建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年3月号〉

【寄稿】

地域と連携し治水対策に全力

―― 水害に強い由良川を目指して

 国土交通省 近畿地方整備局
 福知山河川国道事務所 所長
久内 伸夫


平成26年8月豪雨 福知山市街地の浸水状況

1.由良川の概要

 由良川は京都、滋賀、福井の府県境三国岳を源に京都府の北部を流れ日本海に注ぐ幹川流路延長146km、流域面積1,880km2の一級河川です。
 上流部の南丹市域などでは急勾配ですが、中流部の綾部市街地、福知山市街地より下流部では約1/8,000と非常に勾配が緩く、更に下流部の舞鶴市域等では山あいを流下することから洪水が流れにくくなるという特徴があります。
 また、中流部・下流部では、堤防未整備地区が多く残り、そのため、過去には幾度となく洪水被害が繰り返されてきました。

2.由良川の主な洪水被害

●被害状況は、「福知山50年のあゆみ」「綾部市史」「大江町史」記載の値を集計したものであり、本川・支川の別は不明。また、旧行政区域で集約されている箇所もあった。
●H16年、25年は、国土交通省調べ。平成26年の被害状況は福知山市HPより(H27.3.20時点)
●水位は水文資料(福知山市、福知山河川国道事務所)
●H29、H30年の被害状況は、沿線市の調査結果をもとに国土交通省にて集計。

3.由良川水系河川整備計画

 由良川水系河川整備計画(以下、「河川整備計画」という)は平成15年8月に策定され、昭和57年台風10号出水と同規模の降雨に対し概ね30年間で被害の軽減を行うこととし下流部の輪中堤や宅地嵩上げ等を位置付けました。しかし、平成16年台風23号で大きな被害を生じたことから「由良川下流部緊急水防災対策」により河川整備計画を大幅に前倒しし、平成27年度までに輪中堤及び宅地嵩上げ等の整備を推進しました。河川整備計画の前倒しを行ったことから、昭和34年伊勢湾台風と同規模の降雨を目標とする新たな由良川水系河川整備計画(以下、「新河川整備計画」という)を平成25年6月に策定し、整備の進捗を図っています。

4.由良川下流部緊急水防災対策と由良川緊急治水対策

平成25年台風18号により浸水した由良川中流部

 「由良川下流部緊急水防災対策」は平成16年台風23号による下流部の洪水被害を踏まえた対策であり、河川整備計画に位置付けられた輪中堤約20km、宅地嵩上げ10地区の整備について大幅に前倒しを行い平成27年度に完了しました。整備が完成した地区においては平成29年台風21号出水では由良川の氾濫(以下、「外水」という)による浸水被害の発生を防ぎました。
 しかし、その整備中において平成25年台風18号で大きな被害が生じています。これは、堤防未整備もしくは整備中箇所での外水による被害であったことから、「由良川緊急治水対策」において外水による被害軽減対策を優先的に取り組んでいます。
 「由良川緊急治水対策」は、中流部の堤防整備約8kmや河道掘削、下流部の輪中堤整備約4kmや15地区の宅地嵩上げについて新河川整備計画を大幅に前倒しを行い集中的な整備を推進しています。
 これらの整備を短期間で進めるためには、関係自治体の協力が必要不可欠です。特に宅地嵩上げの整備に際しては、関係する福知山市、舞鶴市の協力のもと市条例にて災害危険区域を設定して頂き、地権者の協力を得ながら事業の進捗を図ることが出来ております。

5.床上浸水対策特別緊急事業

 平成26年8月豪雨では福知山市街地において浸水戸数4,500戸(床上浸水2,029戸、床下浸水2,471戸)という甚大な内水被害が生じました。この被害を受け、京都府、福知山市と連携し、再度災害の被害軽減対策を実施しています。
 国土交通省では、床上浸水対策特別緊急事業として既存の3つの排水機場の増強を実施しています。荒河排水機場では、3m3/秒の増強を平成28年度に完了しており、法川排水機場では15m3/秒の増強計画のうち3m3/秒を平成28年度に完了、残りの12m3/秒を平成30年度末を目標に整備中です。弘法川排水機場では9m3/秒の排水機場の整備を平成31年度末を目標に進めています。
 また、京都府においても排水機場の新設や河道拡幅等、福知山市においても貯留施設の整備等を実施しています。

輪中堤の工事が進む舞鶴市下東地区
弘法川排水機場の整備

6.平成30年7月豪雨を受けて

 平成30年7月5日から8日までの約3日間で流域平均累加雨量380.5mmの降雨があり、特に7日0時から7日1時までの間では福知山観測所で58mmの降雨が観測されるなど、由良川下流部の集中豪雨による内水により大きな被害が生じました。この被害を受けて、現在、由良川減災対策協議会に由良川大規模内水対策部会を設立し、被害軽減に向けて関係機関が連携し対策の検討を行っています。昨年9月に第1回、本年1月に第2回の由良川大規模内水対策部会を開催しており、今後もハード対策やソフト対策について話し合いを行っていくこととしています。

7.水害に強い由良川を目指して

 由良川流域では近年立て続けに大規模な災害に見舞われております。国土交通省では、平成27年12月「大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方」の答申で、「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」との考えに立ち、社会全体で洪水に備える「水防災意識社会再構築ビジョン」が策定されております。由良川流域においても、由良川減災対策協議会などを通じ関係機関が更に連携を強化し洪水被害防御のハード対策、地域と一体となったソフト対策の推進や、これまで整備した施設の的確な維持管理等により水害による被害の軽減を図っていきたいと考えています。


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