〈建設グラフ1999年6月号〉


建設CALS/ECへの構築へ向けた取り組みが加速


 1997年6月に建設省が発表した「建設CALS/ECアクションプログラム」は、今年度から第2フェーズの段階に入った。このプログラムが終了する2004年の最終整備目標は「建設省直轄事業の調査、計画、設計、施工、管理に至るすべてのプロセスにおいて電子データの交換・共有・連携を実現」。建設省が進めるこの「建設CALS/EC」に代表されるように、建設業界における情報化が活発になってきている。

■CALS/ECとは情報を電子化して共有・連携すること
 建設省のホームページでは、建設CALS/ECが必要とされる背景、意義を次のように説明している。
 電子的に蓄積されたデータや書類・図面の再利用はコンピュータの最も身近な活用法であるが、データの表現形式や媒体の標準化が行われなければ、部署をまたがる情報の交換や共有を実現するまでには至らない。しかし、オンラインでのデータ交換が可能な環境が整ってきた現在、広範囲での情報共有や連携の必要性が増大してきている。
 米国国防総省では、兵站の合理化を目的として開発・調達・保守の一連の流れにおけるデータ表現や諸手続の標準化に取り組み、この活動は、民間へと波及していった。この「情報の電子化活動」がCALSといわれるものだ。
 建設省でもCALSの概念を念頭においた「公共事業支援統合情報システム」(建設CALS)の検討を開始した。
 建設CALSの目的は、徹底的な情報の電子化を行うことにより、組織や事業区分の枠を超えた情報の交換・共有・連携ができる環境を構築すること。その効果は公共事業全体のコスト縮減や品質の確保・向上、事業執行の迅速化といったことにある。

■建設業でCALS構築が必要な理由
 建設CALSが、従来の情報化やOA化と大きく違うのは、情報の共有・連携、すなわち他人に利用されることを前提に情報の収集や加工を行うことである。
 特に公共事業に特徴的な条件として、発注から維持・管理に至るまで、関係者の数が多く、頻繁に情報交換が行われること、その情報は図面・写真など多様な媒体であること、現場と発注者や会社が距離的に離れていることなどが挙げられる。
 これらの課題を克服する手段として、情報の共有・連携はコスト削減、納期短縮、品質の確保・向上といった効果に結びつくと考えられる。

■建設省の取り組み
 建設省の取り組み状況はホームページで見ることができる。現在の新着情報は、CADデータの流通についての検討がテーマとなっている。
 また、全地方建設局のホームページでは発注予定情報を掲載しているほか、関東地建首都国道工事事務所などは、建設CALS/ECアクションプログラムフェーズ1で行った実証フィールド実験の状況などを掲載している。

■北海道開発局の対応
 北海道開発局では「行政情報化実施計画(平成10年度〜14年度)」を、昨年12月に策定した。この計画の中に、同局としてのCALS/EC構築が含まれており、11年度中には、実現のための具体策が決定する予定だ。
 昨年はモデル工事19件、モデル業務22件を対象として工事の諸手続の電子化等の試行を行った。内容は次のとおり。
【目的】受発注者間における電子情報の交換。ただし、合意確認の手段とはしない。
【施工計画書】インターネットを介したオンラインにより、「施工(業務)計画書等」を交換する。
【打ち合わせ等】インターネットを介したオンラインにより、「打ち合わせ等」の情報交換を行う。
【成果品】「成果品」は、プリントしたものと電子媒体(MO又はFD)によるものも併せて納入する。ただし、図面についてはCADにより作成した場合のみを納入する。
 今年度は、全工事を対象に、これらの内容の中で、受注者が対応できる部分のみについて実施していく予定。
 また、ホームページによる情報の提供も進めていく方針で、地理情報システム(GIS)の効率的整備、利用促進のほか、11年度中に発注予定情報や入札公告も掲載することとしている。

■建設業界及び業界団体の取り組み
 業界側では、社団法人日本土木工業協会(土工協)がCALS検討特別委員会を設置し、調査・研究・講演会等の活動を積極的に行っている。北海道では、北海道ゼロックス鰍ネど、民間の会社も啓蒙のための講習会を開催している。
 土工協が行った講演会に対する意見・感想が同協会のホームページに掲載されているが、「役に立った」という意見とともに「具体的方策についての情報がほしい」という意見も多く、CALS全体を構築するために、「何から始めればいいのかシナリオが見えない」という建設業者がやはり少なくないようだ。
 ただし、管理基準が比較的明確なデジタル写真については、土工協の現場電子化技術調査でも、自動計測に続いて普及度合いが高いと報告されている。導入時には上の事例のような、パソコンの操作習熟や初期コストの問題、発注元が求める報告データの規格の問題等がそれぞれ発生すると考えられるが、土工協ではこうした問題にも対応できるよう「CALS対応へのシナリオ」を提唱している。


■受注者側の建設CALS試験導入事例

 勇建設株式会社では、昨年、デジタルカメラによる工事写真管理を試験導入した。対象工事は北海道開発局小樽開発建設部発注で勇・テトラJVが受注した石狩湾新港北防波堤上部工ほか一連工事。日々の工事写真管理から発注先への提出まで、作業所長の野口氏が主に担当した。
 小樽開発建設部から提示されたデジタル写真での提出条件は、「出力画素数80万画素以上」「記録媒体は230MBのMO」「プリントアウトしたものは3年間劣化しない品質のもの」という内容。現段階では、紙以外の媒体は公文書とされないため、デジタルデータだけではなく、プリントアウトしたものもいっしょに提出するよう求められた。
 この条件に対応できるように、準備した機器は、パソコンのほかにMOドライブ、カラープリンタ(レーザーとインクジェット)、編集ソフト(現場編集長)、デジタルカメラ2台、記録媒体等で、合計100万円以上を投資した。
 作業行程は右図に示した通り。野口氏によると、導入初期には撮影したファイルを整理する作業を、毎日1時間ほどかけて試行錯誤しながら行っていたとのこと。現在では30分以下で完了するようになっている。また、提出用工事アルバム作成にかかった時間は従来の半分であった。
 こうした作業時間の短縮を実現するためには、パソコン操作の習熟が必要不可欠。この試行錯誤の段階を時間的投資として予め見込んでおく必要がありそうだ。
 また、扱う素材が画像データであるため、パソコン本体の性能、出力するプリンタのスピードも作業時間に大きく影響する。特に、アルバム作成時には速いレーザーと高画質のインクジェットを目的に合わせて効率的に使い分け、作業時間の短縮を図った。
 作業工程の図にはないが、バックアップも重要な作業と位置付けられている。ネガと違って、デジタルデータは形が残らないため、データの消失防止には特に注意を払っているそうだ。
 この試験導入で担当の野口氏が感じたデジタルカメラ使用のメリットは、第一に「省スペース、省コストが実現できる」ということ。この現場でも、従来ならば10冊分になったであろう工事写真アルバムが、MOとアルバム3冊に集約され、フィルム・現像等のランニングコストも3分の1以下になった。
 また、張り合わせなど、写真の編集・加工が容易になったこともデジタルならではのメリット。
 そして何よりも、CALS構築にとって最大のメリットは、撮影した画像をすぐに見ることが可能だということ。例えば、危険箇所等の発生によって発注者に指示を仰ぎたい場合など、デジタルカメラで現場を撮影し、オンラインで離れた場所にいる担当者に見せれば、リアルタイムの対応が可能になる。
 勇建設株式会社では、今年も引き続き、「石狩湾新港基礎工ほか一連工事」での工事写真をデジタルデータで提出する予定だ。