〈建設グラフ1997年6月号〉

地方振興策に関する道内市町村の展望・要望アンケート

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過疎からの脱却に向けて、情報交通網整備を

インタビューのなかで鈴木正明・地方振興局長は、

と強調されています。
中央省庁の再編問題が橋本政権の最重要課題になつていますが、国土庁の地方振興策に関して具体的なご意見・ご要望をお聞かせ下さい。

地方分権と地方分散をセットで
問いは、国土庁の地方振興策について、各市町村がどう見ているか、どんな要望があるかを問うもの。
評価する意見は「豊かな自然との共生を図り、可能性を秘めた地域から発展する地域に向けた施策を展開する上では、国土庁の地方振興策はタイムリー」、「情報インフラ整備や定住条件の整備、自然との共生を次期全総のグランドデザイン、過疎・過密、地方分権、地球環境などの今日的課題と融合させた点で期待できる」など。
反面、国土の均衡ある発展、各地域の個性、独自性を伸ばして多様性のある国土形成を目指すという考え方には「全国一律の施策では、地域事情に即した個別的な振興策とは言えない」との異論もある。中には「政府の財源不足により全国均一の国策は不可能だから、モデル的な自治体を指定して重点的に投資してはどうか」と、政府の赤字財政に配慮した提言もあった。
とはいえ、財源の大半を地方交付税や各種補助、助成に頼っている現状から、補助対象となる自治体の合併には消極的で、「町村合併は除雪体制の地域格差を生むなどデメリットが大きい」と回答。さらには「政府の財政難の原因は公共事業への過剰投資」と指摘し、「むしろ、これによって恩恵を受けた大企業が、まちづくりにおいて自治体のパートナーとなるよう政府が支援すべき」といった要望もある。
その他、国土庁の政策というよりも国政全体について「国の縦割り行政の解消」を求める回答もあり、中には「第一次産業の振興のため、北海道開発庁、農水省、建設省の連携強化を」と、具体的な省庁名を挙げて横断的な政策展開を望む回答もあった。ただし、「省庁再編によって地方に犠牲が生じない配慮が必要」との回答もある。全体としては省庁間の連携強化を望む声が圧倒的だ。

すべての政策の根幹は過疎対策
国土庁に対する政策的要望については、「自然環境保全策」、「産業振興に対する支援策」、「補助制度、助成制度の拡充や見直し」、「地方分権、地方分散の推進」、「交通網整備」、「情報インフラ整備」、「企業立地」、「過疎・定住対策」、「福祉政策」、「生活環境整備」などに大別されるが、これらを組み合わせての回答もある。
最も要望が高かったのは過疎、定住対策で、これは市町村にとって、あらゆる政策の根幹に位置する問題といえそうだ。「過疎地の市町村が行う宅地分譲に対する補助制度の充実」、「3分の1と規定されている定住化住宅への国庫補助率アップ」、「過疎地への積極的な基盤整備」、中には地理的条件を反映して「岬振興法の制定」、さらには国全体を見通して「1億人程度の人口を維持するための国策を具体的に考えるべき」とする意見もある。
次いで多く見られるのは「新規産業興しや企業立地を通じて住民の定着化を図るための支援策」「産業基盤整備」への要望は相変わらず根強いが、「情報インフラ整備」、「企業立地条件の整備」、「交通網整備」、「地方分権・地方分散の促進」などもそれに深く関連している。中には「第三セクターの育成を軸とした施策の充実」を求める回答もあった。

情報インフラ整備に関しては、「中核都市や隣接市町村との距離が長いという北海道の地理的不利を是正する上では不可欠」とし、また「地方の人材が都市部へ流出しないための環境整備」と位置づける見方もある。
そして「コンピュータ使用にかかる通信使用料の格差是正、高品質大容量回線の敷設」、「地方からの情報発信が可能となる支援策と運営費などに対する補助制度の充実」などを求める回答が多い。一方、「国の公共投資は経済的メリットの高い地域を優先してきた」として、従来の経済性重視の姿勢を批判。「情報インフラの整備は期待できるが、過疎地域での需要が低いことを前提に、公共資金の導入を含め整備手法の見直しをしてほしい」とする回答もあった。また、「情報インフラよりは交通網の整備が急務」として優先順位はあまり上位に置かない回答も見られる。

