建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年5月号〉

【寄稿】

仙台塩釜港の東日本大震災からの復旧・復興

 宮城県 仙台塩釜港湾事務所
 所長 及川 和成

仙台港区
塩釜港区
松島港区

はじめに

 私たち宮城県仙台塩釜港湾事務所では、東北唯一の国際拠点港湾である仙台塩釜港の4つある港区のうち、仙台・塩釜・松島の3つの港区を所管しています。  東北の国際物流の拠点である仙台港区、奈良時代より港としての歴史があり現在は地域産業支援港湾としての役割を担う塩釜港区、日本三景松島として全国的に有名な観光地である松島港区と、それぞれが物流・歴史・文化等で特色のある港です。  さる平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0という我が国の観測史上最大規模の地震が発生し、仙台沿岸では10mを超える津波が発生する等、沿岸地域に壊滅的な被害をもたらしました。

震災被害及び対応状況等

 今回の東日本大震災では、仙台塩釜港においても地震及び津波等により防波堤、航路、岸壁、臨港道路等といった主要な港湾施設が被災したほか、港湾背後に立地する企業にも甚大な被害が発生しました。このため、エネルギーの供給や自動車、コンテナ、パルプ、飼料等の物流機能が停滞し、産業・物流活動等が大きな影響を受けました。  当事務所が管理する港湾施設についても、地震に伴う地殻変動により約50〜100cm沈下したほか、ふ頭においてはエプロン直下に50cm〜80cmの空洞が発生し、舗装版の損傷やふ頭用地との段差、上部コンクリートや車止めの損傷、SOLASフェンス、照明灯等の損壊が見られました。  この他、津波で打ち上げられた漂流物が臨港道路上に堆積し、車両が通行できなくなったほか、コンテナターミナルでは、コンテナを積み卸しするガントリークレーン全てが損傷し使用不能の状態になる等、港湾機能が停止しました。  これらの状況に対応するため、国土交通省や県の建設業団体との防災協定に基づき、震災発生から3日後の3月14日から応急工事に着手し、自衛隊や海上保安庁等の支援を受けながら、港内の緊急輸送道路や航路及び泊地の啓開作業等、緊急物資輸送の早期確保に努めました。特に、油供給不足の早期回復を図るため、塩釜港区の航路及び泊地の浮遊物や転落物等の除去作業、仮舗装等ふ頭内の応急工事を優先的に実施しました。その結果、水深や背後ヤードの亀裂等で多少制限はあるものの、震災後1ヶ月で約8割の岸壁において再開することができました。

岸壁蛇行、エプロン沈下、陥没 ガントリークレーン脚部損傷

災害復旧・復興の基本的な考え方(新たな津波対策)

 当事務所では、港湾施設のほかに海岸保全施設や公園、緑地等の整備及び維持管理をしていますが、本県における海岸保全施設(防潮堤)の津波対策については、これまで昭和三陸津波やチリ地震津波といった津波を対象に整備を進めてきました。  しかしながら、今次の津波被害が甚大であったことを受けて、国の中央防災会議専門調査会での中間取りまとめ結果等を踏まえ、最大クラスの大地震や大津波等あらゆる大規模災害の発生の可能性をも考慮した防災体制が必要との考えから、これからの津波対策の構築に当たっては、「比較的頻度の高い津波」(数十年から百数十年に一度程度発生する津波:レベル1津波)と、「最大クラスの津波」(発生頻度は極めて低いが発生した場合には甚大な被害を及ぼす津波:レベル2津波)の2段階に区分して取り扱うことになりました。具体的には、レベル1津波に対しては、防潮堤で防護する、レベル2津波に対しては、人命を必ず守るために、逃げることを原則に、可能な限りの減災を図るという方針のもとに進めることになりました。

一本松地区胸壁外災害復旧工事(塩釜港区) 津波漂流物対策施設設置工事(仙台港区)

公共土木施設の復旧・復興の状況

 当事務所における公共土木施設の被災状況は、3つある港区の港湾施設、海岸保全施設、公園・緑地等の公共土木施設185箇所(事業費ベース約432億円)において甚大な被害が発生しました。災害復旧事業の進捗状況は、平成30年3月末現在で着手済みが182箇所(着手率98%)、うち完了済みが140箇所(76%)となっています。  一方、海岸保全施設については、前記災害復旧事業と併せて復興事業により新規防潮堤の整備を進めているほか、仙台港区では津波発生時に陸上に打ち上げられた漂流物が背後地へ流出するのを防止するため、漂流物を捕捉する「津波漂流物対策施設」の整備を港周辺の臨港道路上で進めています。

コンテナターミナルの復旧及び拡張工事

 仙台港区にある高砂コンテナターミナルは、平成2年にコンテナ定期航路が開設され、以降北米西岸航路、中国・韓国航路、ロシア極東航路といった外貿コンテナ航路のほか、京浜港との国際フィーダー航路等、東北地方を代表する国際物流拠点として重要な役割を果たしてきました。  東日本大震災では、岸壁や荷役機械のほか、コンテナヤード内に蔵置していたコンテナが津波により散乱し、航路や泊地に流出するといった大きな被害が発生しました。復旧については、ターミナル内の1号ふ頭が平成23年6月に供用を再開し、ガントリークレーン4基は平成24年5月に全機復旧したほか、2号ふ頭も平成25年3月に供用を再開し、リーファー電源や夜間照明といった施設も全て平成27年3月までに復旧する等、ほぼ震災前の水準まで回復しています。  コンテナ貨物取扱量については、平成23年は東日本大震災の影響等もあり一時落ち込みましたが、翌年からV字回復を示し、平成29年の取扱量は258千TEU(過去最高)を記録する等、着実に伸びています。一方で、取扱貨物量の増加に伴い、コンテナヤードの狭隘化といった問題も顕著となっており、これらの状況に対応するため、現在進めているコンテナターミナル拡張事業について、施設の早期完成及び供用を図る必要があります。

コンテナ貨物取扱量の推移 高砂コンテナターミナル拡張計画

終わりに

 東日本大震災からはや7年が経過し、被災した施設の復旧・復興は、まだ道半ばではありますが、ようやく目に見える形で進んできました。 宮城県では、東日本大震災からの復興に向け、今後10年間(平成23年度〜平成32年度)の復興の道筋を示す「宮城県震災復興計画」を策定しています。計画期間10年間のうち、平成30年度から平成32年度までの3箇年間は「発展期」に位置付けられており、復旧・復興の総仕上げ及び宮城、東北の更なる発展に向けて、これからも職員一丸となって取り組んでいく所存です。


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