建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年4月号〉

【寄稿】

富士砂防事務所の取り組み

 国土交通省 中部地方整備局
 富士砂防事務所 所長
加藤 仁志


大沢崩れ 源頭部

1.流域の概要

 富士山は標高3,776mの成層火山で、標高2,500m以上においては脆弱な火山地層が地表面に広く分布しています。このため、山体の開析が著しく、「八百八沢」とよばれる多くの渓流(野渓)が見られます。こうした野渓には普段水が流れていませんが、豪雨時やスラッシュ雪崩の発生に伴い、堆積している土砂が土石流となって流下し、下流部で土砂・洪水氾濫を生じやすい特徴をもちます。とりわけ、富士山西斜面に位置する大沢崩れは日本有数の大崩壊地であり、近年においても土石流が発生し、依然として活発な崩壊が続いています。また、静岡県静岡市清水区由比地区は日本の大動脈である国道1号、東名高速道路、JR東海道本線などが集中する交通の要所となっています。一方でこの地域は古くから多くの土砂災害に見舞われており、地すべりにより大きな被害を受けてきました。

2.富士砂防事務所の砂防事業

 富士砂防事務所では、富士山大沢川の直轄砂防事業に昭和44年度から着手し、大沢崩れ・扇状地や富士山南西麓の各渓流において、砂防施設の整備を行っています。また、平成30年度より山梨県を含む富士山全周に対して降雨に起因する土砂災害対策に加えて、火山噴火に起因する土砂災害対策に着手しています。
 砂防事業は富士山を源流とする潤井川流域の各渓流において、基本対策として砂防堰堤、沈砂地、渓流保全工などのハード対策を、ソフト対策として監視カメラやワイヤーセンサーの設置を進めます。
 大沢崩れ源頭部では、横工とコンクリートブロックを用いた渓床対策工を進めます。また、緊急対策として2018年3月に「富士山火山噴火緊急減災対策砂防計画」を策定し、緊急時に堰堤を整備するためのコンクリートブロックの備蓄などを行います。

竹沢第2砂防堰堤

3.富士砂防事務所の地すべり対策事業

 由比地区において、大規模な地すべりが発生する恐れがあるため、平成17年度より直轄地すべり対策事業に着手しています。
 由比地区の地すべり対策は地下水の水位を下げ、地すべりの動きを抑制する山中トンネル排水工を、構造物の抵抗力で地すべりを抑止する深礎杭工を施工します。併せてこれらを施工するための工事用道路や施工ヤードの整備を行います。

4.先進技術の活用

 富士砂防事務所は、「i-constructionサポート事務所」として積極的な3次元データの活用などによりICT砂防、大沢崩れにおける無人化施工などを推進しています。また、由比地すべり地区ではCIMを活用した取り組みを進め、CIMを用いた地すべり機構解析、深礎杭の配筋などCIMによる設計モデルの修正、現場の3D化による施工ヤードの危険箇所の把握などを行い、工事の効率化や施工管理・安全対策を実施しています。

5.終わりに

 令和元年台風19号においては、富士山においても総雨量500mm以上を観測したところもありましたが、ほぼ同等の降雨量があり、多数の被害が発生した昭和54年台風20号による災害と比較すると、被害額が約1/40と少なく、昭和54年以降に完成した67の砂防設備についても、被害軽減に寄与したと推定しています。
 しかし、昨年の降雨量の多さ、災害の激甚化を踏まえ、引き続き土砂災害による被害の防止・軽減に向けて、着実に事業を推進して参りたいと思います。

由比地すべり地区

3 次元モデルによる鉄筋のアニメーション化(由比地区)

富士山大沢崩れ源頭部
渓流対策工 ヘリコプターによる無人化施工状況


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