陰だとおっしゃっていました。
 つまり、道路整備によって、外部経済効果として、中部電力の営業所を半減させ、電力料金の値上げを防止することができたという効用もあるわけで、ここにありますように、「最適な地域社会の実現」のために、道路は色々な貢献をしているといえるわけです。
 次ですが、これは最近、アメリカのジョージ・メイソン大学が論文を発表したものですが、この10年間に日米の経済格差が大きくついてしまったというものです。
 その一因に、我が国の公共事業に戦略性がないからだという報告です。
 まず第一、に書いていることは、日本の経済低迷は公共事業の歪んだ配分にあるとしています。
 彼らの国は、連邦政府の支出でいいますと、道路の支出が現在2001年で、54%ぐらいであります。
 これは1997年に50%弱だった。1980年代に30%強だったということから思えば、大変な伸びで道路整備をおこなっているわけです。
 それ以外も公共交通、空港、港湾といったもの重点を置いていまして、これら交通施設に関する連邦政府の支出は80%であります。
 私たちの国の道路支出は公共事業費全体に占める割合が約27%であります。
 結果として、二つ目に書いてございますが、『我が国では公共事業が社会政策的な、或いは、ケインズの乗数効果のようなものに引っ張られた、時代遅れの考え方』と指摘しています。
 アメリカではストックの生産性に着目し、GDPを押し上げる事業に重点投資する考え方になっていて、従って、公共事業の80%が交通インフラに対する投資になっているというわけです。
 過去20年間の状況をみますと、我が国の公共事業シェアにほとんど変化がありませんでした。
 むしろ、道路の国費シェアを下げてきて、その分を下水道をやってきたというような実績がございます。
 現在は、道路整備に対しまして、一般財源はほとんど入らず、道路整備に関しましては特定財源のみに押し込められているという状況になっています。
 道路の国費シェアは年々下げてきています。
 ここ40年間をみましても、四十数パーセント台から、二十パーセント台に下がってきているわけですが、これはアメリカと全く逆の傾向です。
 アメリカは1980年代に三十パーセント台、2001年には54%になっていることを考えると、彼らの国は、三番目に書いてございますが、『生産性理論をバックボーンに劇的に公共事業の考え方を変化させた』ということをいっております。
 結果として、1990年代の経済発展に大きく寄与したとしています。
 これはジョージ・メイソン大学の主張でありますが、日本も高生産性部門に公共事業予算をシフトさせるべきだという報告であります。
 1997年にアメリカは、道路の特定財源、連邦の燃料税というものがございますが、これは連邦政府がガソリンにかけている税金ですが、これが現在18.4セントという税をガロン当りかけています。これはここ数年変っていませんが、そのうち1996年までは道路に使います部分が12セントでありましたが、現在では、1997年に15.44セント、30%も増大させたわけです。
 これは、1997年の「TEA21」という法律です。
 これは「Transportation Equity Act for the 21st Century (21世紀に向けた交通平準化法)」であります。
「Transportation Efficiency(効率化)」ではありません。
 アメリカ国土に平等と公平性をもたらすためにTransportation を用意しようという法律に、クリントン大統領はサインした時に、アメリカでは財政赤字を削減しながら、交通分野に重点的に予算を配分できたことを誇りに思うとまで演説しています。
 バックボーンにこのような考え方があるということは、我々にも参考になる点が多いのではないかと思います。
 翻って我が国では、公共事業に対していいますと、無駄な公共事業は止めろという議論がございますが、しかし、その主張の中に「無駄の定義」というものをお聞きしたことがございません。
 「どういうものが無駄か」
 「どういうものが無駄でないのか」
 「効率性において劣る、劣らない」というものがあります。
 しかし、効率性におきましても、先ほどの血清の地図でも申しましたが、交通量だけで評価できないということは明らかな状況のもとで、何をもって今後の公共事業の柱としていくのか、深い考え、深い洞察が必要な時代がきたのではないかと思います。
 関係の皆様方のご支援を得て、引き続き地域の活力を引き出せるための道路整備に邁進していこうと考えますのでよろしくお願いいたします。
 今日は大変ありがとうございました。


司会 ありがとうございました。
本日は卓越した見識と、豊富な経験をもとに大変貴重なご講演を頂きましてまことにありがとうございました。
 皆様、今一度盛大な拍手を大石様にお送りください。
 今後益々大石様のご健勝をお祈りいたします。
 ありがとうございました。