建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2006年2月号〉

年 頭 所 感

国土交通大臣 北側 一雄

新年のはじまりにあたって
平成18年という新しい年を迎え、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
昨年を振り返りますと、JR福知山線脱線事故、航空トラブル、福岡や宮城での地震災害、台風等による豪雨災害、建築物の構造計算書偽装事件など、災害、事件・事故などが数多く発生し、「安全・安心」の大切さを強く再認識させられる一年でした。日本経済は、緩やかに回復しているところであり、本年が、冬季オリンピックやfifaワールドカップの年にふさわしく、皆様方にとって希望に満ちた活気ある明るい年となりますよう祈念いたしております。私も、昨年の出来事を貴重な教訓としつつ、本年を「耐震元年」として諸施策を強力に推進するなど、引き続き、安全・安心社会の確立などに向けて全力で取り組んでまいります。
国土交通行政は、国土政策、社会資本整備、交通政策等幅広い任務を担っており、そのいずれもが国民生活に密着するものであります。
国土の将来像を踏まえ、国民の立場・視点に立った、時代の要請にふさわしい行政の推進によって、国民の皆様の期待に応えることができるよう、以下に申し述べる課題に重点を置いて取り組んでまいります。
災害に強い国土づくり
我が国は、全世界の0.25%の国土の上で全世界の15%もの被害が発生するなど、災害に対して脆弱な国土条件にあります。このため、「減災」の考え方に立ちつつ、目標期限を示して強力に取組を進めることが極めて重要であります。
特に、発生の切迫性が高まっている大規模地震への対策として、先に改正を行った耐震改修促進法の枠組みのもと、新年早々にも耐震化促進のための基本方針を策定するとともに、全国の地方公共団体による促進計画の策定を推進し、「10年間で耐震化率9割」を目指して住宅・建築物の耐震化を促進してまいります。また、密集市街地対策や大規模盛土造成地の耐震補強についても総合的に取り組んでいくとともに、橋梁耐震化等による被災時の緊急輸送ルート確保等の広域防災体制の確立や避難困難地域の解消等に向けた一体的な津波対策に積極的に取り組んでまいります。
さらに、台風を始めとした豪雨災害や、米国のハリケーン被害を教訓とした高潮被害への対策も喫緊の課題であります。人命や生活に深刻な影響を及ぼす被害等への対策の重点化とともに、土地利用状況を考慮した治水対策の推進や、ハザードマップなどの防災情報対策等により、確実に被害軽減を図ってまいります。
事件・事故を踏まえた安全・安心な社会づくり
昨年は、公共交通機関における重大事故やトラブルが続いたことから、公共交通に対する国民の信頼回復が喫緊の課題となっております。このため、公共交通の事業者におけるトップから現場まで一丸となった安全管理体制の構築を推進し、その確認を国が行う「安全マネジメント評価」の仕組みを導入するとともに、事故調査体制の強化や事故防止技術の活用にも取り組んでまいります。
鉄道分野においては、おおむね平成18年度までにats等の緊急整備を図るとともに、より安全な鉄道を構築するための技術基準の見直しや鉄道事業者における運転士の資質管理に関する責任体制の確立、国による監督体制の充実強化等必要な措置を講じてまいります。
航空分野においても、航空会社に対する監視・監督体制を抜本的に強化するとともに、ヒューマンエラー対策や航空機材の故障等に関する安全情報の収集・分析を通じて事故の予兆段階から効果的な安全対策を講じるための予防的安全行政への転換を図ってまいります。
また、昨年、ロンドンの地下鉄などでテロが発生するなど、テロの脅威が世界的に高まっています。本年1月の「国際交通セキュリティ大臣会合」の開催等により、交通分野のテロ対策の国際連携を強化しつつ、陸・海・空の交通機関や空港、港湾、ダム等の重要施設に対する警備の強化を推進してまいります。
さらには、昨今の海洋権益を巡る情勢を踏まえて、海上保安庁の巡視船艇・航空機の刷新等海洋秩序維持対策を推進してまいります。
構造計算書偽装事件については、居住者の皆様の安全と居住の安定の確保対策に努めるほか、建築確認制度の在り方についても必要な検討を進めてまいります。
また、踏切事故の発生を踏まえ、「開かずの踏切」等の踏切対策のスピードアップに努めてまいります。
被害の拡大が懸念されるアスベスト問題につきましては、建築物等の吹付けアスベストの早期かつ安全な除去・封じ込め等の推進、建築物の解体現場における飛散予防対策の徹底などに取り組んでまいります。
我が国の国際競争力の強化、観光立国の実現
発展する東アジアとの経済交流の拡大や国際的なジャストインタイムの要請の高まりなどを踏まえますと、これらの変化に対応したスピーディかつ効率的な国際物流システムの構築は、喫緊の課題であります。
