建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2017年5月号〉

 インタビュー 釧路建親会 会長、
株式会社佐々木建設 代表取締役  佐々木 泰三 氏

若手の担い手確保で建設現場見学会を開催

対農家との農業土木は達成感とやりがいを感じる

 株式会社佐々木建設
 代表取締役社長
佐々木 泰三
 昭和48年5月28日生
 平成10年3月 株式会社佐々木建設 入社
 平成24年 同 常務取締役就任
 平成25年 同 副社長就任
 平成27年 釧路建親会会長就任
 平成28年 株式会社佐々木建設 代表取締役就任
 -

── 2015年4月17日に釧路建設業協会の若手経営者で構成する釧路建親会長に就任しましたが、その活動などをお聞きしたい
佐々木 在任2年間に着手したのは若手の担い手確保で、地元の釧路工業高等学校を対象とする見学会や、父兄のための見学会などを重点的に行いました。
 前年に前会長の下で第一回目の現場見学会を行い、それを踏襲する形で今年で4回目となります。これまでは建親会として単独で開催してきましたが、私の就任時に北海道開発局釧路開発建設部や釧根測量設計業協会、釧路建設業協会とワーキンググループを組織して開催することができました。
── 具体的な活動内容は
佐々木 出前講座や父母見学会や、高等学校の教員を対象とする見学会などに力を入れました。
── 見学に理想的な現場といえば釧路外環状線など、醍醐味のある現場はいろいろとありますね
佐々木 釧路外環状道路や北海道横断自動車道などの整備が進んでいたので、見せ場としても見応えがあり、タイミングも良い時期でした。
 3年前はどの企業も新人の採用が少なく、また求人募集しても応募がない情勢だったのですが、4回の見学会を行った結果、一回目の見学会に参加した生徒たちが地場企業に入社しているケースもあるのです。それを見て、情勢は変わったと思いました。
── 工業高校なので、建設業に理解ある生徒が多かったことが反映しているのでは
佐々木 恐らく、各社とも10年近く新人採用をしていなかったので、生徒達は工業高には入学しても、就職先は建設業ではなく他業界でした。
 しかし、せっかく地元に工業高校があるのですから、見学会などを通じて生徒達の意見を聞くなどして、彼らの目をこちらに向けるなど…これまではしてこなかったのですが、行政や協会などと連携し、そうした取り組みに力を入れ、効率的に行うことができました。
── 土木の業界に対する理解が、なかなか定着しない情勢でしたね
佐々木 情報を発信せず、またできなかったこともあるので、彼らの先輩である工業高卒業生に、土木について語ってもらうなど、全道的にどこでもしていることではありますが、この釧路がワーキンググループという組織では、最も早くに着手したものと思います。
── 稚内管内などは、工業高校が地元にないため、普通科高校の生徒を対象にするしかないという困難な状況にあるようです。
佐々木 昨年の全道大会は稚内で開催されましたが、若手に限らず、全体的に人材不足でしょう。
── 熟練工が高齢化して、退職時期を迎えている状況ではないでしょうか
佐々木 そうですね、やはり採用が途絶えていたことが原因だと思いますが、そうした空白期間があるので、それを取り戻すにはいろいろな取り組みを継続していくことが大切でしょう。
── この釧路根室管内は高規格道路を含めて、この先も公共事業による建設需要が十分に見込まれますね
佐々木 私たちも行政と連携して根室方面延伸の重要性をPRしていますが、永久に続くものではないでしょう。
── およそ20年にわたって、公共事業に対する厳しい批判がありましたが、この数年で見直されてきています。それは若手経営者の活動の賜では
佐々木 災害対応についてのPRもそうですが、地元に会社を構えている意義というのか、工事は大手でも中小でも、ある程度はどの企業でもできるものです。しかし、なぜ地元企業でなければならないのかと言えば、大手に対応しきれない地域の除雪や災害時の対応において、役割を果たしているからです。そのためには、確実な人材が確保されていなければなりません。
── 面積が非常に広く、市町村単位の面積も大きい地勢で道路維持整備となると、人材も重機も揃えておかなければ、対応できませんね
佐々木 そのために、当社はこれからも直営であることが必要と考えました。除雪も災害対応にも直営が理想的だと、私は考えています。
── 昨年、一昨年の豪雪による雪害や豪雨災害などの時には、道路が寸断されましたが、そうした時に直営でなければ、対処できないですね
佐々木 一時期、工事が多かった時分には直営を抱えるよりも融通しあったほうが良いのではないかと考える風潮がありましたが、何しろ人員がいないのですから、手配は難しいでしょう。いざという時のために職員も作業員も地元で待機できることが直営の強みです。
鶴居第2地区 農地保全下幌呂工区外一連工事
── 直営で施工すれば、職員の技術レベルも向上しますね
佐々木 元請けとなって、自社のスタッフで施工しますから、こうした体制は少ないと思います。大手企業の手法とは異なります。
── 昭和36年5月に創業しましたが、その当時鶴居村には地場建設業者は無かったのでしょうか
佐々木 ありませんでした。
── やはり地元には必要とのことで、社長の祖父である佐々木三熊氏が創業したのですね
佐々木 そうです。当社の強みは創業以来、直営に拘り続けてきたことで、理由は災害時に鶴居村にあって、いろいろな問題に対応できるのは、やはり直営ではないかとの思いがあるのです。
── やはり地域に広さがあるので、各拠点地域に建設業がなければ、地域が成り立たないのでは。その意味では、先代の人々はかなりの苦労があったのでは
佐々木 しかし、当時は右肩上がりの経済動向で、仕事があった時代なので、別の苦労はあったと思いますが、仕事が無いという苦労はなかったと思うのです。
