建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2019年3月号〉

【寄稿】

「千曲川」の治水に努めて100年
 地域の発展を支える川づくり

 国土交通省 北陸地方整備局
 千曲川河川事務所 所長
木村 勲


千曲川流域図 千曲川地形特性(河床縦断、川幅縦断)

1.はじめに

 千曲川河川事務所は、1918(大正7)年11月23日に起工した第1期改修以降、戦後は第2期改修に着手し、今日に至るまで、流域の「安全・安心の確保」に全力を尽くしてきました。また、河川環境の整備と保全を通じて、「詩情豊かな潤いのある川づくり」や「活力ある地域づくり」の実現にも取り組んでいます。
 2018(平成30)年11月、直轄改修100周年という節目の年を迎えたことから、先人の治水の努力を顧み、地域の防災意識をさらに高めるために「千曲川・犀川直轄改修事業100周年記念シンポジウム」を開催しました。
 本稿では、このシンポジウムを機に、千曲川流域の概要、千曲川の事業展開を紹介します。

二大狭窄部上流(戸狩、立ヶ花)の水位上昇

2.千曲川流域の概要

2-1.信濃川と千曲川

 千曲川は、山梨、埼玉、長野の三県にまたがる甲武信ヶ岳を源とし、長野県で佐久、上田、長野などの次々と連なる盆地を流れ、支川犀川などを合流して、治水の難所である立ヶ花、戸狩の二大狭窄部を流れ下ります。その後、新潟県に至り信濃川と名を改め、越後平野を流れて日本海に注ぐ、幹川流路延長367kmの国内1位の一級河川です。

2-2.河床勾配と川幅の大きな変化

 千曲川は、上流部の河床勾配は200分の1で、中流部の長野盆地で1000〜1500分の1と緩くなります。また、盆地の開けた河道と山あいの狭窄区間を交互に流れ下り、狭窄部の川幅は盆地の川幅の5分の1で、川幅の変化が大きくなっています。こうした河床勾配や川幅の変化が大きい地点では、洪水が流れにくく流速が低下して、土砂が堆積したり、水位が上昇します。
 特に二大狭窄部では、洪水流が阻害されて水位がせき上がり、堤防越水のリスクが高まります。また、高い水位が長時間継続することで、堤防の法崩れや漏水のリスク、合流する支川では内水氾濫のリスクも高まります。これにより、平成18年洪水では、一部区間で計画高水位を超過しました。

2-3.台風性と梅雨前線性の洪水

千曲川堤防強化対策プロジェクト(整備概要、世帯数の推移)

 千曲川の気象特性は、台風性と梅雨前線性に分けられます。台風性豪雨は湿った空気が東から流れ込むことが多いため、千曲川本川で洪水になりやすく、一方、梅雨前線性豪雨は西から流れ込むことが多いため、犀川で洪水になりやすい傾向があります。
 戦後の主要洪水には、前者は支川樽川及び千曲川で堤防決壊が発生した昭和57年9月洪水と昭和58年9月洪水があり、後者は犀川流域で利水ダム特例操作が行われた平成18年7月洪水があります。

3.千曲川の事業展開

3-1.低い堤防整備率

 千曲川では、直轄改修の着手以来、計画高水流量を超える洪水の度重なる発生により、流量改定を3回実施してきました。
 堤防整備には洪水流量を流す量的整備と、法崩れや漏水等の対策を行う質的整備があります。量的な堤防整備率は、現在、必要区間230kmに対して約6割に過ぎず、堤防の高さや幅が十分に確保されていません。また、質的な堤防整備についても十分ではなく、特に狭窄部上流では高い水位が継続すること、旧河道と堤防が交差する区間も各所でみられることから、堤体漏水や基盤漏水が頻発しています。

3-2.千曲川堤防強化対策プロジェクト

 平成26年1月には、今後30年間の整備目標である信濃川水系河川整備計画を策定しました。戦後最大洪水である昭和58年9月洪水と同規模の洪水が発生しても、浸水被害の防止等を図ることを目標としています。
 これまで立ヶ花狭窄部の無堤部や暫定堤防区間の整備を下流より順次進め、平成28年度までに長野市村山橋まで概成させました。
 現在は、「千曲川堤防強化対策プロジェクト」として、長野市屋島地区と須坂市福島地区で堤防整備を進めており、この他に上田市国分地区と、犀川の生坂村小立野地区でも堤防整備を進めています。こうした堤防整備のほか、基盤漏水の危険性が高い地区では、遮水矢板等の浸透対策を順次進めていきます。
 また、先般、平成30年7月の豪雨災害を踏まえ、千曲川においても樹木繁茂・土砂堆積等による洪水氾濫の危険箇所等の緊急点検を行いました。今後、流下阻害や局所洗掘等によって洪水氾濫の影響が大きい地区において、樹木伐採・河道掘削、堤防強化等の緊急対策を実施して参ります。

3-3.大町ダム等再編

 堤防整備は、水系全体の整備バランスを考慮しながら、基本的に下流のネック箇所から順次進めていきます。こうした堤防整備と相まって、上流を含めた流域全体の治水安全度を向上させるため、平成27年に既設ダムを活用した大町ダム等再編事業の実施計画調査に着手しました。
 これは、東京電力の高瀬ダム及び七倉ダムと、国の大町ダムのそれぞれ利水容量の一部を洪水調節容量に振り替えて、3ダム連携した洪水調節を行うものです。また、高瀬川上流域は土砂生産が著しく、新たに確保した洪水調節容量を維持するため、高瀬ダムの堆砂対策が必要となります。現在、事業計画等の各種検討を進めています。

3-4.砂礫河原の保全・再生

 かつての千曲川は砂礫河原が広がり、砂礫河原特有の動植物が多く生息する環境が育まれていました。
 近年、様々な要因により低水路が固定化し、高水敷と低水路の比高差が拡大して、高水敷や砂州の樹林化が進行してきました。特にアレチウリ、ハリエンジュ等の外来種が侵入・拡大しており、在来種の生息・生育・繁殖環境が悪化しています。
 そこで、千曲川らしい砂礫河原の保全・再生を目指して、自然再生事業を進めています。具体的には高水敷等を切り下げて冠水頻度を高め、洪水による撹乱の頻度や範囲を拡大させるものです。千曲川本来の姿である砂礫河原の再生を図り、多様性ある動植物の生息環境を保全する取り組みを進めています。

砂礫河原の保全・再生のビフォーアフター(千曲市)

4.おわりに

 地域の防災意識の高揚を図り、今後起こり得る災害に備えるため、平成29年度は「飯山激特事業竣工30周年記念シンポジウム」、平成30年度は「千曲川・犀川直轄改修事業100周年記念シンポジウム」を開催し、おかげさまで盛況のうちに終えることができました。
 これまでの千曲川改修の取り組みにご支援をいただきました関係各位に感謝の意を表するとともに、今後とも流域の皆様のご理解をいただきながら、さらなる防災・減災対策を強力に推進して参りたいと考えております。


HOME