建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2016年11月号〉

将来にわたる安全で良質な水道水の安定供給に向けて

―― 安全で良質な水道原水の確保と災害に強い送水管の整備

 札幌市 水道局
 給水部長
阪 庄司
 さか・しょうじ/昭和36年3月23日生
 昭和60年3月 北海道大学工学部機械工学第2学科卒
 昭和60年4月 札幌市採用
 平成12年4月 水道局工務部計画課主査
 平成13年4月 水道局工務部白川浄水場浄水係長
 平成16年4月 都市局建築部建築企画課保全計画担当係長
 平成19年4月 都市局建築部建築企画課維持担当係長
 平成20年9月 水道局給水部藻岩浄水場長
 平成24年4月 水道局給水部白川浄水場長
 平成25年4月 水道局総務部企画課長
 平成26年4月 水道局給水部浄水担当部長
 平成28年4月 水道局給水部長

水管橋架橋部のシールドマシン発進基地

はじめに

 札幌市は石狩平野の南西部に位置し、西側から南側に広がる手稲山系と支笏洞爺国立公園に連なる一大山地、東側から北側に広がる石狩川と日本海に接する石狩低地帯に囲まれており、市内を縦貫する豊平川の扇状地に緑豊かな市街地を形成し、人口約195万人を擁する北海道の政治・経済・文化の中心都市です。
 本市の水道システムは、水源の98%を占める重要な河川である豊平川、本市最大で約8割の給水を担う白川浄水場、そこから市街地へ送水する大動脈である白川系送水管路などからなる一連のシステムがメインとなっています。これらをさらに強靭化させ、将来にわたって安全・安定給水を持続していくことが重要と考えています。

課題と取組み

 豊平川は、上流域のほとんどが支笏洞爺国立公園や国有林であり良好な水源ですが、浄水場取水地点まで流下する過程においてヒ素等を含んだ自然湧水が河川に流入し水道原水の水質に影響を及ぼしています。また、豊平川に水源が一極集中しているため、万が一の事故・災害等により水道原水が汚染され、浄水処理が困難になった場合には甚大な被害の発生が予想されます。
 また、白川浄水場でつくられた水道水は大動脈である白川第1送水管、第2送水管の2本の送水管により基幹配水池に送水していますが、第1送水管は布設後40年以上が経過し老朽化が進んでいます。さらに、これらの送水管路は耐震性を有していないことと、2本の送水管の布設位置が近接しているため同時に地震の被害を受け、送水機能を完全に喪失するおそれがあります。
 これらの課題解決のための取組みとして、豊平川においては、上流域における水源水質の保全と、事故・災害時においても良質な水道原水の確保を目的とする「豊平川水道水源水質保全事業」を、また、白川系送水管路については、ルートの二重化と耐震性の確保による安全性や安定性の向上、さらには、災害時における応急・運搬給水拠点としての活用を目的とする「白川第3送水管新設事業」を実施しており、平成27年3月に策定した札幌水道ビジョンにも両事業を主要事業として掲げ、鋭意推進に努めているところです。

豊平川水道水源水質保全事業〜安全で良質な水道原水の確保〜

 豊平川上流域で河川水中に流入するヒ素等を含んだ自然湧水は、流下に伴う希釈により濃度は一定程度減少するものの、水道原水の平均ヒ素濃度は水道水質基準の0.01mg/Lを超過している状況です。特に夏期や冬期の河川流量が減少する際には基準値の3〜4倍に達することもあり、浄水処理により一定程度除去しているものの、浄水中のヒ素濃度は恒常的に他都市よりも高い状況となっています。
 豊平川水道水源水質保全事業は、このような状況への抜本的対策として、取水堰、水管橋、導水路等で構成する「バイパスシステム」を建設し、ヒ素を含む自然湧水等を白川浄水場の下流に迂回させ、水道原水への影響要因を根本的に排除することで原水水質の保全を行います。さらに、豊平川の事故・災害等の非常時においては、このシステムを有効活用して清浄な原水を白川浄水場に直接導水できる機能を備えることで、原水水質の保全と事故・災害対策を両立することとしています。
 具体的には、@自然湧水の発生地点直下の取水堰から原水の水質保全に最低限必要な河川水を取水し、A口径約2m、延長約10kmの導水路に途中で下水処理水も取り込んで流下させ、B白川浄水場の取水地点の下流まで迂回します。

