建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年8月号〉

【寄稿】

開港120周年を迎えた清水港のいま

 国土交通省 中部地方整備局
 清水港湾事務所 所長
木村 俊介

清水港の全景

■事務所紹介


 清水港湾事務所は、静岡県内の港湾を所管し、国際拠点港湾の清水港、重要港湾の田子の浦港および御前崎港、地方港湾で避難港の下田港において、地域の経済活性化や切迫する巨大地震・津波へ備えるなど安全・安心の確保に資する港湾整備を進めています。このうち、清水港では、国際クルーズ拠点の形成、港湾施設の老朽化対策、地震・津波への対応力強化を柱に取り組みを進めています。

1906年、茶輸出第1船として初寄港した「神奈川丸」    1970年、清水港にコンテナ船が初寄港「パシフィック・バンカー号」
1990年、清水港にクルーズ船が初寄港「クイーン・エリザベスU」    2016年、清水港に国内定期RORO航路が開設「北王丸」

■清水港の概要

清水港へのクルーズ船の寄港回数
清水港へのクルーズ船乗客数
 清水港は、貿易額全国第10位(2018年)と我が国を代表する国際貿易港であるとともに、近年は、多くのクルーズ船が寄港し国内外の人びとが訪れ賑わう港として地域の暮らしや経済を支える重要なインフラとして今も発展を続けています。
 清水港のルーツをさかのぼってみると、古くは原始的な渡し場であったと考えられ、斎明天皇在位の頃(660年頃)、百済援助の軍船が清水周辺で造られ、多くの軍兵が出発したと推測される記録が日本書紀に残っています。江戸時代になると、巴川の河口沿岸が湊として発展し、江戸、大坂と東海、甲信各地域との物資輸送の中継基地・清水湊として多くの廻船で賑わい、発展を遂げてきました。
 明治時代に入ると、地元の民間有志により外海に波止場が築造されるとともに、静岡茶の積出港として当初は横浜港へ多くのお茶が運ばれていましたが、地元の熱心な請願活動が実を結び1899年に開港場に指定されると、清水港は静岡茶を直接海外へ輸出する貿易港として発展を遂げます。その後、お茶やマグロ油漬け缶詰などの輸出で栄え、戦後の高度経済成長期には工業港として、その後は国際コンテナ物流の拠点としての地位を確立していきました。近年は、国内RORO航路が就航し北海道から九州まで繋がる国内海上物流の拠点として、また、国際クルーズ拠点としても指定されるなど、国内外のモノとヒトで溢れる港として、多様な役割を担い発展を続けています。
 これ以降、本稿では当事務所で進めています清水港の主な事業について紹介いたします。

日の出埠頭関係施設                清水港国際旅客船拠点形成計画整備イメージ図
クルーズ船2船同時着岸 想定計画

■日の出地区岸壁の改良

日の出岸壁改良工事 深梁工法
日の出岸壁改良工事 大型係船曲柱設置

 日の出地区は、大正から昭和初期にかけて、清水港初の国直轄事業として近代的な埠頭が整備され、昭和40年代前半までは清水港の物流拠点の中核として役割を果たしてきました。その後、興津、袖師、新興津各地区の整備が進むにつれて物流機能の役割が縮小する一方、近年は清水港へのクルーズ船の寄港増加によりクルーズ船の受入拠点となり、更に2017年に国際クルーズ拠点として「国際旅客船拠点形成港湾」に指定されると、本地区が国際クルーズ拠点として位置づけられ、現在、官民連携による様々な環境整備が行われているところです。
 具体的には、クルーズ船の乗客を受け入れるためのCIQターミナルをはじめとする旅客施設の改修、緑地や商業施設などの整備、また、ターミナル背後では、水族館等の海洋文化拠点施設の整備が進められています。
 当事務所では、こうした環境整備と連携して、2018年より日の出埠頭において、老朽化した岸壁の老朽化対策を行うとともに、15万トン級の大型クルーズ船2隻が同時に着岸できるよう岸壁の改良工事を進めています。具体的には、既設岸壁の桟橋部分の鋼管杭同士を鋼製の梁で繋ぎ桟橋部の補強を行うとともに、今後は大型クルーズ船の着岸に対応するための大型係船曲柱の設置などを進め、2022年の完成を目指し事業を進めてまいります。

■外港防波堤の粘り強い化

外港防波堤 全景
 東日本大震災では、津波により防波堤が倒壊した港湾が長期にわたり荷役活動に支障をきたしました。本地域でも南海トラフ地震などの大規模地震の発生が危惧されていることから、清水港においても同様の被害が発生しないよう、新興津コンテナターミナルの沖合にある外港防波堤の「粘り強い」構造への改良を進めています。具体的には、津波による越流や流速拡大に対応するための消波ブロックの大型化、基礎マウンドの被覆ブロック設置、地震動による堤体の沈下に対応するための上部工の嵩上げに取り組んでいるところです。当該事業は、昨年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」の対象でもあり、早期の事業進捗を図ってまいります。

上部工嵩上げ            大型消波ブロック設置

■終わりに

 清水港は、本年開港120周年を迎えました。現在では、我が国有数の国際貿易港として、またクルーズやマリンレジャー、海洋研究などの拠点として発展していますが、過去には何度も危機的な状況を迎えつつ、その都度、地元の人びとが立ち上がり大きなハードルを乗り越えてきました。一方、来年度には、清水と山梨県を結ぶ中部横断道の全線供用や新東名高速の神奈川県区間の供用が控えており、清水港を取り巻く環境も劇的な変化が見込まれています。先人達が大切に築きあげてきた清水港を次の時代へしっかりと受け継ぎつつ、更なる進化を遂げるために、当事務所も地元関係者と一丸となって全力を尽くしてまいります。


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