建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年9月号〉

【寄稿】

山陰道(出雲〜仁摩間)の整備について

 国土交通省 中国地方整備局
 松江国道事務所事務所長
鈴木 祥弘



1.はじめに

 中国地方整備局松江国道事務所は、山陰地方を東西に結ぶ一般国道9号のうち、鳥取県境の安来市から大田市域までの約149km、山陰と山陽を結ぶ一般国道54号のうち、広島県境の飯南町から松江市域までの約65kmを管理しています。
 東西に約230kmと細長い島根県において、東西を結ぶ幹線道路は、一般国道9号のみであり、ひとたび災害や事故が発生すれば、大きな迂回を強いられ、貨物輸送の約99%を自動車に依存する地域の社会経済活動に大きな支障を来たします。また、山陽側が災害等により道路交通が途絶えた場合の東西交通機能を確保するための代替交通としての役割も担っています。このため高速道路ネットワーク整備に対する地域のニーズは非常に高く、山陰道の早期完成を目指し重点的に整備を行っています。
 松江国道事務所では、品質の高い道路や社会基盤の整備を通じて、山陰地域の活性化と交流人口の拡大を実現するとともに適切な維持管理、迅速な災害対応により、山陰地域を安全で、誰もが安心して暮らせる地域づくりを進めています。

2.山陰道の整備

1)概要

 山陰道は、鳥取県鳥取市を起点とし、山口県下関市を終点とする、延長約380kmの道路で、地域間の交流・連携の強化及び推進、山陰地方の産業・経済の発展や観光振興を目的として整備を進められています。また、災害に強い国づくりを推進し、更に活力ある地域社会を形成するために、地域の自立的発展を支援する視点からも重要な路線です。
 島根県内では、平成30年3月末現在で104kmが開通しており、全体の約59%が開通したことになります。本事務所では事業中区間の約31kmの整備を推進するとともに、開通済み区間の約30kmの維持管理を行っています。(図-1)

図-1 島根県内における山陰道の整備状況(平成30年3月末現在)
2)山陰道整備で期待される効果

<主要都市間の移動の短縮>
 島根県は、東西に約230kmと長く山陰道の整備により主要都市間である松江市と益田市間の移動にかかる時間が約4割(90分)短縮され、相互の地域間交流の活発化、人物・物流・産業の活性化、地域経済の活性化が期待されます。(図-2)

図-2 主要都市間の時間短縮

<広域周遊観光の向上>
 島根県東部には縁結びで有名な「出雲大社」、国宝「松江城」、海外の著名なガイドブックで三つ星の評価をされている「足立美術館」等の山陰地方を代表する観光地があり、休日には多くの観光客で賑わいを見 せています。また、県西部にも世界遺産「石見銀山遺産とその文化的景観」や白イルカのバブルリングで人気の「島根県立しまね海洋館アクアス」が立地しています(図-3)。

図-3 島根県内の主な観光地

図-4 観光入込客数の伸び率

 両地域の観光入込客数の推移をみると、県東部では山陰と山陽を結ぶ中国横断自動車道尾道松江線(愛称:中国やまなみ街道)が全線開通したこともあり、大幅に増加をしているのに対し、県西部はほぼ横ばいに留まっており、東西で格差が生じています(図-4)。 山陰道の開通は、東西地域の時間短縮はもとより、地図上において、高速道路で地域が繋がっているという目に見える分かりやすさが、観光客の旅程プラン作成にも影響を与え、県内東西の広域な周遊を促進すると期待されます。
<通行止めによる迂回の解消>
 東西に長い島根県を繋ぐ幹線道路は国道9号以外の並行路線はありません。山陰道の未整備区間の国道9号において、交通事故等を原因とした全面通行止めは、年平均7回発生しており、その度に大幅な迂回を強いられ、住民の生活や物流活動に大きな支障を来たしています(図-5)。山陰道の整備により、幹線道路の代替路線が2本確保されることとなり、大幅な迂回が解消されると期待されます。
 その他にも、救命・救急活動など多様な効果が期待されます。

図-5 国道9号出雲市〜大田市仁摩町間の全面通行止め実績と迂回状況

<企業進出の促進>
 高速ネットワークの開通済み区間では着実に企業進出が進んでいますが、未開通区間では、企業進出が伸び悩んでいる状況にあります。山陰道の開通により新たな企業進出が期待されます。(図-6)

図-6 島根県の企業進出状況

3)朝山・大田道路の開通

図-7 開通した山陰道 朝山・大田道路

 平成30年3月18日に、朝山・大田道路(延長6.3km)が開通しました(図-7)。
 本道路は都市計画上は山陰道の出雲仁摩線(延長37.1km)の一部区間で、先駆けて開通しましたが、並行する国道9号には仙山峠と呼ばれる急勾配、急カーブの連続する事故多発箇所の回避とともに、県西部への広域周遊の促進等の第1歩となります。なお、平成30年度内には、多伎・朝山道路の開通を予定しており、更なる道路整備効果の発現が期待されます。
 また、大田朝山インターチェンジには、ラウンドアバウトを導入しました。交差点部の計画交通量が比較的少ないこともあり、一般的な無信号の平面交差点よりも安全で円滑な利用環境を目指し、計画・整備したものです。
 導入効果として、@交差点内の衝突リスクの低下、A速度抑制による渋滞事故の減少を期待しています。
 今後とも、継続したモニタリングと評価、改善点の有無等を検討していきます。

4)i-Constructionの推進

 国土交通省では、ICT(情報通信技術)の全面的な活用」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組であるi-Construction(アイ・コンストラクション)を進めています。
 本事務所では、山陰道を平成27年度からICT土工活用工事のフィールドとして重点的に推進し、ICT土工実施件数・実施率が中国地方整備局内で最も高く、平成29年度i-Construction大賞の国土交通大臣賞を受賞しています。
図-8 マシンコントロールブルトーザーを用いた敷きならし状況

 ICT活用工事の実施体制は、島根県の地元企業の施工者(工事施工業者)、3次元測量(測量コンサルタント)、建設機械リース(リース会社)が連携・協力を行い、地元企業のICT技術活用の普及とICT技術向上を推進しています。また、技術者育成も積極的に取り組み、ICT活用による工事現場の魅力アップに貢献しています。担い手不足が懸念されている建設業が、生産性の高い、魅力ある仕事となるよう、山陰道の整備を中心に、舗装工事についても、引続きi-Constructionを推進していきます。(図-8)

3.おわりに

 松江国道事務所では、広域的な経済活動や地域間交流・連携の拡大に向けた役割が大きく期待されている高速道路ネットワークの早期整備に努めるとともに、計画的な道路の維持管理に努め、今後も地域の方々が安全・安心して生活できる地域づくり、道づくりに取り組んでいきます。


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