建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年10月号〉

【寄稿】

沖永良部地下ダム(3工区)が完成

―― 河川直下の難工事に挑戦

 株式会社安藤ハザマ
 九州支店
生田 靖


(1)はじめに

止水壁施工状況(3工区)

 九州農政局発注による沖永良部農業水利事業地下ダム止水壁(3工区)建設工事は、延長L=275.4m、締切面積 11,549m2の止水壁を築造する工事です。
 沖永良部島は、奄美群島の中の一つで琉球石灰岩に覆われた隆起珊瑚礁の島です。多孔質な石灰岩であるため雨水が浸透しやすく、石灰岩が浸食されドリーネ(地面が浸食されてできたへこみ地形)や鍾乳洞の発達が著しく高くなっています。そのため、地表水はわずかしかなく、河川は二級河川の余多川、奥川、石橋川の3河川のみです。本工事は、ダム軸の一部に、この貴重な河川のうち余多川の直下に止水壁を施工する区間があり、河川の保全はもちろん、河川流域に生息している希少生物の保全にも留意する施工が求められました。

(2)地下ダム施工概要

 ここで簡単に地下ダムの施工方法について説明します。
 本工事は杭打機を使用した柱列式地下連続壁(SMW工法)により、止水壁を築造するものです。施工手順は以下のとおりです。

1)ケーシング削孔

先行削孔の施工精度の確保と深部の硬質地盤での負荷の低減を目的として、径 710mmのケーシングと径600mmの単軸オーガーの併用により20mまで削孔します。

2)先行削孔

 三軸削孔の施工精度確保と深部の硬質地盤での負荷の低減を目的として、ケーシングをガイドとして、径600mmの単軸オーガーで止水壁下端まで削孔液を吐出しながら削孔します。

3)三軸削孔

 径550mmの三軸オーガーを用いて削孔液を吐出しながら削孔し、オーガー引き上げ時に固化液を注入しながら止水壁を造成します。途中、2回のターニングをおこないます。
 沖永良部の地層は、固結部と未固結部が混在した砕屑性石灰岩が主であり、また、風化~新鮮礫を主体とする礫層も混在しています。止水壁の削孔造成工事としては、非常に難解な地層でありましたが、地層に合わせてビットの改良を重ねながら、無事完了することができました。

(3)余多川直下の止水壁施工時の留意点

1)余多川の保全

 河川直下の止水壁の施工に際し、まず河川の切替えをおこない、止水壁施工完了後に本川への復旧をおこないました。川幅は約8mと比較的小さいですが、河川区域内には、沖永良部特有のキハラヨシノボリ(環境省第4次RL絶滅危惧T種、鹿児島県版RDB絶滅危惧種U種)やオカヤドカリ(国指定天然記念物)が生息しており、希少生物の保全が重要でした。施工途中に別途おこなわれた保全業務に協力し、問題なく本川を復旧し希少生物を保全することができました。

2)河川直下の空洞

工事着手前
工事完了後

 石灰岩が浸食された影響により河川直下16m付近に約8m×4m、高さ約1mの空洞部(空洞充填物あり)が見つかりました。空洞により、止水壁注入材が逸走し、止水壁の造成ができない恐れがあります。そこで、この空洞部の大きさを調査し、注入材としてCB(セメントベントナイト)とLW(セメントグラウト)の比較検討をおこないCB工法に決定しました。事前に試験練りをおこない、決定した配合のCBを空洞部に充填したのち止水壁の造成をおこないました。強度試験の結果、要求品質を確保することができました。

(4)地域に密着した施工

 工事期間中は、地域とのコミュニケーションを図り、地域住民や営農者の理解・協力を得ながら円滑に進めることができました。地域の様々な行事(沖えらぶジョギング大会、知名町夏祭り、余多地区盆踊り大会、くり舟大会、区域毎の草刈り清掃作業)に積極的に参加し地域とのコミュニケーションの充実を図りました。

(5)おわりに

 沖永良部農業水利事業地下ダム止水壁(3工区)建設工事は、平成30年3月に無事竣工致しました。工事に際しご指導頂いた沖永良部農業水利事業所様や工事関係者の皆様および御協力頂いた地域の皆様にこの場をお借りして感謝の意を表します。


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