建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2017年11月号〉

我が国最大規模の鶴田ダム再開発事業

―― 新工法で特許

 国土交通省 九州地方整備局
 川内川河川事務所 技術副所長
橋口 幸生




写真1:平成26年9月全景


 私たち川内川河川事務所は、九州で一番の堤高となる鶴田ダム(昭和41年完成)において、鶴田ダム再開発事業を進めています。この事業は、平成18年7月の記録的豪雨により川内川流域がこれまでにない大きな洪水被害を受けたことを契機に始まったもので、鶴田ダムの洪水調節容量(ダムに貯める水の量)を増量して治水機能を強化し、水害に対する安全度を高めるものです。この事業により夏場の洪水調節容量を最大7,500万m3から最大9,800万m3に増量するもので、国内最大規模のダム再開発工事となります。

既設ダム堤体に5本の穴をあける

 洪水調節容量を増やすために、ダムの最低水位を従来よりも14.4m低下させます。これに伴い、既設の放流施設よりも低い標高の右岸側に3本の放流管を増設します。また、2本の発電用取水管の付け替えも同時に行います。3本の放流管の増設と2本の発電用取水管の付け替え工事では、既設のダム堤体に穴をあけ、そこに管を設置したのちに管周囲にコンクリートを充填します。ダムにあける穴は6m×6mの矩形形状でダム下流面から掘進し、ダム上流面まで約60mの延長となります。
 ダムの穴開けが上流面に到達するのに先立ち、上流面の貫通予定位置に鋼製の仮締切を設けます。貫通予定位置はダム湖水深65mにおよぶ大水深となります。鶴田ダムでは、‘浮体式仮締切’という新工法を開発し、安全かつ確実に仮締切を設置しました。

‘浮体式仮締切’新工法の採用

写真2:浮体式仮締切の湖上組立
写真3:浮体式仮締切設置状況

 ‘浮体式仮締切’工法では、仮締切の扉体内部に気密室を設け、浮体化(気密室内部が空洞のため水に浮く状態)させてダム湖上で組立を行い、これをダム上流面の据え付け位置まで湖上運搬します。そののちに気密室に注水することによりこれを水中に沈め、ダム上流面に貼り付ける形で設置します。この工法は、国土交通省九州地方整備局、一般財団法人ダム技術センター、鹿島建設株式会社、および日立造船株式会社の4者が新工法として特許を取得しました。
 これまでの同種工事における仮締切工法では、台座コンクリート方式が用いられていました。これは仮締切扉体下部に台座コンクリートを設け、仮締切を固定支持する工法です。台座コンクリートや仮締切の施工は水中作業が主となっていました。
 これに対して、‘浮体式仮締切’工法は台座コンクリートを不要とした工法です。仮締切の組み立ても湖上作業となることで水中作業を極力少なくすることができます(写真2)。従来の仮締切設置工法ではダム湖湖底という大水深での水中作業となり、安全性や作業性の確保が大きな課題とされてきましたが、本工法によりこの課題が大幅に解消されます(写真3)。

事業完成間近

 地元関係各位のご協力や事業に対するご理解により、平成28年4月からは予定通り鶴田ダムの洪水調節機能が向上しています。平成28年は鶴田ダムの管理開始50周年ということもあり、同年10月2日に再開発事業による治水効果発現を記念する式典を開催しました。
 平成29年10月現在、既設ダム堤体直下流部の減勢工を改造する工事を実施しています。これは鶴田ダム堤体の安定性向上を目的としたもので、いよいよ再開発事業は完成間近となってきました。(写真4)。

写真4:平成29年9月全景



HOME