〈建設グラフ2017年10月号〉

国道274号日勝峠災害復旧の取り組み

―― 早期の通行止め解除を目指して

北海道開発局室蘭開発建設部
日高道路事務所所長
髙田敦

昭和36年9月生（56歳）

昭和61年4月北海道開発局入局

平成24年4月函館開発建設部工務課長

平成25年4月札幌開発建設部札幌道路事務所副所長

平成27年4月函館開発建設部江差道路事務所長

平成29年4月より現職

図-１日勝峠降雨量

1.はじめに

昨年8月、北海道を襲った台風に伴う豪雨により、道央圏と道東圏を結ぶ主要幹線道路である国道274号日勝峠全線が甚大な被害を受け、現在も日高町千栄～清水町清水L=36.1km区間の通行止めが続いている状況である。
被災直後から、様々な手段（徒歩・自転車移動、ゴムボートによる渡河、ヘリコプター移動）・技術（レーザープロファイラ測量、ドローン撮影、デジタル画像処理等のICT活用）を駆使した被災状況把握の期間短縮に取り組み、復旧に向けた現地調査、設計検討、関係機関協議などを早急に進めた。また、被災現場においては、大量の流出土砂・流出木の除去、工事用進入路の確保を同時に進めた。その後、本格的な復旧工事を行うなど、早期復旧に向けた様々な取り組みの結果、平成29年10月末までに全線通行止め解除が出来る見通しとなった。
ここでは、日勝峠の被災状況、および早期復旧を目指し進めた復旧工事概要、復旧工事の進め方について紹介する。

図-２日勝峠被災箇所

2.日勝峠の被災状況

（1）気象状況

1週間に3個の台風が北海道に上陸した後、日勝峠周辺では8/29からの前線に伴う降雨が続く中、台風10号接近に伴い8/30～8/31にかけ局地的に激しい降雨があり、日勝峠の観測史上最大となる連続降雨量488mmを記録した。特に、31日未明には55mm/時間の猛烈な降雨により日勝峠の多くの箇所が被災した。（図-1）

（2）被災状況

写真-1 日高町側橋梁崩落

写真-2 日高町側覆道損傷

被災区間が長く、被災規模も甚大かつ多数あったこと、また、車両進入が出来ないことから、自転車を担ぐ、ゴムボートで渡河する等、徒歩中心の進入のみ可能であったこと、およびヒグマの危険から野営を避けたこと、更に、ヘリコプターによる現地移動によらざるを得ない等、現地調査は困難を極めた。
しかし、ドローンによる被災箇所の撮影をはじめ、ICTを活用したことで現地状況把握の時間短縮を図った。
この様な人海戦術や最新の技術を活用しながら、台風被災から約1ヶ月後の9月末までに全線の被災状況の把握を完了した。
この結果、日勝峠を跨ぐ約40km区間の被災箇所数は、小規模なものを含め66箇所（日高側31箇所、清水側35箇所）、そのうち橋梁損傷が10橋（日高側9橋、うち落橋が3橋）、覆道損傷が3箇所（日高側3箇所）、両側車線が欠落する大規道路本体欠損箇所等が6箇所（日高側4箇所）であった。（図-2）
被災状況の特徴は、峠部は「沢部からの土石流・表面水」による斜面・盛土崩壊、排水施設の閉塞・破損、麓部は「増水した河川氾濫」による橋梁・擁壁等の構造物損傷、盛土流出であった。（写真-1）（写真-2）

3.災害復旧状況

写真-3 冬期擁壁施工

（1）車両進入路の確保

昨年8月の被災直後から、災害復旧に向け流出土砂・流出木除去による工事車両進入路の啓開作業、道路本体流出・落橋箇所の復旧作業用道路を確保、2次災害防止として仮設物設置等の応急措置を行い、日高町側6合目の大規模欠損箇所の応急復旧に約1ヶ月を要したが、冬期前の11月下旬には峠部覆道損傷箇所の啓開も完了し全線で車両進入路を確保した。

