建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年7月号〉

特集 未来を拓く・わが国の新幹線整備

九州地域の未来を拓く新幹線整備

博多〜新八代間の建設が本格化−平成22年度末の完成予定

鉄道建設・運輸施設整備支援機構 九州新幹線建設局

九州新幹線(鹿児島ルート)は、福岡市から熊本市、川内市を経由し、鹿児島市に至る延長約257kmの路線である。平成16年3月13日には、新八代〜鹿児島中央駅(旧西鹿児島駅)間が開業、山陽新幹線・新下関〜小倉〜博多間に次ぐ、九州で二番目の路線となった。現在は北へ延伸し、山陽新幹線と連絡する博多〜新八代間の建設が本格化している。九州地域の未来を拓く、新幹線整備について特集する。
九州新幹線建設の経緯
「全国新幹線鉄道整備法」に基づき整備が進む九州新幹線は、博多〜鹿児島中央間の鹿児島ルートと、新鳥栖(仮称)駅〜武雄温泉〜長崎駅に至る長崎ルートが計画されている。
長崎ルートについては、平成14年1月の武雄温泉・新大村間、新大村〜長崎間の環境影響評価書の送付に伴い、武雄温泉〜長崎間の工事実施計画認可を申請した。16年12月には「整備新幹線の取り扱いについて」(12月16日 政府・与党申し合わせ)において、並行在来線区間の運営の在り方について調整が整った場合には武雄温泉〜諫早間で着工することが盛り込まれており、平成17年度に予算が計上された。鹿児島ルートと一体的な交通網を形成することにより、日本の最西端という地理的なハンディキャップを克服し、九州地域の一体的な浮揚を担う路線として期待されている。
一方、鹿児島ルートについては、
平成3年8月に八代〜西鹿児島間で着工し、平成10年3月に船小屋〜新八代間、平成13年4月に博多〜船小屋間でも工事に着手した。平成4年3月には開業に先立ち、西鹿児島駅の緊急整備工事に着手。新駅は平成8年6月に在来線部分のみ暫定開業した。
着工当初は、船小屋から西鹿児島間はスーパー特急方式で整備されてきたが、平成13年4月の博多〜船小屋間の新規着工に併せ、全線フル規格での整備に変更。以降本格的に工事を進め、新八代・鹿児島中央間が16年3月に開業の運びとなった。この開業により、この区間では、従来1時間36分かかっていた所要時間が最速34分で結ばれ、大幅な時間短縮が実現。アクセスの利便性はもとより、熊本・鹿児島両県民の交流、新産業の立地、観光産業の振興等、その効果は沿線に広がっている。
▲鹿児島中央駅
▲球磨川橋橋りょう(新八代・新水俣間)
30年で17兆円の経済効果
現在、建設が進んでいるのは、新八代から博多までの区間。
全線が完成すると博多から鹿児島中央までは、現行のおよそ1/3の1時間20分で結ばれる。このため、「九州新幹線建設期成会」によれば、新幹線全線開業後30年の経済効果はおよそ17兆円と試算されており、九州地域全体への波及効果が期待される。
九州新幹線(新八代・鹿児島中央間)については、鹿児島本線の八代〜川内間がjr九州から熊本、鹿児島両県のほか、沿線の各自治体等が出資する第三セクターに経営が引き継がれている。
このほかの区間については都市圏輸送体系上、新幹線開業後も引き続きjr九州が経営を担当する。
環境への影響が少ない新幹線
新幹線の単位輸送量あたりのエネルギー消費量は、自家用乗用車の5分の1、航空機の3分の1に止まる。また、二酸化炭素等の排出による地球温暖化が深刻な問題となっているが、新幹線の単位輸送量あたりの二酸化炭素排出量は、自家用自動車の9分の1、航空機の5分の1に過ぎない。新幹線は速く、大量・安全に人を運ぶだけではなく、環境にも優しい乗り物として注目されている。
博多〜新八代間・工事概要