 一方、豊平川の水質事故等の非常時には、(a)取水堰からの取水を停止し、(b)電力会社の協力により水力発電水路と導水路を接続し、一時的に水の流れを切り替え、(c)導水路に取り込んだ豊平峡ダムの良質な水を白川浄水場に直接導水することで、断水リスクを回避することができます。
 このシステムの整備計画においては、定山渓地域の下流に設ける取水堰、豊平川の深い渓谷を横断する水管橋、約10kmにおよぶ導水路の整備が必要になりますが、施工区域は自然豊かな国立公園内に位置しており、自然環境への影響に配慮するよう検討を進め、地上作業を極力少なくする工法を採用することとしました。
 特に、大きなウエイトを占める導水路の布設工事は3工区に分け、全てシールド工法にて行うこととし、計画当初は、国有林野内における立坑での接合を予定していたところを地中での接合に変更するとともに、豊平川横断部の水管橋架橋部を起点として取水堰側及び白川浄水場側のそれぞれに向けて掘削するシールドマシンの発進基地とすることで、国有林野内での作業を最小限に抑える計画としました。
 現在のところ、布設工事の進捗状況は水管橋の架橋を終え、シールド工法による掘削をスタートさせており、いよいよ工事の最盛期を迎えます。
 今後、取水堰等の整備にも順次着手し、完成に向けて事業を進めていきます。

白川第3送水管新設事業〜災害に強い送水管の整備〜

 本市給水量の8割を担う白川浄水場から基幹の平岸配水池、清田配水池への送水システムは、白川第1送水管と第2送水管により構成されています。
 白川第3送水管新設事業は、既設送水管のルートである豊平川の沿線とは全く異なる山岳部を布設ルートとするなど、第3の送水管として耐震管で整備し送水ルートの二重化と耐震化を図ることで地震・事故等においても送水機能を確保でき、大規模な地震災害等には送水管内に水道水を貯留(約26,900m3)し応急・運搬給水拠点として活用できる機能を備えることとしています。
 また、第3送水管が全区間で供用開始した後、既設送水管を停止し更新を行うことが可能になります。
 この事業は、平岸配水池〜清田配水池間を結ぶ口径1.5m、延長約6kmの1期事業と、白川浄水場〜平岸配水池間を結ぶ口径1.8m、延長約11kmの2期事業に分けて行っています。このうち、1期事業は平成21年に供用を開始しており、現在は2期事業を進めています。
 2期事業の整備ルートは、白川浄水場近傍の山岳部(約4.1km)のほか、道路部(約1.4km+約3.7km)、豊平川横断部(約1.5km)に大きく分かれています。一般に、大口径の送水管布設工事は周辺環境や道路交通に与える影響が大きくなる傾向があるため、非開削工法を積極的に採用する計画としています。
 本事業では、@シールド区間の縦断線形の見直しによる応急給水貯留量の増加、A高流度充填材の採用による工期短縮、B豊平川横断部における推進工法から長距離シールド工法への変更と立坑数の削減による工費縮減、C山岳部の地下水に溶存するメタンガス対策として防爆型の各種装置の採用や換気設備、検知器の設置など、効率的かつ適切な施工に努めています。

おわりに

 本市は、これら施策のほかにも、白川浄水場の大規模改修に向けて実施計画の策定を行っているほか、配水池等施設の耐震化、配水幹線の連続耐震化、医療機関など災害時重要施設への配水管の耐震化、配水管の計画的更新などにより、水源から配水区域の隅々まで切れ目のない持続可能な水道システムの構築に向けて、着実に事業を進めていく所存です。

立坑部のシールドマシン発進基地



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