建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年10月号〉

【寄稿】

水どぅ宝(みじどぅたから)

―― 沖永良部地下ダムの建設で、若い農業者が夢と希望を持てる農業へ

 農林水産省 九州農政局
 沖永良部農業水利事業所 所長
馬場 範雪


 

地下ダム止水壁 施工状況(現在施工中の2-2工区)

(1)沖永良部島の農業と国営事業の概要

 沖永良部島は、鹿児島市の南南西約550kmに位置する奄美群島の1つです。島内では、亜熱帯海洋性の気候条件を活かして、基幹作物のさとうきびに加え、ばれいしょ、さといも等の野菜、スプレイぎく、ゆり等の花きに、肉用牛を組み合わせた営農が展開されています。ゆりの球根がエラブ・リリーとして海外輸出されて以来、花き生産が盛んになるとともに、国内で出荷が最も早いばれいしょ「春のささやき」のブランド化に成功するなど、さとうきび生産のみに依存しない農業が特徴であり、全国離島と比較してもトップクラスの農業生産額を誇っています。
 一方、島は空隙の多い琉球石灰岩に覆われており、地表面の保水力が乏しい地盤となっています。実際、河川は島内に3つしかなく、島内農業はため池や降雨等に依存しているため、十分な用水手当がなされておらず、長らく農業分野での課題とされてきました。また、台風の被害に加え、台風通過後の潮風害(塩害)が生じています。
 このため、国営沖永良部農業水利事業では、地下ダムを築造するとともに、揚水機場やパイプライン等の基幹施設を整備し、併せて、関連事業により末端かんがい施設の整備及び区画整理を実施することによって安定的な用水の確保を図り、農業生産性の向上と農業経営の安定に資することとしています。

(2)国営事業の進捗状況

越山ファームポンド 完成状況
余多揚水機場 完成状況

 本事業は、地下ダム関連とパイプライン関連の2つの工事に大別することができます。
 地下ダム工事については、施工延長約2.6kmの止水壁を12の工区に分割して進めており、平成29年度までに8つの工区が完了し、その施工済延長は約1.6km(全体の6割)となっています。地下ダム軸の上下流に設置した地下水位計にも差が生じ始め、遮水効果が確認されつつある状況であり、また、施工深度が最も深い区間(7工区)や河川横断を伴う区間(3工区)などの難所区間の施工も完了したところです。今後は、地下ダム軸の両翼を含む4つの止水壁工事を進め、平成32年度までに全ての止水壁工事を完了させる計画としています。
 また、パイプライン関連工事については、受益者に畑地かんがいの効果を早期に実感していただくために、地下ダム工事よりも先行して実施してきた経緯があり、昨年度までに9割以上(施工延長ベース)が施工済みとなっています。平成26年度には、パイプラインのほか、集水井、揚水機場及びファームポンドなど一連の主要施設が完成したことから、地下ダム貯留域の既存地下水を利用した一部通水を開始し、これ以降、畑地かんがいが可能なエリアを順次拡大させています。昨年の7月、沖永良部島では1.5mm/月の降雨しか観測されず、大干ばつに見舞われましたが、これまで実施してきた一部通水の取組が功を奏して、干ばつ対策として大きく貢献することができました。

(3)新たな地下水利用の挑戦

 沖永良部島では、古くから農業用水、洗濯、野菜洗いなど島民の生活に必要な水は、石灰岩の割れ目から湧き出る湧水や暗(クラ)川(ゴー)(地下水が流れる鍾乳洞を人為的に開削して広げた場所)に求め、これらの場所が人々の拠点となり、やがて集落形成に至ったとされ、地下水は島民生活や島の歴史を語る上で、はずせないものであり、島の貴重な資源として認識されています。
 このため、地下ダムによる新たな地下水利用の挑戦は、島内でも大きく注目されています。今後も、地下ダム工事を計画的かつ円滑に進めることはもちろんのこと、「水(みじ)どぅ宝(たから)(=水こそが島の宝の意)」をキャッチフレーズに畑地かんがいの効果を広くPRし、若い農業者が夢と希望を持って農業に向き合えるよう、国営事業所職員一同、尽力していきたいと考えています。


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