このため、昨年11月に策定した「総合物流施策大綱(2005−2009)」に基づき、スーパー中枢港湾プロジェクトの推進、大都市圏拠点空港の機能向上、アクセス道路等の円滑かつ効率的な交通ネットワークの形成、港湾ロジスティクス・ハブの整備等国際・国内一体となった物流施策や、日asean交通連携のもと日asean物流改善計画を推進します。
また、観光については、本年は、日中観光交流年・日豪交流年・日星交流年であり、これらの国々との観光相互交流を一層推進しつつ、2010年までに訪日外国人旅行者数1000万人を達成するため、観光立国の実現を推進します。
このため、青少年交流の促進や姉妹都市交流の活性化などを図りつつ、ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化を図るとともに、観光ルネサンス事業の拡充等により、官民一体となった取組をハード・ソフトの両面から支援し、国際競争力のある観光地づくりを推進します。
都市再生・地域再生の推進
我が国の活力は、すなわち都市や地域の活力であり、その維持・強化は重要課題であります。特に、都市機能の拡散と中心部の空洞化が地域の停滞に拍車をかけている一方、高齢化の急速な進展に伴い「歩いて暮らせるまち」が求められています。
このため、いわゆる「まちづくり三法」の見直しを行い、意欲のある地区における都市機能の導入等への支援等を通じて「賑わいの核」づくりや都心居住を促進するとともに、都市計画制度の見直しにより大規模集客施設や公共公益施設等の広域的都市機能の適正立地を推進し、中心市街地の活性化、高齢者をはじめ多くの人が暮らしやすい「コンパクトなまちづくり」を実現します。
老朽化・陳腐化等のいわゆる「オールドタウン」化したニュータウンにつきましては、その再生・活用を図ってまいります。
さらに、地域間の移動を大幅に短縮し、経済活性化等に大きな効果をもたらす整備新幹線を着実に整備します。
生活者の目線による暮らしに密着した施策
本格的な少子高齢社会の到来、人口の減少等が見込まれる中、「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえ、だれもがその個性と能力を十分に発揮し、自己実現を図っていける社会づくりに取り組むことは重要であります。
このため、昨年7月に策定した「ユニバーサルデザイン政策大綱」の考え方を踏まえ、バリアフリー化に関する既存の法律を統合・拡充した新たな法制度を創設し、公共交通機関、歩行空間及び建築物等を通じてより一体的・総合的なバリアフリー化を推進してまいります。
住生活の安定・向上につきましては、住宅建設五箇年計画に代わる新たな計画制度の創設などを内容とする住宅政策の基本法制を整備し、住宅政策を総合的・計画的に推進してまいります。
環境対策の強化
我が国は、京都議定書に基づき、約束期間(2008〜2012年)において温室効果ガスの排出を1990年比で6%削減することが求められており、温室効果ガス抑制目標の確実な達成が喫緊の課題となっております。
このため、低公害車の開発・実用化の促進とその普及、新たな燃費基準の策定、エコドライブの普及・推進、環状道路の整備による円滑な道路交通の実現、海運・鉄道の活用や物流総合効率化法の活用等のグリーン物流の推進、公共交通機関の利用促進などにより、環境にやさしい交通の実現を図ります。また、改正省エネルギー法に基づき、運輸分野、住宅・建築物分野の省エネルギー対策を推進します。
また、循環型社会の形成に向け、建設リサイクルなどを推進してまいります。
国土交通行政の新たな展開
国土交通行政を展開する上では、時代情勢を見据えつつ、不断に必要な見直しを行っていくという姿勢が極めて大切であります。
まず、人口減少社会の到来を始めとした経済社会状況の変化を踏まえ、国民が安心して生活しうる国土の将来像と、豊かでゆとりある国民生活のあるべき姿を示す国土形成計画の策定を進めてまいります。
社会資本整備については、今後とも更なる事業の重点化や事業評価の厳格な実施、コスト縮減の徹底などの改革に積極的に取り組んでまいります。
昨年、国土交通省直轄の工事等において入札談合事件が発生いたしましたが、誠に遺憾であり公共事業への信頼を揺るがしかねない重大な事態として厳しく受け止めております。直轄工事について一般競争方式の対象工事の大幅な拡大、ペナルティの強化等の総合的な再発防止対策を徹底するなど、公共工事の入札及び契約の適正化に努めてまいります。
原油価格の高騰問題への対処については、運輸事業の健全な運営・発展の観点から、トラック、内航海運を始めとした運輸事業の現下の窮状に対し、最大限の努力を行ってまいります。
なお、国会等の移転については、国会における検討に必要な協力を行ってまいります。
以上、新しい年を迎えるにあたり、国土交通省の重要課題をいくつか申し述べました。国民の皆様のご理解をいただきながら、ご期待に応えることができるよう、諸課題に全力で取り組んでまいる所存です。
国民の皆様の一層のご支援、ご協力をお願いするとともに、新しい年が皆様方にとりまして希望に満ちた、大いなる発展の年になりますことを心より祈念いたします。

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