博多〜新八代間の路線延長は約129kmだが、博多駅から博多車両基地までの約8kmは、山陽新幹線として既に使用しているため、工事延長は約121kmである。
駅は博多、新鳥栖(仮称)、久留米、船小屋、新大牟田(仮称)、新玉名(仮称)、熊本、新八代の8駅。構造物は、久留米、熊本の市街地や筑後平野、八代平野等、比較的平坦な箇所を通過するため、トンネル以外の構造物が約70%(延長約84km)を占める。構造種別の構成比は、トンネルが約30%(延長約36.8km)、路盤が約10%(延長約12.3km)、橋梁が約10%(延長約11.3km)、高架橋が約50%(延長約60.7km)となっている。
路線の特徴としては、先に開業した新八代〜鹿児島中央間よりもトンネル部分が短く、明かり部分が長いことだ。
総工事費は約7,900億円を試算しているが、平成17年度までの予算累計では、3,261億円、進捗率は41%である。
部門別で工事進捗状況を見ると、平成17年4月1日現在での用地進捗率は62%、トンネル進捗率は48%、明かり工事は沿線全市町で施工中だ。
全体の完成は平成22年度末を予定している。
▲鹿児島中央駅付近
(鹿児島市)
▲平松路盤付近
(出水市)
▲球磨川橋りょう付近
(坂本村)
▲水俣川橋りょう付近
(水俣市)
▲前田高架橋付近
(出水市)
路線の概要
路線は、既設の博多駅から8kmを経た博多車両基地を工事始点とする。
那珂川町では、福岡県と佐賀県の県境を鹿児島ルートで最長となる筑紫トンネル(延長約11,865m)で通過する。通過後、佐賀県に入り、鳥栖市で新駅の新鳥栖(仮称)駅に至る。筑後川を橋りょう(延長約455m)で通過し久留米駅に到達する。
久留米駅から次駅の船小屋駅までは、在来線と並行する。同区間の構造物には、在来の鹿児島本線と交差する松原線路橋(延長約740m)がある。船小屋駅からは、沿岸部を走る在来線から分かれて、内陸部に入る。新大牟田(仮称)駅からは三池トンネル(延長約5,415m)、玉名トンネル(延長約6,760m)の長大トンネルで山間部を通過し、新玉名(仮称)駅に到達する。新玉名(仮称)駅からは、菊地川橋りょう(延長約400m)、新田原坂トンネル(延長約3,005m)を通過。博多起点で98.18kmの熊本駅に到着する。
熊本駅からは在来線と並行して走り、緑川橋りょう(延長約260m)、熊本車両基地、鹿児島本線の境目線路橋(延長約282m)、大野川橋りょう(延長約265m)を通過する。大野川からは沿岸部を走り氷川橋りょう(延長約385m)を経て、終着点である新八代駅に到着する。
▲高田トンネル入口
▲菊地川橋りょう
構造物等の工事進捗状況
トンネル工事は平成10年の玉名トンネルの着手を皮切りに、15箇所のトンネル工事を発注済みだ。このうち、高田トンネル、三池トンネル、玉名北トンネル、大坊トンネル、野田トンネル、小塚トンネル、木葉トンネルについては掘削工事を完了。覆工コンクリートまで完成したトンネルが、全体の約48%となっている。
高田トンネル
筑肥産地の西端部の丘陵地帯を南北に貫く全長1,905mのトンネルで、地質は古生代石炭紀〜二畳紀の三軍編成岩類の泥質片岩が主体である。掘削は上半先進ショートベンチカット工法機械掘削、並びに補助ベンチ付き全断面発破掘削を併用した。また、一部区間で福岡県指定の地滑り地帯を通過するため、鋼管杭による抑止杭の施工後に計測管理等を実施しながら、慎重に掘削を実施。平成14年1月に新規着工区間のトンネルとしてははじめて貫通している。
三池トンネル
大間山、三池山の山系が連なるほぼ中央を貫く、全長5,360mのトンネルで、博多〜新八代間では3番目に長いトンネルである。起点側2,985mを北工区として大牟田市側から、終点側2,375mを南工区として南関町側から施工した。地質は中世代、白亜紀の花崗岩である朝倉型花崗岩が主体である。両坑口部ともに花崗岩特有の深層風化現象が顕著であることから、補助工法併用の上半先進ショートベンチカット工法機械掘削を実施し、完了している。
