建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年4月号〉

【寄稿】

平良港国際クルーズ拠点形成への取り組み

 内閣府 沖縄総合事務局
 平良港湾事務所 所長
林 輝幸


図1 宮古諸島の位置

1.はじめに

 平良港が所在する宮古地域は、沖縄本島から南西に約300km、東京から約1800kmに位置し、大小8つの有人島で構成された諸島で、東洋のカリブを彷彿させる宮古ブルーの美しい海と豊かな自然に恵まれたところです。当地域の中心である宮古島は総面積159km2で、沖縄県で4番目に大きい島で、全体が平坦で低い台地状で農耕に適し、年平均気温も24℃と住みやすい島です。
 当地域の拠点港である平良港は、宮古島の北西部に位置し、古くは漲水(はりみず)港と呼ばれ、中山王朝(沖縄本島)との航路として明徳元年(1390年)の頃から、王府首里への貢物船が利用していました。1972年の本土復帰に伴い、平良市(現宮古島市)を港湾管理者とする重要港湾に指定され、物流機能の強化としての岸壁、防波堤等の施設整備を推進しています。また最近の動きとして、急増するクルーズ船の寄港に対して、二次交通、CIQ等の受け入れ態勢の整備が課題となっています。
 本稿では、新たな課題として急増するクルーズ船寄港への取り組みについて紹介します。

2.急増するクルーズ船の寄港

図2 クルーズの寄港回数と旅客数の推移

 東アジアを中心とするクルーズ需要の急速な拡大と地元の官民連携によるクルーズ船の誘致活動とが相まって、2015年10月から平良港への定期寄港が再開されました。寄港回数は2015年の13回から翌年の2016年は86回、2018年には143回と飛躍的な伸びを記録、今年も207回の寄港が予定されています。
 一方、平良港にはクルーズ船の専用岸壁がなく、5万トン級以下のクルーズ船は、砂砂利や鉄くずを扱う、市街地から離れた岸壁を暫定的に使用しています。また、5万トン級を超えるクルーズ船は沖泊し、テンダーボートでの上陸を余儀なくされるなど、港湾としての受け入れ環境は劣悪であり、その他にも課題が山積している状況です。
 このため、緊急的な対応として、2012年度より整備中の漲水地区複合一貫輸送ターミナル改良事業において、5万トン級のクルーズ船が接岸可能な岸壁延長を整備し、2017年12月に暫定供用を行いました。これによって、市街地へのアクセスが容易になるなど利便性の向上が図られます。また、完成時には11万トン級クルーズ船の接岸が可能となります。

3.国際クルーズ拠点形成への取り組み

写真1 漲水地区岸壁に接岸したクルーズ船

3.1 官民連携による国際クルーズ拠点形成計画への応募

 宮古島市は、急増し、大型化するクルーズ船に対応するため、世界最大のクルーズ船の運航会社であるカーニバル社と連携して、国が募集する「官民連携による国際クルーズ拠点形成計画書(目論見)」に応募し、2017年1月に官民連携による国際クルーズ拠点港に選定されました。これを受け、宮古島市は14万トン級クルーズ船が接岸可能な岸壁を港湾計画に位置づけ、当該岸壁等を国が整備し、CIQ等を行う旅客ターミナルビルの整備・運営をカーニバル社が行う「平良港国際クルーズ拠点整備事業」を実施することになりました。
■平良港国際クルーズ拠点形成計画(目論見)の概要

 2017年9月には、クルーズによる地域振興に向けた取り組みの必要性とその機運を高めることを目的に、本事業の着工式に合わせて「平良港国際クルーズシンポジウム」を開催しました。シンポジウムでは、カーニバルアジア副社長のポールチョン氏による基調講演及び有識者によるパネルディスカッションにおいて、地元で取り組むべき課題等を認識し、共有することができました。

3.2 事業計画の策定

 本計画の策定にあたっては、@2020年4月の供用と短期間(実質工程2.5年)での施工、A平良港内の限られた水域での整備、B事業コストの縮減を条件に進めました。検討の結果は、図Bに示すように、岸壁等の係留施設は第二線防波堤の前面に、避難泊地(-10m)を活用した配置とし、構造形式は、工期短縮の観点から桟橋式(ジャケット構造)岸壁とドルフィンとで構成することにしました。また、臨港道路については、既存防波堤を活用した構造とし、工期の短縮及び工事費の削減を図ることにしました。

3.3 事業計画の変更

図3 事業計画概要図

 事業着手後も、東アジアクルーズの需要拡大やクルーズ船の大型化は著しく、15万トン級から22万トン級クルーズ船の投入が相次いで計画されるなか、2021年には22万トン級クルーズ船がアジアマーケットに投入される予定です。
 平良港においても、同級クルーズ船の寄港要望が寄せられるなか、更なる大型化に対応する必要から、現在、整備中の岸壁等を22万トン級に対応した港湾計画の変更と事業計画の変更を行いました。整備としては、2020年4月に14万トン級クルーズ船を対象に暫定供用させた後、引き続き、22万トン級クルーズ船が接岸可能な岸壁に拡張することにしています。

3.4 設計・施工上の課題と対応

写真2 岸壁前面泊地の浚渫状況
写真3 ジャケット製作状況
写真4 鋼管杭打設前の先行掘削状況

〔波浪への対応〕
 本施設は港内ではあるものの、第一線の外防波堤が比較的沖に位置していることから、外洋波の影響だけでなく、風波による影響も考慮する必要があったため、設計波は外洋波と風波との合成波としました。このため桟橋式である岸壁部については、床板に作用する揚圧力が大きくなり、断面が成立しなくなったことから、揚圧力を軽減する対策として、桟橋前面に防波版を設置することにしました。
〔その他の対応〕
 沖縄特有の地盤であるサンゴ礫混じり土などの評価にあたっては、学識経験者の助言を受けつつ、追加的調査を実施し、最適な評価を行ったことで、当初は液状化の判定であった土層が液状化しないことが確認され、地盤改良の必要がなくなったことで、施工工程を短縮でき、かつコストの削減に繋げることができました。その他にも離島という制約下で、様々な取り組みを行っています。 3.5工事の進捗状況
 現在、本体ジャケットの製作を長崎と愛媛の2ヶ所で行っています。これと並行して平良港では、鋼管杭の打設や泊地・航路の浚渫等の工事を実施しています。本年5月頃にはジャケットを輸送し、設置を予定しています。また、臨港道路の築造、橋梁の架設工事も急ピッチで進めています。工事は概ね順調に進捗しており、2020年3月までの完成を予定しています。

4.おわりに

 2020年の供用年には、現在の2倍近いクルーズ船の寄港が見込まれています。現状の課題である二次交通、CIQ等をはじめとする受け入れ態勢の更なる強化が急務となっています。
 事務所では、本事業の目的であるクルーズによって地域振興を図り、地方創生の繋げるためには、旅客等の受け入れ環境を整備し、魅力ある宮古島観光の拠点を形成することが不可欠であるとの認識から、平良港と背後市街地が一体となった「みなとまちづくり」を推進するため、宮古島市及び地元関係機関等と連携、協働した取り組みを行っています。まずは、供用開始に向け、旅客等を効率的に捌き、多様な交通手段や観光メニュー等を提供する交通ターミナル機能の整備及びまちづくり推進のために必要な環境等の整備を進めて行くことにしています。

図4 国際クルーズ拠点整備事業(完成予想図)


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