建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年2月号〉

【寄稿】

日本の大動脈を守る六甲山地の砂防事業

―― さらなる100年への一歩を踏み出す

国土交通省 近畿地方整備局 六甲砂防事務所


六甲山地における砂防事業の始まり

 六甲山地は約100万年前からの六甲変動といわれる地殻変動により隆起し、海岸線からわずか10km程度で標高931mの六甲山頂に至る急峻な地形となっている。また、地質的には硬度が高く建築用材として御影石と呼ばれる花崗岩からなっているが、六甲変動により多数の断層が走り風化が進むことで、近年災害が多発している広島県と同じ真砂土と呼ばれる崩れやすい地質が大半を占めている。
 北に六甲の山なみが連なり、南には波静かな大阪湾を要した六甲山麓は狩猟や漁労にも便利で、気候も温暖であったことから新石器時代より人類が生活していたことが確認されており、当時は照葉樹に覆われた緑豊かな山林(図-1)であったと考えられている。
 中世に入り農耕が始まるとアカマツ林やコナラ林などの二次林へと変遷し、建築用材や薪などに利用するため大切に保護されてきましが、その後の戦乱の時代に数多くの城が築かれ木材が切り出されるとともに、豊臣秀吉が大阪城築城時に石材を採取した際、その見返りとして「武庫山(六甲山)の樹林伐採勝手足るべし」との布令を出したことなどから、荒廃が目立ちはじめ、江戸から明治初期にかけては社寺林を残し、山頂部までその殆どが禿赭地(いわゆる禿山)となり(写真-1)大雨の度に大きな災害を発生させてきた。
 そこで、兵庫県は明治28年、武庫川において砂防堰堤の築造や山腹工などを開始し、明治35年には神戸市で植林が開始された(写真-2)。
 それでもなお、災害は繰り返し発生し、昭和13年7月には文豪、谷崎潤一郎の代表作「細雪」にも描かれた「阪神大水害」が発生、死者行方不明者約700名、被害家屋数約12万戸という未曾有の被害をもたらした。
 この災害を契機とし、六甲山地の国による直轄砂防事業化が決定され、六甲砂防事務所が設置されることとなった。

現在の六甲山地における砂防事業

 六甲山地には神戸市、芦屋市、西宮市、宝塚市が位置し、約230万人の生命財産及び、山陽新幹線、JR神戸線、阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、国道2号、国道43号等の日本の経済活動を支える大動脈が走っている。六甲砂防事務所はこれらの地域や重要交通網を保全し、継続的な社会経済活動の発展を支える砂防事業を展開している。(写真-3)。

写真-3
○砂防堰堤の整備

図-2

写真-4

 当事務所では、昭和13年より砂防堰堤、流路工、山腹工の整備を進めており、令和元年10月末時点において547基の砂防堰堤を設置している(図-2)(写真-4)。
 こうした砂防堰堤の整備により、昨年の平成30年7月豪雨では、阪神大水害と同規模程度の降水量が観測されたが、死者・行方不明者、被害家屋数は図-3のとおり着実に減少しており、その効果を発揮している。
 令和元年度は、新設堰堤17基、既設堰堤改築7基の工事を実施又は実施見込みである。また、近年全国的に多発している流木災害に対応するため、堰堤整備にあたっては、流木を捕捉する機能も持たせている。

図-3

○六甲山系グリーンベルト整備事業

図-4

 六甲山系グリーンベルト整備事業は、平成7年1月の阪神淡路大震災を契機に、これまでの土砂災害対策に加え、六甲山の市街地に面する南側斜面を防災緑地として整備し、山体自体を土砂災害に強く、安全で自然豊かな六甲山を目指す取り組みで、次の4つの目標とした森づくりを行っている(図-4)。 ・土砂災害の防止
・都市のスプロール化防止
・良好な都市環境、風致景観、生態系及び種の多様性の保全・育成
・健全なレクリエーションの場の提供
図-5

 具体的な取り組みとしては、@用地を国有化し、Aニセアカシア林やネザサ群落など根が浅く他の樹種が進入しにくい(種の多様性に乏しい)樹林をコナラ-アベマキ群落の様に根が深く次世代の植生が進入しやすい多様性に富んだ樹林に転換する。B崩壊地や傾斜が急で樹林整備では安定が保てない斜面については、極力、元の樹木を残しながら鉄筋挿入工や法枠工等の斜面対策で安定を図る(図-5)。
 また、樹林整備においては、「みんなの森づくり(市民・企業によるもりづくり)」や「どんぐり育成プログラム(小学生による森づくり)」を実施し、防災意識の向上やレクリエーション活動も兼ね備えた地域と一体となった活動を実践している。
 斜面対策については、令和元年度は、6地区において斜面対策工事を実施又は実施する予定である。

○土砂災害に対する地域防災力向上のための取組み

図-6

 砂防堰堤やグリーンベルト整備事業といったハード対策に加え、万一の場合に個人が自らの生命財産を守るためのソフト対策にも取り組んでいる。
 具体的には、管内に雨量計や監視カメラ、土石流発生を検知するためのワイヤーセンサーを設置し、避難勧告等の判断材料とするため、その情報を関係自治体に光回線を通じて直接提供するとともに、誰もが入手できるようにWeb ページでも情報を提供している。(図-6)
 また、大規模な土砂災害が発生した際に円滑に対応が出来る様、国・県・関係市が合同で演習を行うなどの取組も実施している。


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