建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年8月号〉

【寄稿】

八ッ場ダム建設事業の現状と進捗

 国土交通省 関東地方整備局
 八ッ場ダム工事事務所 所長
朝田 将



ダム本体工事右岸より(H30.6)

1.はじめに

 首都圏の安全・安心の向上に大きな役割を担う八ッ場(やんば)ダムは、利根川の支川吾妻川(流域面積約1,356km2)が流れる長野原町、東吾妻町において事業中の多目的ダムであり、洪水調節、流水の正常な機能の維持、水道及び工業用水の供給並びに発電を目的としています。その規模は、堤高116m、堤頂長290.8m、堤体積:約100万m3であり、平成31年度の完成を目指し、ダム本体及び、生活再建工事を鋭意進めています。
 カスリーン台風(昭和22年)により首都圏が大きな浸水被害を受けた後の昭和二七年に予備調査に着手して以来、今年で67年目という長い期間を経て、関係する皆様のご理解とご協力をいただきながら事業を進めているところです。

ダム本体工事下流より(H30.6)

2.事業の状況と予定

1)生活再建対策
 地域の皆さまに多大なご苦労をおかけしてきた経緯も踏まえ、大きな柱として生活再建に取り組んでいます。交通基盤については、昨年度までに基幹施設となるJR吾妻線及び国道145号、県道について全線で供用を開始し、現在は地区間を結ぶ町道等の整備を進めています。また水没等関係住民の皆さまの生活基盤となる移転代替地地区では新しい生活が始まっています。引き続き地域振興に係る公共施設用地の造成などを進めるとともに、今後は、これまで整備してきたインフラを活かし、後述の観光振興と合わせ、ダム完成後の“まちづくり"の具体化に向け、地域の方々、長野原・東吾妻の両町、群馬県等と一体となって取り組んでまいります。
2)ダム本体工事
 本体工事については、平成26年8月に清水・鉄建・IHI異工種建設工事共同企業体と本体建設工事の契約を締結し、翌27年1月から基礎掘削工に着手。28年6月から本体打設を開始し、今年7月現在で打設高が7割から8割です。
 打設には冬期を除いて巡航RCD工法を採用するなど、一日も早い完成を目指しています。この工法は従来のRCD工法と比較し、外部コンクリートと内部コンクリートの打設時間を干渉させることなく独立させることでコンクリート施工日数の短縮に寄与でき、全国で5事例目の適用となります。なお、6月上旬から打設面の縮小に伴い、拡張レヤ工法に変わりました。
 又、i-Construcionとして、ドローン技術の活用による岩盤スケッチの情報化や、GNSSを利用したコンクリートの締め固め管理システム、ダム本体3Dモデルの構築によるCIMの展開なども取り組んでいます。
 引き続き、より長く利用するための品質管理、そして何より厳しい現場で働く方々の安全対策にも気を配りながら、発注者・受注者一体となって緊張感を持って取り組んでまいります。

ダム本体3Dモデル

3.今後に向けて

やんばツアーズ

 昨年4月に日本一のインフラツーリズムを目指して開始した“やんばツアーズ”取り組みを強化した結果昨年度のツアー参加人数は、対前年度約10倍の2.9万人となり、おおむね目標を達成しました。自由に見学できる展望台としてダムサイト付近に設置した“やんば見(み)放(ほう)台(だい)”には、一昨年9月の開設以降33.8万人の方々(平成29年度は16万人)にご利用いただきました。(H30.6現在)
 八ッ場ダムへの理解を深めていただくとともに、地元の川原湯温泉や名勝吾妻峡のほか、周辺の草津温泉、浅間山、軽井沢などの観光資源と合わせて人を呼び込むことで地域活性化を支えてまいります。すでに地域では、地域振興、産業振興に向けた地元住民による能動的な取組み、地区を越えた連携として地元商店、旅館等におけるダムカード提示による割引サービスも開始しました。さらに、3月には地元住民主催のツアーが行われ二回で約120人の地元の住民の方に参加いただきました。6月には、有料で水没予定地の見学を行い約70人の地元の住民の方に参加いただきました。今後、官主導から地元主導のツアーへの移行に取り組み、地域の賑わいに繋げていきたいと考えています。
 事業者である国として、地域の主体的な取組みが実り、自信を持って続けていけるよう、事務所一丸となって支えてまいります。
 皆さまもぜひ、現地にお越しください。「いまだけ・ここだけ・あなただけ」の現場でお待ちしております。


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