建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年4月号〉

【寄稿】

紀伊山系砂防事務所のとりくみ

 国土交通省 近畿地方整備局
 紀伊山系砂防事務所 所長
小竹 利明

紀伊山系直轄砂防事業 事業実施箇所位置図

紀伊山系直轄砂防事業

 平成23年9月の台風12号により、紀伊半島(奈良県・和歌山県・三重県)では、3千箇所を超える斜面崩壊が発生し、その土量は約1億?にも及びました。奈良県・和歌山県では大規模斜面崩壊(深層崩壊)により河道閉塞が17箇所確認されたほか、二級河川那智川では同時多発的な土石流により甚大な被害が発生しました。これらの災害を受け、国土交通省近畿地方整備局は、大規模崩壊や河道閉塞の決壊による二次災害の恐れのある箇所に対し、緊急的な砂防事業に着手しました。

河道閉塞の対策

大規模崩壊により河道閉塞が生じた赤谷・長殿・栗平・北股・熊野の各地区では、河道閉塞の決壊を防止するため、砂防堰堤や渓流保全工の整備を進め、各地区で基幹となる砂防堰堤が完成し、一定の安全度が確保されました。また、北股・熊野地区では湛水池の解消に至りました。

大規模崩壊斜面の対策

 清水・冷水・三越の各地区の大規模崩壊斜面においては、再崩壊や拡大崩壊の防止のため、不安定土砂の排土及び抑止工、法面安定化の法面整形及び緑化工、法尻部の河川護岸工の整備を進め、三越地区は対策完了に至り、残る二地区の対策も完了に向けて進捗を図っています。

赤谷[あかだに]地区(川原樋川[かわらびがわ]床固工群)
被災直後(平成23年9月6日撮影) 現在(平成30年4月18日撮影)


冷水[ひやみず]地区(冷水山腹工)
被災直後(平成23年9月6日撮影) 現在(平成29年8月9日撮影)


熊野[いや]地区(熊野川[いやがわ]床固工群)
被災直後(平成23年9月6日撮影) 現在(平成30年4月18日撮影)

流域全体の土砂災害対策

 大規模斜面崩壊箇所の対策で一定の安全度は確保されましたが、崩壊斜面等からの土砂流出に伴う下流域の洪水氾濫対策のため、平成29年度より流域全体における砂防事業に着手しています。現在は、大規模斜面崩壊が発生した流域を含む各流域で砂防堰堤の整備に向けた調査設計に取り組んでいます。

先進技術の活用

 建設業界が一丸となって取り組むi-Constructionを推進するためのICT技術は、生産性の向上とともに砂防工事のような厳しい現場環境での安全確保に非常に有効な技術です。大規模な崩壊斜面が残る当事務所管内ではICT技術を積極的に活用するとともに、新たな技術開発にも取り組める現場として活用していきたいと考えています。

おわりに

 紀伊半島大水害から8年を経て、一定の安全度を確保するに至りましたが、現在でも豪雨により復旧作業を繰り返さざるを得ない厳しい現場であることに変わりはありません。引き続き、地域の皆様のご協力を頂き、地域づくりの下支えができるよう、全力で対策を推進してまいります。


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