建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年7月号〉

【寄稿】

つなげよう山陰道

―― 石見地域の山陰道整備について

 国土交通省 中国地方整備局
 浜田河川国道事務所長
前田 文雄

浜田河川国道事務所管内の山陰道事業位置図

はじめに

 浜田河川国道事務所の管轄である島根県西部は「石見地域」と呼ばれ、島根県の面積の約半分、人口の約3割を占めています。石見地域は山が海に迫り、平地が少なく、災害が起こりやすい地形で、過去から幾度となく災害に見舞われています。一方で美しい自然に恵まれており、万葉の歌人柿本人麻呂が美しい情景を妻への想いと伴に歌い上げた地としても知られています。また、令和元年5月には石見神楽が「神々や鬼たちが躍動する神話の世界~石見地域で伝承される神楽~」として日本遺産に認定されました。豪華絢爛な衣装と表情豊かな面、ダイナミックな演舞で人々を魅了し続けています。
 浜田河川国道事務所は、古くからの城下町であり石見地域の政治・文化の中心地である浜田市に所在しています。一般国道9号の江津市黒松町から山口県境までの138.8kmと、一般国道191号の益田市中吉田町から山口県境までの15.4kmを管理しています。

山陰道の整備状況

 山陰道は、鳥取県鳥取市を起点とし、島根県を経由して山口県下関市に至る全長約380kmの高規格幹線道路です。
 山陰道の計画された区間に並行する一般国道9号は、島根県を東西に結ぶ唯一の幹線道路ですが、一度災害や交通事故による通行止めに見舞われると、代替路がないため大幅な迂回を強いられ、救急搬送や物資輸送に支障が生じるなど、地域社会に大きな影響を及ぼしています。山陰道は国道9号の代替機能の確保と広域医療の連携強化、沿道地域の産業・観光振興による活性化を目的とし、地域の課題解決につながると期待されています。
 また、平成30年7月に発生した西日本豪雨災害では、山陽自動車道をはじめとする山陽側の幹線道路が寸断されましたが、山陰道が東西の物流を補う役割を果たしました。しかし、山陰道の未整備区間で渋滞が発生するなど、ミッシングリンクの解消が喫緊の課題となっています。
 当所が担当する石見地域の山陰道については、平成28年12月に浜田・三隅道路が開通したことで、約5割にあたる39kmが開通済みです。現在、約4割にあたる34kmで事業を進めています。残る区間についても引き続き事業化に向け、調査を実施していきます。

山陰道三隅・益田道路

山陰道 三隅・益田道路

 浜田市三隅町から益田市遠田町へ至る延長15.2kmの自動車専用道路です。岡見IC(仮称)の近くには単機出力国内最大級の三隅発電所があり、石炭火力だけでなく地元の山林から供給される木質チップを混焼してCO2排出量を削減しています。三隅発電所は2号機を増設中で、今後も木質チップの安定供給に向け、三隅・益田道路の整備が急がれます。
 平成27年度に工事に着手した三隅・益田道路は、トンネル工事、橋梁工事、道路改良工事などの最盛期を迎えています。多くの工事でICTを活用し、省力化・効率化された現場で施工を進めています。令和7年度の開通を目標に、一日でも早く開通できるよう着実に事業を進めていきます。

山陰道福光・浅利道路

山陰道 福光・浅利道路

 重要港湾・浜田港へのアクセス強化、産業による地域活性化の支援を目的とした、大田市温泉津町から江津市松川町に至る延長6.5kmの自動車専用道路です。
 平成28年度に事業に着手し、現在、用地取得や橋梁をはじめとする構造物の設計、伐木などの準備工を行っており、令和2年度中の工事着手を目指しています。
 終点の浅利IC(仮称)には、江津地域拠点工業団地が隣接しています。この工業団地には、鋳物製造や金型製作などの「もの造り」を支える企業や国内最大級の木質バイオマス発電を行う「しまね森林発電」があります。近年アクセスの良さから企業進出・設備投資が活発になっており、追加造成も行われています。福光・浅利道路は産業面での地域活性化に貢献する道路として期待されています。

益田西道路

益田西道路

 益田市戸田町から益田市飯田町へ至る延長9.1kmの自動車専用道路です。
 令和2年度に「益田西道路」を新規事業化したことにより、島根県内の山陰道全線開通への期待が高まりました。
 白上IC(仮称)の直近には、電子部品製造や食品・飲料製造の企業が進出する「石見臨空ファクトリーパーク」があります。今後、高速道路ネットワークに数分でアクセスできる利便性の高さから新たな企業進出が予想され、産業の活性化による雇用の拡大など、地元の期待も大きいところです。
 また、益田地域は温暖な気候で知られており、益田市特産のメロンやぶどう、トマトを生産する国営農地があります。益田西道路の整備により、九州方面への産品輸送の効率化、販路拡大なども期待されています。
 益田西道路に並行する一般国道191号は、平成25年7月の浸水・土砂災害による通行止めをはじめ、過去から幾度となく災害に見舞われてきました。自然災害に対して脆弱な上、付近に代替路がありません。益田西道路は災害に強く信頼性の高い道路ネットワークの確保と地域産業の活性化が効果として期待されています。令和2年度は測量などの調査を実施します。
平成25年7月豪雨災害 一般国道191号浸水状況

おわりに

 道路の価値・整備効果を高めるためには、「地域の活性化」と「道づくり」は切り離すことはできません。今後、山陰道の整備が進む山口県内と協調しつつ、「道づくり」を通した地域発展のサポートをしていきたいと考えています。


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