建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年12号〉

特別編集企画 (建設グラフインターネットダイジェスト同時掲載企画)

筑 波 大 学

開学30周年(創基131年)記念特集

わが国の文教施設整備最前線

【キャンパスリニューアル計画】
開学以来先人たちの努力により広大な敷地に多くの施設が建築
マスタープランWG
――筑波大学キャンパスの再整備に当たっては、整合性を持った個別の綿密な計画で構成される総合計画が、その背景にありますね。その総合計画の概要について、お聞かせ下さい
マスタープランWG主査 社会工学系
教授 大村 謙二郎
大村
国の科学技術の発展を先導する役割を持った、つくば研究学園都市の中核的な施設として筑波大学は、「開かれた大学の理念」に基づきキャンパスの計画、建設が進められてきました。そして、開学以来30年の時間が経過しました。筑波大学を巡る状況は内外とも大きく変わり、キャンパスも様々な点で手入れが必要となってきました。
マスタープランWGは、大学建学の理念を継承しつつも、新たな時代動向に対応し未来を切り拓くキャンパスの再生をめざして計画づくりを進めてきました。統一的標語である「グローバル時代の大学個性University Identityの確立を目指して」の下に、6つの計画戦略を設定しました。
それは、世界dに発信する個性あふれる筑波大学Tsukuba Univ.を目指す。良質なストックを活用しつつも、ミクロな外科手術を駆使する。少子高齢化時代、生涯学習時代の特色を生かした大学づくり。地域社会の発展と連動した都市・地域広域連携大学。参加型キャンパス環境の形成つまり大学構成員が、大学作りに関わる愛着のもてる大学。柔軟で機動的な管理運営の下、サスティナブルなキャンパスを目指すという6項目です。
 このマスタープランの戦略を、より具体化する施策を検討するとともに、建物・設備計画、交通システム計画、景観・緑化計画、サイン・アート計画、の4部門のwgとの総合調整を行いながら、マスタープランの実現、管理につとめているわけです。
建物・設備WG
――その4部門について、詳しくお聞きしたいと思います。まずは、建物・設備計画について、建物・設備wg主査でb棟設計wgにもご参加された小場瀬先生より御説明下さい
建物・設備WG主査 社会工学系
教授 小場瀬 令二
小場瀬
キャンパスリニューアルというと、校舎の改修がメインの響きがありますが、筑波大学では、博士課程の研究施設の増強が大きなウエイトを占めています。その中で、2003年4月から利用の始まった総合研究棟aを初めとして、b、d棟などが続々と建設中です。
総合研究棟bの建物は、化学系や電子計算機系や物理系などの異なる研究科が、共同利用する実験系の施設です。このような実験系の建物は、低層で建てるのが一般的ですが、今回は研究科ごとの積み上げ方式になったことから、床荷重や排気ダクト、防水などの件で、一般の研究室棟に見られない困難がありました。
この施設の目玉としては、各研究組織のまとまりごとに、3層吹抜けの交流スペースを確保して、研究者や院生間のコミュニケーションを促進しようとしていることと、ガスを使った冷暖房の個別化を実施していることです。
 今回、キャンパスリニューアル計画に参画して、大学施設を計画する場合、メンテナンスのしやすい建物をデザインする必要性を痛感しました。特にメンテナンス・フリーではなく、ローテック・メンテナンスができる仕組みを心掛けなければ、今後の低成長時代は、国立大学といえども生きていけないと考えています。
建物・設備WG
――同じく主査でD棟設計WGにも参加された鵜沢先生より御説明下さい
建物・設備WG主査 芸術学系
教授 鵜沢 隆
鵜沢
建物・設備のリニューアル計画を策定するためには、すべての施設の現状に関するデータの収集が不可欠で、全学的な膨大なデータ収集の着手が不可避でした。最初に着手したのは、専門家による構造上、安全上の問題点の洗い出しと、施設利用状況のデータ収集でした。この構造上、安全上の問題点の解決は急務でしたが、施設利用状況について収集したデータに基づき、より良いキャンパスライフを実現するために、学生や教職員が利用する共用スペースとなるいくつかの食堂やラウンジの改修から着手し、学生参加型のワークショップによる提案を空間デザインとして、集約的に実現しました。これらは、関係者の意識を啓発する意味においても、重要な提案でした。
キャンパス・リニューアル計画は、既存施設の改修にとどまらず、いくつかの新たな施設建設のための設計WGによる基本設計の検討もあわせて推進しました。開学30周年に向けた「総合交流会館(仮称)」の設計WGでは、地域と社会に「開かれた大学」をめざした情報発信拠点としての施設計画を積極的に提案する空間設計を、現在も検討中です。
 大学院の改組再編に伴う「総合研究棟d棟」の設計WGによる施設計画は、現在その建設が進行中であり、リニューアル計画の将来的な展望を見据えた新しい大学施設の空間が、まさに具体化しつつあります。
