建設グラフインターネットダイジェスト
〈建設グラフ2019年6月号〉
【寄稿】
那覇空港滑走路増設事業の概要と進捗状況
内閣府 沖縄総合事務局 開発建設部
空港整備課長
安藤 慎 |
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1.はじめに
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図-2 国内主要空港の旅客数の比較 |
那覇空港は、沖縄の玄関口のみならず、地理的優位性を活かした我が国とアジアの玄関口として国内外各地を結ぶ拠点空港であるとともに、県内離島と沖縄本島を結ぶハブ空港として、重要な役割を果たしており、沖縄のリーディング産業である観光・リゾート産業をはじめとして、様々な経済活動や県民生活を支える重要な社会基盤となっている。
将来の需要に適切に対応するとともに、沖縄県の持続的振興発展に寄与するため、また、将来にわたり国内外航空ネットワークにおける拠点性を発揮しうるよう、那覇空港の沖合に2本目の滑走路を新設する「那覇空港滑走路増設事業」を平成25年度より進めているところであり、本稿では、事業概要と進捗状況について紹介する。
2.那覇空港の現状
那覇空港は、平成29年度において、年間の乗降客数が約2,116万人(国内線1,752万人、国際線364万人)となっており、好調なインバウンド需要等を背景として、この6年間で1.5倍以上(特に国際線旅客は7倍以上)に増加している。滑走路が1本で運用されている空港としては、全国で2番目に旅客数の多い空港となっている。(図-1、2参照)
また、深夜時間帯には、沖縄のアジアにおける地理的な優位性を活かし、ANA Cargoによる「沖縄貨物ハブ事業」が展開されている。さらに、自衛隊機によるスクランブル対応等が行われる他、海上保安庁、沖縄県警等の固定翼や回転翼も常駐しており、24時間を通じて、多様な航空機により活発に利用される空港となっている。
このような航空需要の増加により、那覇空港では、ピーク時等の発着回数がすでに処理容量に達し、航空機の慢性的な遅延が発生している状況にある。また、滑走路1本で運用されていることから、滑走路上での航空機トラブル等による滑走路閉鎖時の代替性が無いことや滑走路の維持補修時間が十分に確保できないこと等の問題を抱えている。
3.那覇空港滑走路増設事業の概要
(1)事業概要
本事業は、那覇空港の現滑走路と並行して、1,310m沖合いに約160haの埋立地を造成して延長2,700m、幅60mの滑走路を新設するものである。平成15年度から空港計画の幅広い合意形成を図った上、平成26年1月に工事着手し、令和2年3月末の供用開始を予定している。なお、施工期間については、当初、7年を見込んでいたが、地元沖縄県の強い要望を受けるかたちで、実質5年10ヶ月に短縮して事業化されたところである。総事業費は2,074億円となっている。
(2)工事概要
基本的な施工ステップとしては、@最初に埋立地の外周に護岸を設置し、A護岸を締め切った段階で埋立土砂を投入し、B埋立地として造成した後、滑走路等の舗装、航空保安施設等の設置を進めていく。なお、早期の供用開始を目指し、護岸の内側に中仕切り堤を設置して全体を6工区に分割し、早く締め切った工区から埋立工等に着手している。現地の施工条件の特徴としては、施工位置が外海に直接面しており台風や冬期の風浪等の影響を強く受けること、施工箇所は総じて水深が浅く大型作業船が近接可能な箇所が限定的であること、施工箇所周辺および沿岸域の自然環境への配慮が必要であること、空港周辺にまとまった土取り場がないこと等が挙げられる。(図-3参照)
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図-3 現地の特徴 |
(3)環境監視委員会
本事業における環境対策の実施にあたっては、高度な技術的・専門的判断や検討内容の合理性・客観性を確保するため、「那覇空港滑走路増設事業環境監視委員会」を設置し、有識者である委員からの指導・助言をいただきながら環境に配慮した施工を進めており、令和元年5月時点までに計11回の委員会を開催している。
4.事業進捗状況
平成25年度から開始した本事業では、これまでに当局において関連工事109件を発注済みであり、令和元年度は事業最終年度となる。護岸工事については、平成30年3月までに全体延長約8.5kmが概成済みであり、また、平成27年9月より開始した埋立工事については、令和元年5月時点で全体土量約1,000万m3が概成済みとなっている。舗装工事については、既に全6工区で工事に着手しており、U工区、V工区では基層までの施工が完了している。令和元年度においては、残る舗装工事、進入灯橋梁工事、仮設構造物撤去工事等を進めていく予定である。(図-4 参照)
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図-4 衛星写真(平成31年4月) |
5.おわりに
沖縄県では、昨年度の入域観光客数が過去最高の999.9万人に達しており、2021年度には観光客1,200万人を目標としている。島嶼県である沖縄において、更なる観光産業等の発展のためには、本事業を含む那覇空港の機能強化が必要不可欠であり、那覇空港に対する県民、県経済界の関心も非常に高いものとなっている。
本事業は、外海に直接面した極めて厳しい施工条件下で、環境保全対策にも十分配慮しながらの大規模急速施工のプロジェクトであるが、受注企業をはじめ下請・協力企業を含めた関係者が総力を上げて取り組んでいる。来年3月末の供用開始に向け、引き続き、事業の着実な推進を図っていく所存である。
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