建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年6月号〉

【寄稿】

地盤・地質の課題を克服しつつ進む玉来ダム建設

 大分県 玉来ダム建設事務所長 高瀬 年生


 玉来ダムは、大分県竹田市の市街地を流れる一級河川大野川水系玉来川上流に建設している治水専用ダムです。昨年NHKの「最強の城」スペシャルで第一位に選ばれた岡城の城下町竹田市街地は、西に阿蘇外輪山、北にくじゅう連山、南に祖母・傾山系と三方を山々に囲まれ、流下する河川が市街地で集中する地形形状となっています。
 このため、市街地を貫流する稲葉川と玉来川は以前よりたびたび氾濫しており、特に昭和57年7月豪雨及び平成2年7月の梅雨前線豪雨ではそれぞれ7名、5名の死者が発生したほか、人家・商店・公共施設の浸水に加え、鉄道や国道等の主要インフラの途絶、ライフラインの被災等により長期に亘り都市機能が麻痺し、住民生活に甚大な影響を及ぼしました。
 この2度の水害を契機に、平成3年、市街地上流に稲葉ダムと玉来ダムの2つのダムを建設する「竹田水害緊急治水ダム建設事業」が事業採択され、ダムと河川改修を組み合わせた治水対策を行うこととなりました。
 稲葉川、玉来川の河川改修は平成12年度までに概成し、平成22年度に先行した稲葉ダムが完成して、平成24年7月の九州北部豪雨でも下流の浸水被害を大きく減少させる治水効果を発揮することができました。この時、玉来川流域では再びこれまでと同様な浸水被害と死者2名が発生してしまいました。
 このようなことから、玉来ダムの早期完成が求められているところです。

■玉来ダムの概要・特徴

 玉来ダムは洪水調節を目的とした治水専用ダムです。基準地点常盤橋において、平成2年7月の洪水時の基本高水のピーク流量1,650m3/sから280m3/sの洪水調節を行い、計画高水流量1,370m3/sまで低減することで、市街地を含むダム下流域を洪水から守ります。
 玉来川は集水面積が比較的大きく、水量も安定しており、ダムから農地等への取水が必要ないため、河床に常用洪水吐を設置し、洪水時以外は水を貯めない治水専用の流水型ダムとしています。
 ダム周辺は阿蘇山の四度に亘る大規模な噴火活動による火砕流堆積物と挟在する降下火砕物や旧河床砂れき堆積物等の地盤強度や透水性に大きな違いのある層が複雑に重なる地質構造となっています。ダム建設にあたっては、ダム基礎等の地盤強度や高透水性地質に対する止水に関して、技術的課題の多いダムです。

玉来ダムの概要

■技術的課題と対応

 ダム堤体の左右岸の地盤には、堤体の重さに耐えられない軟質部が堅岩部の間に存在しているため、この軟質部を覆うように上下の堅岩部と一体化を図り、人工的な基礎岩盤(造成アバットメント)を造成し、堤体の安定を図っています。これは先行した稲葉ダムでの高さ38mを上回る高さ46mとなり、国内最大規模の構造と言えるでしょう。
 一方、ダム堤体敷に分布する低角度節理は、せん断強度が小さいため、滑動安定性が課題となります。低角度節理の性状及び分布状況を把握するため、ダムサイトの左右岸で大規模な表土のはぎ取りや大孔径地質調査等を行い、一部のブロックで所要の滑動安全率を満足しない結果となったことから、置換コンクリートによる対策にて堤体の安定を図っています。
 また、堤体及び貯水池側には高透水性の岩盤が広範に連続して分布しており、ダム本体や周辺への影響が懸念されます。このため、ダム上流300mまでの範囲で左右岸ともグラウチングを基本とした止水対策を行っています。

玉来ダム完成イメージ

■今後の取組

 2018年10月に着手した本体コンクリートの打設は昨年3月の定礎式を経て、今年4月末時点で約40%まで進み、常用洪水吐周りや減勢工の打設進度も高まってきています。来年の梅雨時期前までに本体工コンクリートについては概ねの打設を終える見込です。並行して常用洪水吐周りや減勢工のライニング工事、グラウチングや表面遮水等の止水工事、工事用道路、管理用道路や周辺の法面工事、残土受入地整備工事、管理棟を含めた設備工事等を順次、進めているところです。
 平成24年7月の水害の後、地元市民1万人あまりの署名を添えた早期完成要望書が提出され、機運の高まりと地権者の皆さんの全面的な協力を得ることができました。
 これにより、ダム本体と湛水域の用地の概ねを実質1年間という短期間で取得するという結果につながり、その後、早期の工事着手、施工を進めてきたところです。
 市民の安全・安心の向上に向け、また、ダム建設に対する熱意と期待に答えるべく、今後も周辺環境に十分配慮しつつ、事業の推進・早期完成に向けて努力していきます。


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