建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年10月号〉

【寄稿】

つなげよう山陰道

―― 石見地域の山陰道整備について

 国土交通省 中国地方整備局
 浜田河川国道事務所長
安野 聡


図-1 山陰道の整備状況(平成30年4月1日現在)

1.はじめに

写真-1 福光・浅利道路予定地

 島根県西部に位置する石見地域は、島根県の面積の約半分、人口の約3割を占めていますが、近年は人口減少や高齢化が顕著になってきています。「いわみ」の名にあるように石見地域の地形は、山が海まで迫り、平地が少なく、災害が起こりやすい地形、地質で、降水量も多く、幾度となく洪水などに見舞われています。その反面、美しい自然景観に恵まれ、古くから文人に親しまれ、万葉の歌人柿本人麻呂がその美しい情景を妻への想いとともに情熱的に歌い上げた地としても知られています。
 石見国は「石州」とも呼ばれ、平成26年11月にユネスコ無形文化遺産に登録された「石州半紙」や日本三大瓦の一つ「石州瓦」が有名です。また、石見地域を代表する伝統芸能の「石見神楽」は、日本神話などを題材に様々な演目が各地で行われており、石見地域の優れた観光資源となっています。
 浜田河川国道事務所は、この石見地域を管内として、一般国道9号の内、江津市黒松町から山口県境までの138.8kmと、国道191号の内、益田市中吉田町から山口県境までの15.4kmを管理しています。

2.山陰道の整備状況

1)概要

 浜田河川国道事務所管内の山陰道の整備状況は、益田以東は全区間(一部現道活用区間含む)で既に事業を推進又は供用し、益田以西については、新規事業化に向けた調査を実施しています。

2)山陰道(三隅・益田道路)

 浜田市三隅町から益田市遠田町の間で整備を行う三隅・益田道路は、国道9号の代替機能の確保と広域医療の連携強化、地域経済の活性化を目的とした延長15.2kmの自動車専用道路です。 平成24年度に新規事業化され、平成26年度に用地買収に着手し、平成27年11月に工事着手しました。現在、埋蔵文化財調査、用地買収等を行うとともに、道路改良、橋梁、トンネル等の工事を推進しています。

3)山陰道(福光・浅利道路)

 大田市温泉津町から江津市松川町の間で整備を行う福光・浅利道路は、国道9号の代替機能の確保と広域医療の連携強化、地域経済の活性化を目的とした延長6.5kmの自動車専用道路です。
 平成28年度に新規事業化され、平成30年度は用地買収、測量、道路詳細設計を行うこととしています。この道路の中間地点にある青波IC(仮称)には道の駅「サンピコごうつ」が隣接し、地域観光などへの「ゲートウェイ(入口)」としての役割を担うことが期待されています。また、終点の浅利IC(仮称)には江津地域拠点工業団地(以下、江津工業団地と称す)が隣接しており、今後の山陰道の整備に対する期待から、江津工業団地への進出企業が増加しています。こうしたことから島根県では江津工業団地の追加造成に平成29年度より着手しており、更なる地域活性化に貢献する道路として期待されています。

図-2 江津工業団地の起業数の推移 図-3 死傷事故件数の推移

3.山陰道の整備効果(浜田・三隅道路)

 山陰道のうち、浜田・三隅道路は、全長14.5kmの自動車専用道路です。
 平成28年12月に原井ICから石見三隅ICの全線が開通となりました。開通後の道路利用状況の調査を行ったところ、交通事故による死傷事故の減少など様々な整備効果が表れています。開通前、国道9号の当該区間で24件だった死傷事故が、開通後は山陰道・国道9号を合わせて11件に減っています。そのうち、山陰道浜田・三隅道路での件数は1件となっており、自動車専用道路ということや道路の線形が良くなったなどの理由が考えられ、山陰道の整備により安全・安心の効果が高まりました。

4.道の駅「ゆうひパーク浜田」

写真-2 ゆうひパーク浜田
写真-3 ゆうひパーク浜田から見る夕日
 ゆうひパーク浜田は、島根県内で唯一、山陰道に直結する道の駅として、夕日と日本海が眺望できる絶好のロケーションを活かし地域交流の拠点となっています。
 近年の道の駅は、休憩・情報発信・地域連携といった機能に加え、災害時の被災者支援、広域応援拠点としての防災機能や観光情報の提供など地域観光のゲートウェイ機能を有し、今では地域活性化の拠点として欠かすことのできない役割を果たしています。浜田河川国道事務所管内には12箇所の道の駅があり、直轄管理を行っている道の駅は4箇所あります。国土交通省では、全国の道の駅の内、地域活性化の拠点となる優れた企画があり、重点支援で効果的な取組が期待できる道の駅を「重点道の駅」として定め、平成27年度までに73箇所が選定され、浜田河川国道事務所管内の「ゆうひパーク浜田」も「重点道の駅」として選定されました。ここ数年は浜田港へのクルーズ船の寄港が増加しており、情報コーナーの外国語表記等のインバウンド対応も積極的に進め、石見地域の魅力を内外に発信しています。

5.石見地域の広域周遊観光の課題

 地域活性化に大きく寄与するインバウンド施策が全国各地で取り組まれるなか、中国地方では、外国人の宿泊数は、全国のわずか2%と低迷しています。中国5県のうち、広島県は、平和都市として国際的な知名度を有し、鳥取県や島根県東部では、主要空港・港湾にチャーター便やクルーズ船の寄港、また、国際的に知名度の高い庭園や仏閣などにより、外国人観光客が増加傾向にあります。一方、この観光増加が石見地域に波及していないのが現状です。石見地域には、美しい自然景観や伝統・文化などの魅力的な地域(観光)資源が多く存在します。新たな視点や価値観による地域資源を「再発見」し、点在する資源の「磨き上げ・連携」により地域の価値を高め、魅力を向上させていく。そして、それらをただ周遊コースにするのではなく、テーマやストーリー立った「パッケージ化」を行うことが観光客の満足度を向上させていくものと考えています。こうした取組を「オール石見」で実施することで、山陰道の価値・効用が更に向上することを期待し、浜田河川国道事務所もオール石見の一員として関係機関と協働で石見地域の魅力のPRに積極的に取り組んでいます。

6.おわりに

 道路の価値・効用を高めるためにも、「地域の活性化」と「道づくり」は切り離すことはできません。一方、地域の人たちが地域を磨いてその価値を高める取組への参画は「道そだて」に通じると思います。浜田河川国道事務所は、道路整備・防災対策、道の駅との関わりなどを契機として、沿線地域と連動した地域活性化への働きかけをしていきます。

図-4 石見地域の観光資源のイメージ


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