建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年3月号〉

【寄稿】

中山間地域の安全確保と地域づくり支援

―― 山を守り、川を守り、人を守る

 国土交通省 四国地方整備局
 四国山地砂防事務所長
星野 久史


事業実施区域

1.はじめに

 四国地方は中央構造線をはじめとする大規模な断層等による複雑かつ脆弱な地質、また台風の進路に当たることが多く、年間降水量3,000mmを超える日本でも有数の多雨地帯であることから、年間の土砂災害発生件数も全国平均の約4倍となっています。
 このような厳しい自然条件の中、当事務所では、「国土保全の推進」、「安全で安心な中山間地での暮らしの確保」、「地域の防災力向上と豊かで魅力ある地域づくりの支援」という3つの方針のもと、徳島県、愛媛県、高知県の3県にまたがって事業を展開しています。

土石流により被災した人家(平成30 年7 月 高知県本山町栗の木川)
地すべりにより崩壊した擁壁(平成30 年7 月 徳島県三好市有瀬地区)

2.管内事業区域の概要

 当事務所は、過去の甚大な土砂災害や洪水氾濫を契機として、昭和23年度以降、重信川流域(愛媛県東温市)、吉野川中流域(徳島県三好市、高知県大豊町)、吉野川上流域(高知県本山町、土佐町、大川村、いの町)で砂防事業を行っています。
 また、善徳[ぜんとく]地区(徳島県三好市)、怒田[ぬた]・八畝[ようね]地区(高知県大豊町)において、地すべり対策事業を行っています。

工事の進む奈半利川水系特定緊急砂防事業(高知県北川村)
緊急的に対策したワイヤーネットが土石流を補足し下流への土砂流出を軽減(令和元年7月 高知県本山町栗の木川)

3.主要な取り組み

(1)奈半利川水系特定緊急砂防事業
 奈半利川の支川大谷川では、平成23年の台風に伴う豪雨により深層崩壊が生じ、大規模な土石流が発生しました。
 この土石流により国道493号が寸断されるとともに、貯水池に流入した土石流が引き起こした段波が平鍋ダムを越流する等の甚大な被害をもたらしました。
 当事務所では、平成24年度より緊急対策として3基の砂防堰堤を施工しています。現在までに、2基の砂防堰堤が概ね完成しており、現在は残り1基の整備を進めています。この最後の1基は、高さ29mのハイダムであり、砂防ソイルセメントとしては日本最大級の堰堤となります。
(2)吉野川水系特定緊急砂防事業
 平成30年7月豪雨により高知県の本山観測所では総雨量1,694mmを記録し、高知県の立川川[たちかわがわ](大豊町)、行川[なめかわ]・栗の木川(本山町)では、土石流や山腹崩壊などが同時多発的に発生し、人家や道路が被災し集落が孤立化するなど、甚大な被害が発生しました。
 そこで、平成31年度より、砂防堰堤の整備などに着手しています。
 栗ノ木川では、緊急的に設置したワイヤーネットが令和元年7月の梅雨前線豪雨により発生した土石流を補足するなど、一定の効果を発揮しています。
 今後は、地元のご協力もいただきながら、1日も早い復旧、復興のため、関係機関と協力し対策を進めいてく予定です。

木製残存型枠を活用した砂防堰堤(平成31年3月 高知県いの町)

(3)有瀬[あるせ]地区地すべり対策災害関連緊急事業
 平成30年7月豪雨により、有瀬地区において日移動量17.4mm、累計移動量48.6mmを観測するなど、地すべり活動が活発化しました。
 地すべり活動が活発化したブロックは土量が約60万m3と規模が大きく、これが崩落した際には河道閉塞や土砂流出を引き起こし、JR土讃線や地域内道路の被災、集落の孤立、吉野川下流への被害など、影響が多岐にわたることが懸念されるため、緊急的な対策として、直轄災害関連緊急事業として平成30年9月より着手しました。
 活発化した地すべり活動を抑制するため、地下水の水位低下を目的に通常実施される横ボーリング工に加え、緊急的な地下水位低下対策として地すべりブロックに流入する地下水を強制的に排除する必要があると判断し、地すべり対策としてのディープウェル工を四国で初めて採用し工事が完了しています。
 この対策により一定の効果が確認されましたが、令和元年8月の台風10号により、さらに地すべりの動きが大きくなったため、追加の対策を行う予定としています。
(4)砂防工事の現状と対策
 人口減少、高齢化に伴い、地域防災力の低下のみならず、地域の安全の根幹である砂防事業の担い手も徐々に不足してきています。市街地から離れた山間の急傾斜地に整備される砂防工事は、安全面での高度な対策が必要であることや通勤・運搬距離、これらに伴う経費の大きさ等から敬遠される傾向にあり、地域の人口減少や建設業界の人手不足とも相まって、将来、継続的に山間地の砂防工事が実施できるのか、危惧されているところです。
 このような状況を改善し、砂防工事の担い手を中長期的に確保するため、当事務所では、入札参加資格や施工実績の要件緩和や、県発注工事の成績を活用する試行工事の導入、見積もり歩掛の適用拡大、間接費の実績精算、山間僻地における間接費の割り増し補正、現場に応じた柔軟な設計変更など、現場条件に見合った対策を講じているところです。
 また将来的な人手不足に対し、生産性を向上するための取り組みとして、ICT施工の推進、CIM(三次元設計)の活用、プレキャスト製品の活用などを実施していくこととしています。

プレキャスト製品の活用による生産性の向上

(5)流木対策の推進
 平成29年7月の九州北部豪雨では、山腹崩壊等に伴い大量の土砂や流木が流出し被害が拡大しました。
 これを受け国土交通省では、全国の中小河川を対象に緊急点検を実施し、土砂・流木による被害の危険性が高い渓流において緊急対策を実施しています。当事務所管内においても、土砂・流木補足効果が高い透過型砂防堰堤の整備、並びに不透過型から透過型への改造工事を積極的に進めています。
 また、流木の発生源対策として、管理の行き届かない山林における支障木の整理や山腹工の施工を通じ、健全な流域管理を行う里山砂防を推進していきます。
(6)危機管理能力の向上
 南海トラフ巨大地震や集中豪雨による大規模土砂災害について、深層崩壊による天然ダムの発生等を想定した土砂災害対応訓練を県・市町村等と連携して実施するなど、土砂災害に対する地域防災力の向上にも取り組んでいます。

4.おわりに

 紹介した取り組みの他にも地域と一体となった施策を進めており、多発する土砂災害から国民の生命・財産を守り、地域の安全・安心の更なる向上に向け取り組んでいます。
 今後も、砂防事業を通じて、それぞれの地域が持つ資源を活かした地域づくりに貢献してまいります。

大規模土砂災害を想定した学習型訓練(令和元年11 月 徳島県東みよし町)


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