建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年7月号〉

【寄稿】

三河・遠州・南信州の地域基盤を形成する三遠南信自動車道

―― 着実に進む新たな大動脈の整備

国土交通省 中部地方整備局
飯田国道事務所 所長
 今井 浩策

三遠南信自動車道

はじめに

 三遠南信自動車道(国道474号)は、長野県飯田市の中央自動車道を起点として、静岡県浜松市北区引佐町に至る延長約100kmの高規格幹線道路です。中央自動車道、新東名高速道路と連結し、三河、遠州、南信州地域の交流促進、連携強化および奥三河・北遠州・南信州地域への高速サービスの提供、災害に強い道路網の構築、地域医療サービスの向上とともに、これら地域の秩序ある開発、発展に寄与する重要な道路です。
 飯田国道事務所では、このうち長野県内の飯喬道路・青崩峠道路の整備・管理を担っています。

三遠南信道の整備状況

 飯喬道路は飯田市・喬木村内を横断する道路で、南信州地域における高速交通サービスの提供、沿線地域開発及び地域交流の支援を図るものです。令和元年11月17日に天龍峡IC~龍江IC間が開通し、中央自動車道と接続する飯田山本IC~飯田上久堅・喬木富田IC間の14.6kmが供用済みとなっています。現在は、残る飯田上久堅・喬木富田IC~喬木IC間7.5kmの早期開通に向けて事業を進めております。
 青崩峠道路は、中央構造線の破砕帯に位置するが故の地形の急峻さと地盤の脆さから、国道152号が不通となっている静岡・長野県境の青崩峠を、全長4998mのトンネルで貫く道路であり、現在本坑の掘削を鋭意推進中です(令和2年5月末現在、掘進長は全体の約28%)。このほか、すでに小川路峠道路(矢筈トンネル)が平成6年に開通しており、これと青崩峠道路の間は国道152号現道の改良という形で長野県により整備が進められております。

青崩峠トンネル長野県側抗口

整備効果

 続いて三遠南信自動車道の整備効果を紹介します。
 南信地域は広域的な道路ネットワークの空白地帯でありながらも、遠山郷や南アルプスジオパークなどの豊富な観光資源を持ちます。三遠南信自動車道の開通により、これらの地域が東京・名古屋や北信越方面と高規格道路で結ばれ、観光振興につながります。
 それだけではなく、輸送時間の短縮、信頼性の向上等により、沿線地域の産業の活性化につながります。すでに飯喬道路が開通済みの天龍峡地区や龍江地区においては、IC付近に新産業団地の造成が始まっており、飯喬道路の全通など、三遠南信自動車道の整備が進むことに伴ってこの動きは上村や南信濃へと広がっていくことが期待できます。
 三遠南信地域では航空宇宙産業の特区が形成されており、航空関連産業の企業誘致が進み、静岡県側の道路整備が進んだ平成24年3月以降、東三河・遠州地域から南信州地域への商談件数が大幅に増加しました。しかし、飯喬道路や青崩峠道路を含む、三遠南信自動車道未開通区間の現道は狭隘ですれ違いが困難な箇所もあり輸送時間の長さが産業連携の弊害となっており、三遠南信自動車道の整備は、この問題に対する抜本的な打開策を提供します。
 これは、地域の生活に直結する行政サービスの質の向上等にも恩恵をもたらします。飯田市と下伊那郡内12町村から出るごみは、南信州広域連合の稲葉クリーンセンター(飯田市下久堅)に集約されます。これまで、稲葉クリーンセンターへのアクセスは狭隘道路しかなく、ごみを満載した車両が通行することの危険性も指摘されていましたが、飯喬道路が龍江ICまで開通したことで、安全なルートでごみの搬入を行うことができるようになりました。
 加えて、救急搬送の観点からも、三遠南信自動車道の整備によって救急車の到着時間や医療機関への搬送時間が短縮され、南信州地域唯一の第三次救急医療機関である飯田市立病院へ60分で到達できる範囲が広がるという効果があります。また、狭隘・急傾斜・急曲線など患者に負担を強いる道路の通行が相当程度回避されるため、救命率の向上につながります。

天龍峡大橋遠景

天龍峡大橋

 昨年11月に開通した飯喬道路天龍峡IC~千代IC間には、一級河川天竜川を渡河する「天龍峡大橋」があります。道路本線のルートが名勝天龍峡の範囲内を通過することから周辺環境への配慮・架橋影響の最小化を目指し、橋には様々な工夫を取り入れています。
 まず目をひくのが、特徴的な橋梁の構造でしょう。橋長280mの本橋は、峡谷のV字地形や背景のスカイラインを阻害しないように「上路式アーチ」を選定し、見た目の圧迫感や下部工による自然改変の影響を最小化するために国内屈指のアーチライズ比(11:1)を採用した非常に扁平でスレンダーなアーチ構造となっています。そのほか、カーブする道路を支えるため3次元的なアーチ造形(バスケットハンドル構造)、四季折々の峡谷の風景に馴染む日本古来の「山鳩色」の橋梁の色、名勝天龍峡の活用のために橋梁検査路と兼ねる添架歩廊「そらさんぽ天龍峡」を備えております。これらの取り組みが評価され平成30年度土木学会田中賞(作品部門)に選ばれる他、地域からも新名所として高い注目を頂いております。昨今の新型コロナ禍が終息した際には、名勝天龍峡と一体となった周遊により観光地として活性化に寄与することが期待されます。

照明点灯時の様子

おわりに

 三遠南信地域自動車道は、観光・産業等の地域活性化及び安全・安心を確保する上で大きな役割を担っています。
 今後、飯田市内に整備予定のリニア中央新幹線長野県駅が開業すれば、東京・名古屋などの大都市圏との所要時間が大幅に短縮され、より一層の相乗効果を生み、交流促進と更なる地域の発展が期待されます。
 地域発展の一助となれるよう、南信州地域の安心・暮らしを支えるインフラ整備を進めてまいります。

上流左岸側から望む


HOME