建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年9月号〉

特集

日本最大規模の下水道を支えるインフラ整備―東京の安全で快適な都市生活を実現

「下水道構想2001」や「経営計画2004」を策定し、都民に最良のサービスを提供

東京都下水道局

東京都下水道局は、将来にわたって下水道サービスの維持向上を図っていくための指針である「下水道構想2001」や、「お客さま」「環境」「経営」の3つの基本的視点に立った新しい下水道事業を推進する「経営計画2004」を軸に、安全で快適な生活を実現する事業を推進している。同局の取り組みについて特集する。
▲日本最大規模をほこる森ヶ崎水再生センター
下水道の3つの施設
下水道は下水道管、ポンプ所、水再生センターの3つの施設で構成される。下水道管は東京中に葉脈のように張り巡らされており、23区だけでも約15,500kmにも及ぶ。この下水道管に集められた下水道はポンプ所を中継して水再生センターに送られる。
下水は傾斜で自然流下し、相当の深さになるとポンプで下水を地表近くまでくみ上げて再び自然流下。ポンプ所は大雨時などに下水道管に流れ込んだ雨水を速やかに川や海に放流し、浸水を防ぐ大切な役割も果たしている。
東京都が管理する水再生センターは20箇所あり、処理される下水は一日あたり約590万m3である。この大量の下水を処理するため、水再生センターでは沈殿池を2階層にしたり、生物反応漕を深くするなど、省面積化して土地の有効利用を図っている。また施設を覆う屋根は、上部公園として開放している。
区部下水道事業の概要
公共下水道は、原則として市町村の事務とされているが、東京都では他の自治体と異なり、東京都が“市”の立場となって下水道事業を行っている。
区部の下水道事業は、23特別区の57,839haを対象に公共下水道の建設・維持管理を実施する。区部下水道は、古くは「神田下水」の建設を皮切りに昭和30年代から本格的に下水道普及事業を推進し、平成6年度末に100%の普及が概成した。約830万人が使用する下水道は、下水道管総延長約15,503km、日量480万m3にも上り、日本最大の規模となっている。 都ではさらなる下水道サービスの充実とともに、より快適な都市環境を創造するものとして以下の事業を進めている。
▲現在の神田下水
流域下水道事業の概要
流域下水道は、複数の市町村にまたがった河川・湖等の水質を保つため、市町村の枠を越えて広域的かつ効率的な下水の排除、処理を行うもの。幹線管きょと終末処理場の基幹施設を都道府県が設置・管理し、またこれに繋がる公共下水道(流域関連公共水道)は各市町村が設置、管理する。
東京都下水道局では、流域下水道本部を設置し、流域下水道事業における建設や維持管理を行うとともに、流域下水道と流域関連公共下水道の整合を図るため、関係市町に対して技術指導等を行っている。
この流域下水道の利点としては、(1)基幹施設を都道府県が先行的に整備することで市町村の公共下水道の整備も進みやすい、(2)2つ以上の市町村の公共下水道をまとめて処理するため、施設の建設費、維持管理費が軽減できる、(3)河川等の流域を単位にして処理場をつくるため、地形上・水質保全上、望ましい位置に建設される、などが挙げられる。
都内では、多摩川流域下水道および荒川右岸東京流域下水道の2つの流域で下水道事業を実施している。
特に多摩川流域では下水道の整備されていない地域の排水が中小河川や排水路を経て多摩川に流れ込み、水質汚濁の原因となっている。多摩川流域下水道は、この水質浄化対策として位置づけられる。
一方、荒川右岸東京流域下水道は、多摩北部地域の新河岸川(隅田川の上流)に流入する河川の流域を対象に、水質汚濁を改善する目的で行われている。
▲北多摩一号水再生センター
下水道構想2001
都では厳しい財政状況にあっても、将来にわたり下水道サービスの向上を図るため、「下水道構想2001」を策定した。これは現状の課題を抽出し、事業全般の進め方を見直し、これからの事業の取組方針、行動戦略で構成されている。事業にあたっては「都民」「環境」「経営」の3つの視点から体系化した9つのアクションを「行動戦略」として示している。
その「行動戦略」としては「都民の視点」を重視したアクションとして、(1)クイックプランの推進、(2)下水道局行政評価制度の活用、(3)効果的な広報・広聴の推進、「環境の視点」を重視したアクションとしては、(4)iso14001に基づく環境マネジメントシステムの活用、(5)環境会計の活用、(6)地球温暖化防止対策への取組、「経営の視点」を重視したアクションとしては、(7)コスト縮減の取組、(8)iso9000シリーズによる品質マネジメントシステムの活用、(9)it化の推進を掲げ、スピーディに実施していく。
東京下水道の今後の取組方針
老朽施設の再構築
都市化の進展や生活様式の高度化に伴う汚水量、雨水流出量の増大による能力不足などの多くの課題を解決するため、老朽化した施設の機能の高水準化を図る「再構築」を、計画的かつ効率的に進める。実施にあたっては都民の生活に直結する道路陥没や臭気、震災対策についての対策を重点化した「新・再構築クイックプラン」を策定している。
震災対策
避難所などからし尿を受け入れる管きょの耐震性向上を図る。またバキューム車から直接し尿を投入できるマンホールを区と連携して決定するなど震災時の仮設トイレ機能の確保に努めている。
さらに地震で最も被害を受けやすい「マンホールと管きょの接続部分」を柔軟な構造に取り替える工事を進める。マンホール内で工事ができるため、道路を掘削することなく、交通への影響や騒音・振動を抑えることができる。