玉名トンネル
南関町から玉名市を結ぶ延長約6,780mのトンネルで、花崗岩を主体とする小岱山(標高501m)を、平均土被り150mで貫く。同工事は南関町域を北工区、玉名市域を南工区として工事を進めた。両坑口から全断面発破掘削工法で施工し、北工区完了している。
大坊トンネル
大坊トンネル工事は、トンネル区間655mと、高架橋主体の明かり区間1,433mに分けて施工を実施した。トンネル区間は低土被り強風化花崗岩(マサ土)を上半先進ショートベンチカット機械掘削工法で施工した。明かり区間については菊地川流域の沖積低地に位置し、下流部には軟弱地盤層が分布していたため、杭基礎構造の高架橋としている。
木葉トンネル
木葉トンネル工事は、区間延長約760mと、明かり延長約1,957mの工事である。トンネルについては、上半先進シートベンチカット機械掘削工法で掘削。本体工事完了後、明かり区間の高架橋工事に着手した。
▲宇土BL
▲三池南坑内
▲山浦切羽
▲筑後川橋りょう
野田トンネル/西安寺トンネル
野田トンネルは延長約1,691mのトンネルで、地質は安山岩を基岩とする多孔質安山岩と、塊状安山岩の互層から成っている。全断面発破工法で施工を完了した。
西安寺トンネル延長約165mのトンネルで、低土被りで未固結火山灰質土のため、上半先進ショートベンチ機械掘削工法で、野田トンネル工事終了後に施工した。
小塚トンネル
建設地は、産業廃棄物最終処分場の新設及び既設部分の直下を通過する。処分場新設部分については完成後の上載荷重を考慮し、処分場対象区間の地盤改良工事を完了させた後に、トンネル本体工事に着手する。既存処分場の直下を通過する部分については、埋立上載土の防護工としてパイプルーフ工法を採用。安全性を十分確保した上で貫通した。現在は覆工コンクリートの施工が完了している。小塚トンネルの始点方にある和泉トンネルは6月から本格的な掘削に入る予定だ。
筑紫トンネル
九州で一番長い、区間内で最長のトンネルであり、4工区に分割して工事に着手している。4工区に分けているため、途中から掘り始め、中間で貫通させる予定だ。
建設地となる福岡県と佐賀県の県境の脊振山地は、主として花崗岩からなり、地下の花崗岩塊が断層活動によって隆起した山地である。またトンネル上部には安良川が流れているため、切羽から100mずつ水平にボーリングし、地山を慎重に調査、掘削する。現在は4工区で本坑の掘削、覆工コンクリートの施工を行っている。
明かり工事
明かり工事については、筑後川、菊地川、木葉川、白川、緑川、浜戸川、氷川の橋りょう工事に着手しているほか、博多〜新八代間では56件の橋りょう、高架橋工事に着手している状況だ。
延長約400mの菊地川橋りょうでは、5径間連続pc箱桁で橋脚6基で渡河。掘削深は22.5m、33.0mとなっている。
白川橋りょうについては、張り出し架設工法による3経間連続pc箱桁の上部工事が完了し、現在それに接続する橋りょうの下部工工事を実施している。
筑後川橋りょうはケーソン工法によって下部工工事が完了済みである。
高架橋工事は、熊本市内の島高架橋を皮切りに宇土、松橋工区で高架橋・橋脚の本体工事が完成している状況だ。
また、久留米駅の貨物設備移転、在来線の熊本駅付近連続立体交差事業や、久留米駅から約20kmに及ぶ市街化の著しい在来線近接区間の施工などがあるが、地元関係機関の協力を得て随時工事を開始する予定である。
九州新幹線・博多〜新八代間建設工事
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