交通システムWG
――大学における交通対策については、どんな検討が行われたのでしょうか
交通システムWG主査 社会工学系
教授 石田 東生
石田
今回の交通計画制作の目標は、筑波大学の構成員に便利、安全で効率的かつ環境に優しい交通サービスを提供し、あわせてキャンパスには教育・研究の場にふさわしい静謐性と快適性をもたらそうとする意欲的な方針を基礎としています。
大都市都心部に存在する少数の大学とは異なり、筑波大学は大多数の郊外部立地の大学と同様、公共交通は比較的不便であり、自動車は逆に使いやすい環境にあります。筑波研究学園都市という道路整備水準の高い都市に立地する筑波大学では、特に自動車への依存度が高く、環境問題、駐車問題、交通安全などの直接的問題だけでなく、公共交通の衰退、自動車利用可能な人とそれ以外の人との間の公平性の問題なども内包しています。これらの解決を目指したのが、今回のキャンパスリニューアルでもあるのです。
理念としては、自動車への依存度を減少させるために、徒歩や自転車、公共交通の充実と、バランスのとれた交通システム実現を打ち出しています。具体的には、議論や談笑のできる空間確保と、バリアフリー化を踏まえた豊かな歩行空間の再創、人と環境に優しい自転車の使い勝手をさらに向上させるための自転車専用道と、それに連結した駐輪場の提案、路線バスの高サービス化の追求、賢い自動車の使い方を追求する一環としての駐車場の整備と有料化などです。
 一部については、すでに実現していますが、その他の多くの提案については、整備財源の確保、構成員や関係者との合意形成、公共交通の運賃制度の見直しなど、実現に向けて解決すべき課題も多い。つくばエクスプレスの開業を目前に控えて、環境に優しく、かつ便利な交通システムの実現を目指して、構成員のねばり強い努力と協力が求められます。
景観・緑化WG
――大学キャンパスは、緑地景観を保全する機能も期待されていますね
景観・緑化WG主査 芸術学系
助教授 鈴木 雅和
鈴木
本学のキャンパスは、保全緑地の自然環境とアカデミック地区の都市的景観が、バランスのとれた構成となることを目標として計画されています。しかし、植物という生き物を扱う景観・緑化という分野では、長期にわたる穏やかな景観変化が蓄積して、思いもよらぬ結果となることもあります。開学当初は、早期に緑化して筑波おろしを和らげ、潤いのあるキャンパスにしたいという要求に応えたかに見えますが、30年を経過して、樹木相互の競合による生育阻害、剪定など管理費の増大、視認性の低下による危険性の増大などの問題が目立つようになっています。
そこで、景観緑化的見地からキャンパスの再点検を行った結果、主として樹木の過密に起因する計画意図と目標のギャップが多く発見されました。まず、安全性とわかりやすさの面から、優先的に整備すべき場所を決めた上で、人にも自然にも快適な自然環境づくり、キャンパス空間の連続性や一体感が感じられる景観づくり、都市との接続点の整備、サンクチュアリ・ビオトープの計画といった、4つの具体的方針を立てました。
 今後も、マスタープランとの整合性を図り、ユリノキ通り、駐車場周辺緑地、保護林、ペデストリアン周辺緑地、開学記念館周辺緑地、ループ道路周辺緑地などを中心に、樹木の適正密度を模索しながら順次リニューアルを行う計画です。
サイン・アートWG
――人々の集まる場は、その外観デザインや配色が人間の心理に大きな影響をもたらせますね
サインアートWG主査 芸術学系
教授  西川 潔
西川
サイン・アートWGの使命は、キャンパス内を分かりやすく、且つ魅力的にすることにあります。そのためには、空間構成や景観、或いは交通システムまでを視野に入れて活動する必要があります。したがって、我々も他のWGと連携して計画を遂行しなくてはなりません。
2002年3月にまとめられた全体計画書では、障害者対応も含めたサイン計画の抜本的見直しと、キャンパス中央を貫くペデストリアンデッキ(歩行者専用路)を主に、道標のようなある種のサイン性を持たせて、アートを配する案を提示しました。幸い本学には国立の総合大学において、唯一の芸術専門分野があるため、すでに教官及び学生作品、卒業生らの立体作品が10点程度と、油彩画、日本画、書等の平面作品5点程度が、設置完了しています。
サイン計画に関しては、現状の把握とともに、今後の基準を試行する意味で、大学会館のサイン計画を作成しました。また、大学中央入口には、シンボル性を持たせたゲートの新設、附属病院の入口サインと玄関周りのサイン整備が完了しています。
 また、最近では附属病院棟と第一学群周辺建造物の外装再整備に係わる色彩計画や、新設研究棟の色彩計画も私たちが担当しています。アート作品の増設と並んで、現在はキャンパス全体の色彩計画見直しを課題としています。
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