建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年6月号〉

【寄稿】

天竜川の美しい自然を生かしながら安全性の向上を図る

 国土交通省 中部地方整備局
 天竜川上流河川事務所 所長
伊藤 誠記

 私たち天竜川上流河川事務所が管理する天竜川は、日頃は穏やかな表情を見せていますが、時には“暴れ天竜”となり災害をもたらします。そのため、河川事業や砂防事業などを行い、流域の人々に安心して暮らしていただける川づくりを進めています。また、美しく豊かな天竜川の環境を、次の世代へ引き継いでいくことも、私たちの大きな使命です。魚や鳥、植物などをはぐくむ川と人との共生をめざした川づくりを進めています。さらに、川に親しみ、川の恵みを受け、流域に暮らす豊かさを実感する毎日を提供すべく、イベントの開催や親水空間の創造などを通じて、地域の皆さまとのコミュニケーションによる川づくりを進めています。こうした基本理念に基づき、河川整備、河川管理にあたっています。
 今年度の主な河川整備としては、松尾・下久堅地区治水対策事業を実施しています。飯田市の松尾・下久堅地区は、洪水時に下流の狭さく部(鵞流峡)の影響で水位が堰上がります。このため、鵞流峡を拡げる工事を平成27年度より実施しています。
 鵞流峡には貴重な動植物(チゴユリ・ギンラン・カワラハンノキ・スナヤツメ)が確認されており、その保全・保護対策も行いながら事業を進めています。


 また、宮田村の大久保橋下流では洪水時の流下能力が不足していることから、平成27年度より右岸堤防の引き堤事業を実施しており、築堤、護岸整備、樋管の付け替えなどの工事を実施しています。
 この他、自然再生事業(河川環境)として、天竜川本来の原風景を再生するために砂州の切り下げ、樹木伐開、事前事後モニタリングなどを行っています。かつての「レキ河原」を再生し、世界で唯一この地方のみ生息するツツザキヤマジノギク等の河原固有種の生育環境を整えることを目的としています。
 近年は河道内の樹林化が進行し外来種の侵入を受け河川環境の変化も著しいですが、「@樹木の伐採」「A砂州の切り下げ」「B外来種の駆除」の整備を基本とした事業を進めています。レキ河原を再生した箇所で『イカルチドリ』の繁殖が経年して確認されるなど、事業の効果が得られています。


 一方、天竜川上流域は、急峻な地形や脆い地質特性から荒廃地や地すべりが広域に分布しており、これまでに昭和36年に発生した豪雨災害をはじめ数々の土砂・流木災害に見舞われてきました。天竜川上流河川事務所では、これら土砂・流木災害対策の為の砂防事業と、地すべり対策事業を実施しています。現在、土砂・流木災害対策および、流出土砂抑制のための砂防堰堤を29箇所で、土砂を含む洪水を安全に流下させ、河道内に堆積する土砂の再移動を抑制し、局所的な洗掘や河床低下を防止するための床固工群、渓流保全工を6箇所で、地すべり対策事業を飯田市南信濃此田地区で実施しています。また、令和元年度より長野県下伊那郡天龍村・阿南町を中心とした天竜川中流地区においても地すべり対策事業に着手します。


 特に、床固工群、渓流保全工の事業では、水辺に近づきやすい護岸の工夫や、工事で発生する巨石を床固工や護岸に活用するとともに、常水路により澪筋の水深を確保するなどの工夫により、景観、環境に配慮しながら事業を実施しています。
 また、近年の流木による被害の多発を受け、天竜川上流域においても既存の堰堤の流木対策機能の強化を目的とした堰堤改築事業を推進していきます。
 天竜川上流河川事務所では、今後ますますの発展が見込まれる伊那谷において、地域のみなさまが安全で安心して暮らせるよう、引き続き警戒避難のための情報整備などソフト対策も含め、河川・砂防事業を着実に推進して参ります。


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