OCTOBER . 2018

9月に行われた自民党総裁選は、大勢の予想通りに安部首相が再選を果たしたが、予測に反して地方票を伸ばした石破氏が健闘し、圧勝とは行かなかった。これを指して、マスコミは「地方の反乱」と評しているが、その原因を探るとアベノミクスの影が見えてくる。

 開票結果は、首相の国会議員票329票、党員票224票の計553票に対し、石破氏は国会議員票73票、党員票181票の計254票となった。投票前の予測では、首相の国会議員票は350票に到達するものと見られていたが、約50票が石破氏支持に回ったことになる。また、地方票では首相の獲得率は5割半ばにとどまり、地方議員や党員など有権者の支持の低下が見られた。

 報道では、小泉進次郎氏の「党員が自由に意見交換できる環境作りが大切」とする発言を取り上げ、安部一強への抵抗感が表れたと解説する。これに乗じて野党や、中国、北朝鮮、韓国など、日本に敵視政策を続ける極東アジア三国の手先となって、反動的反日思想を標榜する左派市民らは、安倍政権をナチスに喩え、その中心にある安倍首相をヒトラーに喩えて「独裁政権の安部政治を許さない」などと声を高める。

 だが、かつて議員による失言続きで、いくつもの政権が交代を余儀なくされた過去の痛恨事例を思えば、政権が議員の個別発言に慎重となるのは、やむなしの一面もあるだろう。実際に安倍政権においても、議員の発言で物議を醸した事例がいくつか見られ、「魔の2期生」、「魔の3期生」と問題提起された。

 しかし、問題はそんなところにあるのではなく、地方が反乱を起こした原因にこそ、重大な核心があると思われる。端的に言えば、安倍首相が自信を持って進めてきたアベノミクスの影が、表面化した結果ではないだろうか。その景気対策の恩恵が大都市部に集中し、地方にまで波及していないことへの不満が表面化したということではないか。

 企業の内部留保総額は、毎年100兆円規模で増加し、一見すると順調に見えるが、それは経団連に加入している大都市部の大手企業の話であって、地方の中小零細の地場企業は置き去り状態にある。しかも、人件費も思うほど上がらず、個人所得が大幅に増加しているわけでもない。

 今日の企業経営層は、長引いた円高不況の渦中にあって、生産ラインの縮小や人件費削減、リストラばかりを経験した層である。しかし、安直なコストカットによる縮小再生産は、経営努力というものではない。不況下でも業績を維持・拡大する努力工夫こそが、経営努力というものである。それを経験していない層であるため、企業経営に慎重となり、好業績であろうとも社会還元に臆病で、保身に専念している。これでは地方の党員はもとより、地方を選挙地盤とし、地域振興に責務を負う地方議員にとっても死活問題である。そうした地方にくすぶる不満を巧みに突いたのが、地方創成を公約に掲げた石破氏であったと言えるだろう。

 安倍首相は就任の記者会見で、憲法改正や災害続きである我が国の早急な国土強靱化を宣言した。さらに、一時期は第二のアベノミクス構想も聞かれたが、国防の強化もさることながら、明確な経済波及効果をもたらす国土強靱化によって、地方の安全度を高め、経済効果をもたらす政策に着実に取り組むことが、政権の地盤強化につながるだろう。災害大国・日本で、災害の度に家屋が倒壊して資産と生活基盤を失い、土砂崩れや洪水で人々が危険に晒されるのでは、せっかく3,000万人に手が届きつつある外国人観光客の足も、遠のくことが懸念される。これでは、観光立国の夢は遠のくばかりである。




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