建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年11月号〉

【寄稿】

最上川・赤川流域を土砂災害から守る

―― 土砂は、山から街、そして海へ

 国土交通省 東北地方整備局
 新庄河川事務所 所長
光永 健男


図-1 新庄河川事務所の事業範囲

1.新庄河川事務所の概要

 新庄河川事務所は、山形県北部の新庄市に位置し、最上川中流の河川管理と河川改修事業(101.4km)、最上川水系(立谷沢川・角川・銅山川・寒河江川・鮭川流域、計1,061ku)と赤川水系(赤川流域550ku)における砂防事業、及び、最上川・赤川水系の月山地区(田麦俣・志津地区、計430.2ku)における地すべり対策事業を行っています。
 本稿では、当事務所で実施している砂防事業のことについて説明します。

2.流域の特性

 最上川・赤川流域には、第四紀層の月山・葉山火山噴出物などの脆弱な地質が広がり、大量の不安定土砂が存在します。
 それらは、春季の雪解けや夏季の豪雨などによって、中山間地域に地すべりや土石流などの土砂災害を発生させるとともに、土砂は下流に流れ、下流の川底を上昇させるなど、河道の不安定化を招いています。
 昭和の初め頃には、最上川河口部に位置する酒田港が土砂で埋め尽くされて、船の出入りが出来なくなり、港が使えなくなる恐れがあり、これが昭和12年の直轄砂防事業着手契機となっています。

写真-1 荒廃が著しい立谷沢川上流

3.主要な砂防事業

写真-2 多くの土砂が堆積する最上川河口 写真-3 管内第1号の濁沢第1砂防堰堤(昭和12年〜14年施工)

 砂防事業としては、主に砂防堰堤工や流路工の整備を進めています。 また、当事務所では昭和初期から事業に着手しており、老朽化している砂防堰堤の長寿命化対策として補修、改築等を進めるほか、平成28年九州北部豪雨を契機とした流木対策に取り組んでいます。

4.土砂災害に対する地域防災力の向上に向けて

写真-4 土砂流出を抑制する砂防堰堤 写真-5 老朽化した砂防堰堤の補修

 新庄河川事務所では、山形県庄内町肝煎木の沢地区、西川町沼山地区等において、地区の自主防災会、岩手大学の協力のもとに「まるごと里ごとハザードマップ」の作成、避難誘導標識の設置に取り組みました。
 また、山形大学、庄内町と大蔵村の教育委員会の指導等により、副読本の作成と各小学校への配布、教職員への現地説明会の開催、中学校等への防災学習教室も実施しています。

写真-6 既設堰堤への流木捕捉工の設置
 
写真-7 土石流対策ダムの建設
(堰堤整備により、下流の住宅地が保全された事例 鍋獄沢砂防堰堤)

5.インフラツーリズムの取り組み

写真-8 地元小・中学生への防災学習

 当事務所は、古くから砂防事業に着手しており、石積みの砂防堰堤(肘折砂防堰堤、瀬場砂防堰堤、六渕砂防堰堤)が登録有形文化財となっています。これらの砂防堰堤や地すべり対策施設等を単なる防災施設とするのではなく、何故これらの施設を造ることになったのか、これらの施設が何を守っているのか、ということを、月山地域の地形地質、自然環境、最上川や出羽三山地域の歴史・文化等と結びつけて説明するという「インフラツーリズム」に取り組んでいます。

写真-9 民間旅行会社による、砂防堰堤見学をコースに取り込んだツアーの実施

6.SABOカード

 これ迄、砂防施設を対象に「あなたの心に残る砂防堰堤写真」を募集し、事業の広報に活用してきましたが、さらに、応募のあった作品を「SABOカード」の表紙写真として利用するなど、現在までに10種類のSABOカードを作成し、砂防堰堤近傍の道の駅等で配布し、好評を得ています。

図-2 新庄河川事務所が発行しているSABOカード

7.終わりに

emsp;近年、大規模な災害が数多く発生していますが、当事務所管内でも、昨年は8月の2度に渡る豪雨により多くの山腹崩壊が発生し、角川流域では一時、孤立化が発生する事態となりました。
 引き続き、土砂災害の軽減、防止に向けて、着実に事業を推進していく他、地域防災力の向上や防災教育等のソフト対策を進めていきたいと考えています。さらに、インフラツーリズム等にも積極的に取り組んでいきます。


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