建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年10月号〉

【寄稿】

洪水調節に特化した立野ダム

―― 白川の洪水被害軽減のために

 国土交通省 九州地方整備局
 立野ダム工事事務所 所長
阿部 成二

白川流域図

1.はじめに

立野ダム完成イメージ図

 立野ダムは、白川沿川の洪水被害を防ぐことを目的とした、平常時は水を貯めない洪水調節専用の流水型ダムで、昭和28年6月洪水(6.26白川大水害)と同規模の洪水を安全に流すことを目指して、基準地点の代継橋地点における基本高水のピーク流量3,400m3/sを立野ダムにより400m3/sの洪水調節を行い計画高水流量3,000m3/sに低減し、洪水被害の防止・低減を図ります。
 白川は、熊本市街地を貫流する一級河川で、流域の約8割を全国平均の約2倍の雨が降る阿蘇カルデラが占めており、阿蘇に降った雨が阿蘇カルデラの唯一の切れ目である立野火口瀬で黒川と合流し、一気に急峻な中流を流れくだり僅か2時間程で人口・資産が集中する熊本市に達します。
 また、洪水流には火山灰由来のヨナを大量に含んでおり、ひとたび氾濫すると水が退いた後に取り残された大量のヨナの処理など甚大な被害が発生する河川です(6.26白川大水害では、約半年を要す)。近年においても平成24年7月九州北部豪雨で、流域の至る所で氾濫し、家屋の浸水被害など甚大な被害が発生したため、河川激甚災害対策特別緊急事業等により築堤や河道掘削、橋梁の架替、遊水地整備等を進めており、これらの河川整備と立野ダムの洪水調節により平成24年7月九州北部豪雨と同規模の洪水を安全に流す対策が完了します。

立野ダム諸元 平成24年7月九州北部豪雨

2.事業の進捗状況


 立野ダム建設事業については、昭和58年に建設事業に着手し、地域の方々のご協力のもと、事業を実施しており、平成26年11月から仮排水路トンネル工事に着手し、鋭意工事を進めておりましたが、平成28年4月に熊本地震が発生しました。
 地震後早急に、「立野ダム建設に係る技術委員会」を設置し、技術的な確認・評価を行った結果、「熊本地震後も立野ダムの建設に支障となる技術的な課題はなく、立野ダムの建設は技術的に十分可能であると考えられる。」との提言を頂きました。
 また、並行して地震後の復旧等を鋭意進め、平成30年2月にダム本体一期工事を契約し、平成30年8月5日に立野ダム本体工事起工式を執り行い、本体工事に着手しました。

立野ダム本体工事起工式
立野ダムサイトの状況(令和元年5月)

3.地域と連携した取り組み

マイダムカードフォトフレーム
立野ダムカレー

 立野ダムを建設する立野火口瀬は、「阿蘇くじゅう国立公園」に位置し、ユネスコ世界ジオパークに加盟認定された地域でもあるため、関係自治体等と連携を図りながら景観や環境に配慮した丁寧な事業の実施に努めています。
 さらに阿蘇の豊富な自然環境の持つ観光資源と立野ダムを連動させたインフラツアーを商品化し、より多くの観光客を誘引し、地域振興に資することを目的に、南阿蘇村と立野ダム工事事務所で「阿蘇・立野峡谷」ツーリズム推進協議会を設立し、マイダムカードフォトフレームの設置や、賛同店舗によるダムカレー販売を行っています。
 また、産学官が連携し、南阿蘇地域の熊本地震からの復興を観光の力で支援する「南阿蘇観光未来プロジェクトモニターツアー」を平成30年11月3〜4日に実施しました。
 ツアーは、「インフラツーリズム」、「防災ツーリズム」、「ジオツーリズム」を体験でき、また、地元の温泉施設や鉄道施設の復旧状況の紹介や、地元の食材を使用したランチなど、災害からの復活を応援する内容としました。
 ツアーの結果、参加者からは高い評価をいただき、テレビや新聞などでも大きく報道されました。また、本ツアーは、JALパックアワード2018 企画部門「金賞」を受賞しました。

4.おわりに

 白川沿川は、これまで幾度と無く洪水被害に見舞われてきました。特に白川下流部に位置し、県の中枢機能や資産が集中する熊本市の中心市街部は、洪水時の水位より周辺地盤が低く、一度洪水が氾濫すると甚大な被害が発生します。このため、昭和28年6月や平成24年7月の悲劇を繰り返さないためにも、1日も早いダムによる治水効果発現のため着実かつ円滑に事業を進めて参ります。
 さらに、立野ダム建設現場と阿蘇及びその周辺の“多様で豊富な自然環境”という観光資源を連動させたインフラツアーの取り組みや、ダム完成後の新たな利活用による地域振興への取り組みなど、洪水調節に特化した流水型ダムの新たな価値の創出にも取り組んで参ります。


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