交通網整備については、産業振興、企業立地、地方分権・地方分散とセットにしている回答が多く、これが「都市部への集中排除に必要」という論理展開が多く見られる。つまりこれらを進める上での最低条件が交通網であると見ることができる。
また、豪雪地帯では地理的不利を克服するための必要性を訴える回答もあった。
ただし、交通網整備といっても「自然環境を守りながら」と条件づける回答もあり、自然環境への影響を気にかけている回答も見られた。
産業政策では、新規産業の振興に国の支援を求める回答と、既存の第一次産業への振興策、また産業興しというよりも地方分散のための企業立地への支援を求める回答に分かれている。中には、第一次産業を中心としながら自然環境を生かして観光地や休養地としての振興を図るといった、いくつかの産業を融合させた回答もある。
第一次産業では、国土荒廃と農業従事者の減少を防ぐため「U・J・Iターン、新規参入者のための施策」を必要とする回答もあった。基本的にどの市町村にも共通するのは「第一次産業の振興を通じて、農産物を大都市に供給できる食料供給基地としての役割を担うこと」に意欲を持っていることだ。

新規産業の振興については「独自性のある製品開発のために地場資源利用型産業の振興」、「リーディングインダストリーの育成・支援、中心市街地の再活性化」、「海に囲まれ、自然に恵まれている北海道の地域特性から研究開発型産業や環境関連産業の展開」、また、「一極集中に向けて産業自体の再配置」を求める回答もある。
企業立地については、「大企業の地方移転に税法上の優遇策」、「財政支援と土地利用などへの規制緩和、手続きの簡素化」などを求める回答が多かった。中には「多自然型工業地域の設定によって、企業が地方進出によるメリットが得られる政策」と、より具体的に踏み込んだ回答も見られる。
自然環境保全策への要望は、自然環境を環境保全の対象としてだけでなく、自然環境に食糧供給基地としての役割を求めたり、観光資源として活用したり、人間性の回復や生活環境整備の上で欠かせないものと捉え、そのために「自然と調和した都市景観の整備」を求めている。

一方、単純に環境保全の目的に基づく回答もあり、このために「助成制度の充実」や、「地方交付税配分にその公益性を反映すること」への要望や、「森林交付税、農林景観補助制度の確立や、廃校を利用した森林技術者養成学校の創設などを通じて多自然居住地域の実現を図るべき」などの提言もある。もちろん、インフラ整備においても「自然との共生」に配慮することを望む回答があり、「中山間地域の育成が必要」とする回答もある。
地方分権・地方分散は、補助制度やその他の財政的支援と組み合わせて回答したケースが多かった。「地方分権を推進して地方交付税を拡充し、また補助制度に伴う制約排除によって、地域の個性、独自性が伸ばされる」といった具合である。

そして、「国、道が地方公共団体の現状と課題を詳細に調査し、振興策への財源確保と支援策を充実させる」といった、分権後の関係機関の役割について言及する回答も見られた。
地方分散については、単に都市機能の分散だけでなく、「国家機関の分散」、「教育、研究機関、情報集積バックアップ機能の分散」として、特定の分野に限定しての分散を求める回答も見られた。
しかし、必ずしも地方分散にこだわるわけでなく、「産業、文化の異なる地域間での連携強化で活路を模索することもできる」とし、このために「施策に関する決定権の委譲」を求める回答もある。
補助、財政支援については、地方分権とは別に「地域の特性を生かした振興策に対するもの」や「地域資源の有効な活用システムを織り込んだ実践活動」といったソフト面に対するもの、さらには「財政力指数に応じた国庫補助の体系、制度の確立」を求める回答もあった。


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