建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2016年12月号〉

豊かな農地の再生に向けて

―― 仙台平野で進む農地復旧事業と安全対策

 仙台東土地改良建設事業等安全対策協議会 会長
 池内 俊裕

1.はじめに

 仙台市東部では、平成32年度までの農地完全復旧を目指し、農地復旧から施設整備など幅広い農地復旧事業が推進されている。最盛期を迎えた現在では多数の工事関連業者が事業に参入しており、その数は28現場に及ぶところである(平成28年10月現在)。
 当該事業に参入する施工業者で組織した「仙台東土地改良建設事業等安全対策協議会(以下、本協議会という)」では、事業に伴う労働災害や公衆災害、交通災害の撲滅に向けた安全対策活動に取り組んでいる。ここでは基幹工種の一つとなる災害復旧関連区画整理事業の一例と、本協議会の活動状況についてその概要を紹介する。

排水路は、コンクリート製フリュームが主体となる。クレーン仕様のバックホウを用いて掘削から据付を行う。 水田の造成は、ブルワークが主体となる。本工事では16t級、8t級ブルドーザを用いて表土の集積から基盤造成を実施する。

2.災害復旧関連区画整理事業 〜七郷換地区区画整理第一期建設工事を例として〜

 「七郷換地区区画整理第一期建設工事」は、災害復旧関連区画整理事業の一環として、比較的小規模に営農されてきた圃場を、1圃場あたり約60aへの大圃区化を伴う圃場整備工事である。また、震災で被害を受けた用水路や排水路など、末端施設の再構築も併せて実施する。
 自然流下方式のパイプライン用水路や、反転均平工法を用いた田面の造成に技術的特徴がある。
 工種工法の違いで多少の差はあるものの、圃場整備工事では排水路の整備から着手する。その後、用水路の構築と圃場の整地を平行して行い、最後に道路の復旧と法面の仕上げを行っていく。
 さて、工事の舞台となる仙台市東部の農業地帯には、耕作基盤の下層に「泥炭」と呼ばれる特殊土壌が分布する地域があり、本工事もその一部に含まれていた。未分解の植物繊維により形成された泥炭は耕作に適さないほか、極めて軟弱な特性から、ブルドーザを多用する従来の整地工法では重機の作業荷重に耐えることができない。そのため、発注者である仙台東土地改良建設事業所では、泥炭土壌を克服する新たな工法として、重機の作業荷重が小さい「反転均平工法」を採択した。
 反転均平工法とは、プラウと呼ばれる耕起装置を建設用トラクタで牽引し、原位置において上下の土を入れ替えることに最大の特徴がある。従来工法では表土剥ぎ取り→基盤切盛り→表土戻しと、圃場の整地に3回のブルワークが必要となることに対し、反転均平工法では基盤土造成1回のブルワークで田面高さを整えることが可能となる。建設機械の繰り返し走行が減るほか、トラクタを使用することで作業荷重も軽減されるため、軟弱な泥炭分布エリアにおいて効率的な整地作業が可能となった。また、ブルドーザによる運土距離と運土量も削減できることから、コスト面でも優位性は高い工法とされている。

用水路は、塩ビ管を用いた管水路が主体となる。その多くは供用中の道路下に埋設されるため、工事には大幅な交通規制が必要となる。 仕上がった圃場の一例。施工終了時期によっては除草などの雑草対策が必要である。

 ただし、基盤土の造成後、原位置で下層の表土を反転させて地表に出すことから、仕上がり表土(耕作土)へ、ある程度の基盤土が混入することは避けられない。反転均平工法研究会の調査によればおよそ10〜30%程度混入すると言われており、今回の施工でも同様であった。本工法を採用するには、表土への混入を許容する良質な基盤土の確保が必要である。
 圃場整備工事は、目玉となる大きな構造物などは少ない反面、その施工面積は総じて広い。供用中の市道や農道を工事用道路として利用されることも多く、地域の生活環境や一般交通への影響を最小限としながら工事を進めることが肝要である。今回紹介した工事は現在施工中である。今後の繁忙期を迎えるにあたり、労働災害、交通・公衆災害の防止に向けてより一層緻密な管理を行っていく。

3.安全対策協議会の結成

 建設事業に伴う社会的責任は大きく、人命尊重といった内面的な要因のみならず、事業の円滑な遂行のためには労働災害、公衆・交通災害の防止が不可欠である。冒頭でも述べたとおり28の工事が集結する農地復旧事業等においては、施工者が組織として一致団結し、安全意識を高揚させ、相互研鑽することが重要な鍵となる。このような背景のなか、施工業者主導のもと「仙台東土地改良建設事業等安全対策協議会」を組織し、発注者と一体となって工事の安全対策活動に取り組んでいる。

プラウによる反転耕起状況。黒い部分が反転して持ち上げられた表土。所々に茶色の基盤土が混入している状況が解る。 最後は、レーザーレベラーと呼ばれるアタッチメントを牽引して仕上げ整地を行う。


反転均平工法で施工し、既に引き渡しが終わった箇所では
大豆が育成を続けている。作むらもなく良好だ。

【協議会での主な活動内容】

@労働安全意識の高揚及び安全衛生教育に関する事項
 外部講師を召喚しての勉強会、意見交換会を実施。本年度は日本建設業連合会より架空線事故の防止対策に関する情報共有と意見交換、また、仙台労働基準監督署による安全講話を実施済み。
A労働災害、交通・公衆災害の防止ならびに作業環境の改善に関する事項
 協議会会員現場において、工事の安全パトロールを実施中。安全管理や工事管理などの面において他業者の良いところを修得し、反省すべき点などを共有することで、参入事業者全体のレベルアップを図っている。
Bその他目的達成に必要な事項
 工事の進行に伴う好事例や問題点、注意点等を水平展開して共有する。同種の工事が相互に連絡を取り合うことで、課題解決への選択肢を広げると共に、スピード感のある対応を目指していく。
 執筆中の10月初旬、協議会会員各社の建設事業は今後最盛期を迎えることとなる。発注者と施工者が一致団結し、繁忙期となる年末から年度末を無災害で竣工すべく今後も安全対策活動を推進したい。

工事現場の安全パトロール実施状況 日本建設業連合会講師を交えて、架空線事故防止に関する意見交換会を実施



HOME