建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2020年2月号〉

【寄稿】

土砂災害から富士川流域を守る

―― 安全な暮らしを創造し、人と自然が共生する未来を拓く

 国土交通省 関東地方整備局
 富士川砂防事務所 所長
萬コ 昌昭


はじめに

 富士川砂防事務所は、富士川水系のうち、南アルプスを水源とする釜無川上流域および早川流域において直轄砂防事業を実施しています。管内各市町における土石流等による災害防止のほか、富士川本川への流入土砂を調節し川底の上昇を抑えて洪水や土砂の氾濫を防ぐことで下流域の甲府盆地や流域市町を守り、安全・安心の確保に努めています。

土砂災害の起こりやすい自然の特徴

脆弱な地質分布 〜糸魚川−静岡構造線が縦断〜

 富士川水系は、糸魚川−静岡構造線と新発田小出構造線および柏崎千葉構造線とに囲まれたフォッサマグナ地帯の中にあります。
 糸魚川−静岡構造線は我が国で最も大きな活断層であり、富士川に沿って走っています。
 周辺の地質は、活断層の影響を受け、非常に脆く崩れやすくなっています。
 南アルプスを水源に持つ釜無川・早川流域では、粘板岩、砂岩、チャート等の堆積岩が分布し、構造線の影響を受け動力変成によって脆くなった地質(千枚岩化)を確認することができます。

管内に分布する大規模な崩壊地

七面山の大崩れ 糸魚川ー静岡構造線(活断層系ストリップマップより)

 糸魚川−静岡構造線が縦断する早川では、「七面山の大崩れ」のほか、「八潮崩れ」、「アレ沢の大崩壊地」等の大規模崩壊地が多数存在しています。これらの大崩壊地は富士川の土砂生産源となっており、大量の土砂が流出しています。

急峻な地形・急流河川

〜南アルプスの最高峰北岳と三大急流富士川〜

代表的河川の勾配比較

 管内には、南アルプスの最高峰北岳(富士山に次ぐ全国2位の高峰、3,193m)や間ノ岳(全国3位、3,190m)などの急峻な山々が連なっています。
 また、富士川の平均河床勾配は約1/240であり、最上川、球磨川と並んで「日本三大急流河川」の一つに挙げられています。
 富士川流域の中で、南アルプスを水源に持つ釜無川および早川の平均河床勾配は1/21および1/25であり、本川の河床勾配をはるかに上回る急流河川です。
 そのため、南アルプスで生産された膨大な土砂は、釜無川や早川を通じて富士川本川へ大量な土砂を運んでいます。

直轄砂防事業の役割

土砂・洪水はん濫防止対策

 大雨の時には山から一度に大量の土砂が流れ出し、下流の川底を上げ、甲府盆地などの地域に洪水や土砂がはん濫する危険性が高まります。そこで、大雨の時に下流域へ一度に大量の土砂が流れ出すのを防ぐために、砂防堰堤などの砂防設備の整備を行っています。

土石流対策

 下流の人家や重要交通網に大きな被害を与える土石流をくい止めるため、砂防設備を整備しています。

富士川直轄砂防事業

根幹的な土砂災害対策施設の整備

 大規模な崩壊地を含む荒廃地からの土砂の流出を抑えて安全を確保するために、根幹的な砂防施設を整備しています。

要配慮者利用施設を保全するための施設整備

 土砂災害時に犠牲となりやすい方々が暮らす福祉施設などを守るため、砂防施設を整備しています。

総合的な土砂災害対策を推進

 地震や洪水による深層崩壊や天然ダムの形成といった大規模土砂災害などから尊い人命を保全するために、土砂災害発生時における県および市町と連携した危機管理体制の強化や情報提供のためのシステム整備等のソフト対策を推進しています。

おわりに

 富士川砂防事務所は、1959年に当地域で発生した激しい土砂災害を契機として1960年に発足し、今年で60年になります。この間、事業の進捗により地域の安全は着実に向上してきていますが、一昨年の西日本豪雨災害や昨年の台風19号災害に見られるように、豪雨の発生する頻度が高まってきています。このため、これまで比較的降雨の少なかった当地域においても十分に豪雨災害に備えた準備(砂防堰堤などのハード対策+警戒避難などのソフト対策)をしておく必要があります。これからも、地域の皆様のご理解とご協力をいただき、土砂災害対策を推進してまいります。


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