建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年6月号〉

【寄稿】

国道106 号の最大難所(区界峠)の解消を目指す
区界道路(区界~簗川)

 伊米ヶ崎建設株式会社 代表取締役社長
 湯沢砂防事務所安全対策協議会 副会長(破間川分会)
櫻井 馨


写真1

1.はじめに

 湯沢砂防事務所は、管内に新潟県の5市4町と長野県の1町3村に及ぶ自然豊かな地域を抱えています。とりわけ特徴的なのは、当地域はいずれも冬期間の豪雪地帯として世界屈指の積雪量を誇る地域として知られています。冬期間は厳しい雪に閉ざされる一方で、雪解けの春に一斉に生命が芽吹く様子は、何度経験しても素晴らしいものです。
 その一方で、2004年の新潟県中越地震や2011年の長野県北部地震など管内での自然災害も多く、少子高齢化による人口減少が進む中で、担い手の確保も含め、地域住民の安全・安心の確保が課題になっています。
 そのような背景のもと、湯沢砂防事務所発注工事の受注者で組織される湯沢砂防事務所安全対策協議会(以下、安全協議会)では、受注者間での安全対策・品質の確保に対する創意工夫を共有することや、受発注者それぞれの視点から現場をパトロールなどを通じて、湯沢砂防事務所管内の各事業が円滑に行われるよう取り組みを行っております。

2.砂防工事における様々な取り組み

 安全協議会では、時期に応じた様々な活動を行っております。まずは、現場の安全の確保を目的として秋季に開催される、特別合同パトロールがあります。各工事が最盛期を迎える秋季に実施されるこのパトロールでは、現場毎の作業環境に応じた各社の取り組みを現地で確認するとともに、危険の芽を受発注者それぞれの視点から指摘し、改善の機会としてもらうべく続けている活動です。今回の活動の中でも、熱中症対策として空調服を導入している事例や、現場のイメージを共有するために3次元モデルや3Dプリンターを活用した事例など、現場ごとに工夫を凝らして安全対策を進めていることが確認できたところです。(写真1)
 また、冬季にはその年度の実施工事について、安全・施工研究発表会を催し、各現場の創意工夫を論文形式で募集・発表してもらう取り組みも行っております。今回の発表でも、さまざまな創意工夫が発表されましたが、どの発表も計画と実施に基づく具体的な発表がとても参考になります。今回、最優秀賞を受賞された発表の概要を一部ご紹介いたします。まず、砂防工事における安全対策として、手製のダミー人形に対して重大災害の状況を再現し、実際に血が出たり、保護具が壊れたりする状況を確認し、作業員全員と共有する取り組みを行った事例や、台風19号の豪雨災害に見舞われたにもかかわらず、自社多能工の活用や工程計画の見直しにより、当該工事だけでなく被災地域の災害復旧までも両立させ取り組んだ事例などが発表されました。いずれの発表も各社各様の事例でしたが、現場環境や時々刻々と変化する社会情勢に、前向きに取り組み、課題の解決に取り組まれた結果として素晴らしい成果につながったのだということがよくわかる発表でした。(写真2)

写真2

 今後もこのような活動を通じて受注者および受発注者相互の技術や認識を共有化し、湯沢砂防事務所管内の事業全体のレベルの底上げと、工事の安全の確保が重要であると感じております。

3.当管内における今後の課題

 様々な活動が積極的に行われる一方で、課題があることも事実です。砂防事業が行われる山間地では携帯電話の電波受信圏外の施工地も多く、インターネット環境が整っていることを前提に進められている様々な取組について、環境が思うように確保できない現状もあります。とりわけ、魚沼市は山林の面積が市全体の8割以上を占めており、今後も携帯電話の通信環境が整備されない状況での工事も余儀なくされることから、ICT技術などの先進的な取り組みにも制限があることも事実です。
 また、担い手不足も深刻になっており、当地域における高卒人材に対する建設業の求人充足状況は1割程であり、採用難の状況は年を重ねるごとに厳しくなっております。(図1)

図1 担い手不足状況

 湯沢砂防事務所でも様々な活動を通じて、砂防事業及び建設業の魅力や意義を伝えることを行っており、こういった取り組みに受注者も積極的に参画し、相互の連携によって、当地域の砂防事業の円滑な推進と、地域の安全・安心のための担い手の確保に努めていく必要があると感じております。

4.おわりに

 当協議会における活動の内容及び今後の課題についてご紹介させていただきました。いずれの活動も、山林が大半を占める湯沢砂防事務所管内の特徴を理解し、地域に根差した受注者でなくてはできない取り組みであると自負しております。今後も湯沢砂防事務所の皆様とともに、地域の安全・安心を確保すべく取り組みを進めて参りたいと思います。




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