建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2018年5月号〉

【寄稿】

信濃川の治水安全度を高めるために

 国土交通省 北陸地方整備局
 信濃川河川事務所 所長 田部 成幸

1.はじめに

 信濃川は、その源を甲武信ヶ岳(標高2,475m)に発し、長野県の長野市を経由し新潟県新潟市で日本海に注ぐ日本一の幹線流路延長367kmを持ち、かつ流域面積が11,900km2と広大で北アルプスを始めとする豪雪域を抱えていることから、年間を通じて水量が豊富です。
 当信濃川河川事務所は、そのうち新潟県内の中流域と呼ばれている、大河津分水路河口から長野県境に近い十日町市にある宮中取水ダムまでの85.6km、支川魚野川27.9km他を含めて総延長114.7kmを直轄管理しています。
 その氾濫域には、本州日本海唯一の政令指定都市である新潟市をはじめ、長岡市等の地方中心都市を有しており、平成26年1月に策定された信濃川水系河川整備計画では、大河津分水路の改修を優先的に実施する他、同水系全体として洪水処理能力を向上させるため上流の千曲川(長野県)と連携し段階的かつ着実となるよう築堤、河道掘削等を実施することとしています。

2.優先して実施すべき大河津分水路の抜本改修

 大河津分水路は信濃川の洪水から越後平野を守るため、1922(大正11)年に通水した延長約10kmの放水路です。しかし、河口部は洪水を安全に流下させるための断面が不足しており、直近でも、2011(平成23)年7月の洪水にて、分水路直上流で計画高水位を超過し、危険な状態となりました。また、分水路建設後80 年以上が経過し、施設の老朽化等が生じています。そのため、大河津分水路を含む信濃川(下流部)の治水安全度向上を図り、さらには上流に位置する信濃川(中流部)や千曲川をはじめ、信濃川水系全体の洪水処理能力を向上させるため、大河津分水路の改修に着手することになりました。大河津分水路の改修にあたっては、課題となっている流下能力向上や河床の安定、老朽化施設の対策として、河口山地部掘削、低水路拡幅、第二床固の改築を実施する計画とし、全体事業費約1200億円、事業期間は2015(平成27)年から2032(平成44)年までの18年間を予定しています。

3.これまでの取組み

7.4k 断面図


 平成27年度より用地取得に向けた調査・協議、また事業実施に必要な調査・設計・施工計画の検討を開始しました。平成28年度からは用地取得を開始し、河口山地部掘削の準備工事としての工事用道路を設置する工事に着手しました。平成29年度においては、用地取得,工事用道路の設置を継続実施するとともに、河口山地部掘削への着手をしたところです。また河口部に位置し、本事業により架替が必要となった国道402号野積橋についても管理者である新潟県と協働し、右岸の橋台工事にも着手しました。事業着手3年目の今、平成30年3月17日には「起工式」も行ったところです。
 なお、工事用道路を設置する工事においては、ICT土工を導入することによって建設生産システム全体の生産性向上を図り、安全で魅力ある建設現場を目指すi-Construction を積極的に推進しているところです。さらには、CIM(Construction Information Modeling)を活用・導入しています。本事業は、多くの利害関係者と協議・調整を図りつつ、厳しい現場条件のもとで複数の構造物を並行して築造等を進める必要があり、そのため、事業の初期段階から各工事の特徴を捉え、想定される課題を解決しながら円滑な事業進捗を図ることが求められるためです。平成28年度には、山地部掘削の検討、第二床固改築の詳細設計、野積橋架替の詳細設計の3 件の業務において、CIMを導入しました。

ICT土工による工事用道路整備


 なお、これらの工事で発生する約1,000万m3の土砂は、同分水路堤防の質的改良の他、周辺の圃場の盤上げや周辺自治体の計画する造成工事等に利活用することで進めています。

4.今後の予定

 平成30年度以降、第二床固の改築や河口山地部掘削の本格化など、本事業の核となる施工段階に入っていきます。これらは施工期間が長期にわたることや、関連する事業等との連携が重要かつ不可欠であること、なにより厳しい現場条件や施工時の制約条件など、困難かつ重要な課題等が多く存在します。そのなか、これまでと同様、今後も、関係機関との円滑な連携・調整、地域の皆様のご理解・ご協力、さらには支援頂いている団体等との協働のもと、着実に事業の進捗を図っていく必要があります。

5.おわりに

 本事業は、戦後最大規模(昭和56年8月)洪水に対し、災害の発生の防止又は軽減を図ることを目標としています。その早期実現のためにも、引き続き職員の総力を挙げ、洪水氾濫等による災害から貴重な生命、財産を守り、地域住民が安心して暮らせるよう、取り組んで参ります。


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