（2）復旧工事

災害復旧工事を早急に進めるため、工事車両進入路を活用し降雪・積雪が多い地域の厳冬期間においても落橋箇所への2車線確保した仮橋設置、擁壁復旧など構造物工事を中心に行い融雪後から本格的な復旧工事の全面展開を図った。（写真-3）
特に、麓部の千呂露橋は、落橋により被災直後から住民の方々が林道等を経由した大きな迂回を強いられていたこと、及び被災状況調査や車両進入路確保のため、安全確認した上で被災した千呂露橋の一部を利用し緊急的に仮橋を設置した。落橋から約2週間後の9月13日に限定車両（近傍住民、緊急車両、工事用車両等）による片側交互通行を確保した。その後、工事用車両の通行台数の増加を想定し、12月27日に対面通行が可能な仮橋を完了させ、融雪後の平成29年3月31日に仮橋を含む千栄地区L=3.4km区間の通行止めを解除した。
今回の災害復旧では早急な国道機能回復を目指し、①現道での復旧
②再度災害防止
を基本方針として進めるため、限られた道路敷地内における施工方法も考慮しながら被災した施設より強固に復旧することとした。
本格的な復旧工事では、全被災箇所を同時施工、プレキャスト活用等による現場施工の期間短縮、施工順や工程見直しによる効率的な施工など、あらゆる工程短縮方法を検討して進めて来た。
また、被災箇所の特徴として、標高1,023mの地形が険しい峠部のため、日高町～清水町間には迂回路やアクセス道路が全く無いことから、唯一の工事車両通路を常に確保しながら全箇所を同時施工することを基本とした。

写真-4 覆道基礎補強

写真-5 法面補強

日高側災害復旧は、橋梁上下部、覆道補修、道路改良、舗装、電気通信など32工事を発注し、昨年被災時の降雨にも十分耐えられるよう現地条件に合わせ主に以下の内容を実施している。
○河川増水対策
橋梁架替、擁壁工、覆道補修、護岸工、護床工（写真-4）
○土石流対策
盛土復旧、横断管呑口部土砂・流木捕捉、横断管渠径拡大
○表面水対策
法面補強（特殊フトンかご、法枠工）、排水工（写真-5）
○その他復旧
車道舗装、道路付属物設置（防護柵等）、道路管理用の電気通信設備
この様に多数の災害復旧工事を同時に行うため、大量の資材・作業機械、多くの作業員を必要とし、日勝峠日高側だけでも最大1日あたり作業員約520人、作業機械約240台が稼働して早期復旧に向け日々工事を行った。
なお、相当数の運搬車両が往復することから、工事箇所毎の片側交互通行規制による渋滞で作業効率の低下が懸念されたため、通行規制箇所の位置、時間をきめ細かに各工事受注者間で情報共有し渋滞回避に努めながら早期復旧を目指した。
舗装工事は、他工事との施工箇所競合による復旧工程全体への影響を回避するため、夜～明方までの夜間施工とし、他工事と併せ昼夜間施工による工程短縮を図った。

写真-6 復旧に取り組む作業員

落橋した3箇所は、架替え工事を継続中であり、工事用道路として使用した仮橋を利用して通行止め解除することとしている。
以上のとおり、再度の災害防止を考慮した復旧方法の選定、早期復旧を目指した施工方法の検討、および日々の工程管理など、発注者・設計コンサルタント・工事施工者が一体となり災害に強い国道として復旧させ、一日でも早く通行止め解除するとの強い思いを一人ひとりが持ち、全力を挙げ取り組んだ結果、通行止め解除の見通しとなった。（写真-6）

4.おわりに

日勝峠は、昨年8月末の甚大な災害により通行止めが続き、長期間に亘って国道機能が停止したが、被災から14ヶ月後には通行止め解除可能な状態まで復旧する見通しである。
被災直後から、短時間での調査設計、厳しい地形条件・気象条件にもかかわらず、記憶にも記録にも残る大規模災害復旧に携わった数多くの関係者皆様のご尽力・ご協力に対し心から感謝申し上げます。

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