浸水対策
都内では都市化が進展し、道路舗装の進展や、緑地が減少したことによって、下水道管に流れ込む雨水量が増加し、下水道が整備された地域でも浸水被害が発生する状況にある。このため都では1時間50mmの降雨に対応できるポンプ所や幹線などの基盤施設の能力増強を計画的に実施している。
また、近年ではこの雨量を超える強い雨が局地的かつ短時間に降ることもあり、くぼ地や坂下など浸水被害が繰り返し発生する地域では、できるところからできるだけ浸水被害を軽減させる対策として「新・雨水整備クイックプラン」を策定している。幹線の一部区間を先行整備し、暫定的な雨水貯留施設の利用や、雨水ますの蓋をグレーチングに取り替えるなど、緊急対策を行う。
▲東京アメッシュ
(http://www.gesui.metro.tokyo.jp/)
さらに区に対して洪水ハザードマップ作成の支援や幹線管きょの水位情報の提供を行っているほか、インターネットでは降雨情報(東京アメッシュ)の提供、雨期時には過去の浸水被害のあった地域を対象に浸水に対する備えを書いたリーフレットを配布するなど、リスクコミュニケーションの充実を図っている。
合流式下水道の改善
汚水と雨水を同じ一本の管で流す合流式下水道には大雨時には大量の雨水が流れ込む。これを全て水再生センターで処理するには膨大な施設が必要となるため、雨水を吐口から河川等に放流するが、その際に雨水で薄められた汚水の一部が流出し、水質汚濁の一因となっている。このため、水再生センターに送る下水道管(しゃ集管きょ)を太くしたり、処理しきれない下水を一時的に溜める貯留池をつくり、雨の日に下水が河川等に流出する量や回数を減らすなどの対策を行っている。
またオイルボールやごみの流出を抑制するなど短期間に事業効果を実感できる「新・合流改善クイックプラン」を策定し、重点的に対策を実施するモデル地区を設定して取り組んでいる。
さらに「油・断・快適!下水道〜下水道に油を流さないで」キャンペーンなど、積極的なpr活動を進めている。
高度処理
東京湾では依然として赤潮がたびたび発生し、魚介類に大きな悪影響を与えているが、この赤潮の大きな原因となる窒素・りんの削減を図る高度処理を進める。また都民が接する機会の多い東京都内湾(お台場など)に対する水質改善効果の高い隅田川水系から高度処理を優先的に導入する。
ソフトプランと下水道光ファイバー等の活用
下水道管内に信頼性や安全性の高い光ファイバー通信網を構築する。この通信網を利用して点在する施設を情報ネットワークとして結び、ポンプ所などの遠方監視制御を行うなど総括的な管理を実施。下水道の効率的な運営を進める。
また、電気通信事業者などに下水道管きょ内空間や、下水道管理用光ファイバーを開放し、3300万電子都市の構築に向けた情報基盤整備に積極的に貢献する。
▲小水力発電イメージ
▲nas電池
アースプラン2004
都下水道局が排出する温室効果ガスは都庁全体の43%を占め、地球温暖化に対する大きな責任を負っている。しかしその一方で公共用水域の水質向上が求められており、これに伴う温室効果ガス排出量の増加も見込まれている。
このため同局では「アースプラン2004」を策定し、京都議定書の目標である1990年度比で6%以上の温室効果ガス削減を2009年度までに達成することを目標としている。
主な取り組みとしては、下水処理工程で消費する電力量や汚泥処理工程で発生するn2oを削減し、温室効果ガスの縮減を図る。また下水熱、汚泥焼却廃熱による熱供給・発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギーの活用、のほか、化石燃料比率の低い夜間電力を利用する「nas電池」など、新電源を導入し、温室効果ガス排出の少ない資源・エネルギーに転換する。
下水汚泥の資源化
埋立処分場の延命化を図るため、汚泥を焼却して減量化するとともに発生した焼却灰のリサイクル製品を多様化し、資源化率向上を図る。
「経営計画2004」を策定
東京都下水道局では「お客さま」「環境」「経営」の3つの基本的視点を踏まえ、事業を遂行していく上での指針とするとともに、その施策の内容を都民に対して明らかにしていくため、平成16年度から18年度までの3年間を計画期間とする経営計画を策定した。
区部では前述の「下水道構想2001」に基づいた再構築や浸水対策などの重点事業を着実に推進するとともに、利用者が実感できる効果を短期間にあげる「クイックプラン」の充実を図る。加えて日常の維持管理の充実を図り、お客様の安全で快適な生活環境を確保する。
流域下水道では、多摩地域下水道サービスの一層の充実と事業の効率化を図るため、公共下水道を管理する市町村との明確な役割分担を基本に、流域の下水道はもとより、多摩地域全体を視野に置いた事業の広域化と協同を進める。
下水道事業については、財政再建推進プランや都庁改革プラン、都庁改革アクションプランとの整合を図り、徹底したコスト縮減など事業効率の向上とサービス水準の維持向上に努めている。
地球環境保全に向けた取り組みとしては、ヒートアイランド対策を推進するとともに、継続的な環境マネジメントシステムの運用・改善を行い、地球環境の保全に貢献する。さらに「下水道事業における地球温暖化防止プラン(アースプラン2004)」を策定して様々な取り組みを総合的に推進している。
安全で快適な都市生活をめざして 東京都下水道局の整備に貢献
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