── 社長ご自身もそうした環境に育ったのですか
佐々木 私は現在、43歳ですが、入社した時は、厳しい情勢でした。政権交代で仕事のない時代でした。
── その時期は廃業してしまう企業も多かったのでは
佐々木 私が業界に参入した平成10年くらいの頃は、管内でも倒産、店終いする企業は多かったものです。老舗の企業もなくなり、当社も収益が減少した大変な時期でした。それまでは、他の企業も右肩上がりで順調だったと思いますが、業界に従事してこんなものなのかと感じました。
── それまでは、先代、先々代の時代なので、そうした順調な環境にはいたのですね
佐々木 祖父が従事していた当時は、私は小学生でした。その後、農協系の学校を卒業し、JAに就職して、会社に戻るつもりはなかったのですが、父は私が戻るものと考えていたようで、現在の状況になりました。
 以前に祖父と父が会社運営に当たりましたが、会社の基盤がしっかりと確定した時に、私も先代社長も戻ってきたわけですが、そうしているうちに政権が交代して仕事が少なくなり、私の代になったら担い手不足がより深刻化して、作業に従事する職員の確保をどうすべきかが問題になるなど、それぞれの時代における悩みが生じています。
── JA勤務の経験から、農業者の考え方なども理解していると思いますが
佐々木 当社は、一般土木にも従事しますが、国営事業の農業土木がメインです。エリアもこの釧路管内だけがメインではなく、根室管内の別海地区など他のエリアにも行っています。草地関係では、道営事業を鶴居村で従事しています。10年近く以前には、この鶴居村でも国営事業に従事しました。
── 農家の感覚は、建設関係者にはなかななか理解が難しいようですが、JA勤務経験があるので、各現場においても農家の顔が見える状況なのでは
佐々木 釧根地域は農業・農村地域で、農家あっての農業土木ですから、農家の需要を理解する重要性は感じています。
下幌呂夢の杜団地第3期分譲地 道路改良工事
── 会社が取り組んでいる担い手対策は
佐々木 若い人材を採用していかないと、難しいでしょう。取り組みを始める前は、私自身がまだ若かったので、確保しておかなければ大変な時代がくると展望していました。そのため、10年ぐらい前から新卒の採用を積極的に取り組んだ結果、当社は30人弱の会社ですが、現場代理人の半数近くが20代で作業員の年齢も若いのです。
── 地元鶴居村の雇用対策にもなりますね
佐々木 本当は釧路市からは近いので通勤は可能ですが、やはりできれば地元に居住してもらいたいと思い、職員住宅を修繕し、4世帯と6世帯に再編し、家族向けにつくりました。
── 昨年7月15日に佐々木建設・四代目社長に就任された時に、どんな感想を持ちましたか
佐々木 この地元鶴居村で、祖父の代から50年以上も会社を運営し、地元にもずいぶんと世話になったので、これからも地域に寄り添った形で、地域に貢献していく会社としてやっていかなければ、と強く思いました。
── 人口が2532人、約1104世帯の小さな村で、会社の従業員、世帯数の比率は大きいですね
佐々木 けっこうな比率になりますね。大きな意味で、地元から必要とされる建設業者でありたいですね。仕事を人から当てにされる建設業でありたいと思います。
── 日本で最も美しい村「鶴居村」では移住者を募集していますね
佐々木 この鶴居村自体は、この10年〜20年は人口があまり減少せず、横ばいなのです。これは、鶴居村の行政の考え方が素晴らしいからだと思います。
 ここまでの途上に「下幌呂夢の杜団地」という施設がありますが、そこでは釧路で働いている人が多いのです。立地条件が良いのでしょう。釧路が通勤圏でもあり、あの地域では人が増えているのです。コンビニも学校もあり、空港も近いですし、釧路市内までは15分〜20分くらいで行けます。
── 社長ご自身は、これまでに経験した現場で、印象深かったところはありますか
佐々木 地元で施工した畑の事業ですね。草地もそうですが、農業土木の農地防災事業などで、地元農家の仕事を地元建設業の当社がさせてもらい、大変にやりがいを感じました。地元で仕事をするので、農家の顔も見えていますから。道路施工では、なかなか顔が見えない中で進めますが、農業の仕事であれば受益者が分かります。こうした施工は、やり甲斐を感じられます。
 いま別海で従事している事業もそうですが、対農家となると、達成感とやり甲斐を感じます。
── 今後の会社運営のビジョンなど、若手やこれから建設業を志す若者へ伝えたいことは
佐々木 いつも主張しているのは、地元に必要とされる建設業とはどういうことなのかを考え、そのためにも経営基盤をしっかりして、若いメンバーを入れて代謝を良くして、機能させていくことに尽きるのではないかと思います。会社を大きくしようという考えではなく、経営規模としてはむしろコンパクトにして、長く続けていけるような会社を目指しています。
 業界では一括りに見られる事もありますが、それぞれの地域で状況が違うと思うので、地域の特色を認識することは非常に大切だと思います。例えば人口2,500人のこの村でやっていくべきことは職員が地元に住んで直営で施工にあたり、社員は消防団、観光協会や商工会などの団体で様々な役割を受け持つことで、地元のネットワークを広げていく、それが当社の地元に根ざすという考え方です。
── 釧路建親会長として2年間の総括などはありますか
佐々木 個人的な話ですが、2年間の会長職で貴重な経験をさせて頂き、全道の仲間も釧路の仲間もそうですが、大変に良い仲間と出会って、いろんなことを教えてもらいました。担い手対策もそうですが、若い世代だからできることもありました。
 今年は北海道建青会の上田修平(上田組副社長=標津町)さんが会長となって、全道大会が釧路で予定されていますが、建親会も歴史が古いので、良い部分を踏襲しながら続けていってもらいたいですね。


HOME