建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2016年11月号〉

治水・利水・環境の要、長安口ダム機能を最大限に活かしきる

―― 那賀川長安口ダム改造事業

 国土交通省 国土交通省 四国地方整備局
 那賀川河川事務所 所長
 野本 粋浩

写真1 改造事業全景(下流より望む)

 長安口ダムは、一級河川那賀川本川上流部に昭和31年徳島県により設置された重力式コンクリートダムです。用途は多目的で、那賀川下流域の洪水被害の低減、発電や農業・工業用水の供給などに寄与しています。ダム上流域での降雨により洪水が予測される場合は、予備放流(全国で唯一、利水容量に洪水調節容量の全てが含まれる)を開始し、現行ではダムへの流入量が2,500m3/sを超えた時には洪水調節を開始します。
 ダム竣工後、平成27年までに計26回の洪水調節を実施し、下流の水位低減を図ってきました。
 また、那賀川下流域の農業・工業用水等の水利を提供するとともに、既得用水の安定化と河川環境の保全を図るための流量を補給しています。

図1 長安口ダム改造イメージ

 しかしながら、近年の那賀川上流域の降雨は多雨年と少雨年が顕著化し、洪水が頻発する一方、2年に1度の割合で渇水が発生しています。ダム上流域の多雨年と少雨年の降水量の変動幅も拡大傾向にあり、近年では那賀川で記録的な渇水が隔年で発生し、農業や工業に甚大な被害をもたらしています。一方、現在の河川整備計画で想定する洪水に対して洪水調節を確実に行うには、洪水調節容量が不足しています。
 ところが、現状のダムで洪水調節能力を高めるために洪水調節容量を増やせば、洪水調節開始時の水位が低くなるため、放流能力が不足し、水位を下げても十分な洪水調節が行えません。
 また、ダム貯水池には、建設当時の計画堆砂量の約3倍の土砂が堆積しているため、ダムの有効貯水容量の減少をもたらしています。
 一方、日野谷発電所では、上流にある長安口ダムから最大使用水量60m3/sが延長5kmのトンネルを通して送られ、発電が行われています。日野谷発電所の最大出力(62,000kW)は、水力では徳島県内最大を誇り、年間発生電力量(計画)は一般家庭で使われる約7万世帯の消費電力に相当します。ダム下流への水補給は、ダム貯水池の底部に設けられた発電取水口からダム下流の日野谷発電所を介して放流されていますが、特に洪水後はダム貯水池底部が表流水よりも濁りが滞留しているため、濁水長期化の一因となっています。
図2 改造後イメージパース

 これらの問題を解決するため、長安口ダムは平成19年4月より徳島県から国土交通省へ移管され、私たち那賀川河川事務所が、大規模な改造事業に着手しました。概要としては、予備放流水位を下げ、洪水調節容量を増加させます。新しく洪水吐を増設し、洪水調節容量を適正に活用できるよう低い水位での放流能力を高めます。そして、放流水を安全に下流へ流せるよう減勢工を改造します。
 従来の発電を優先したダムから、河川環境の維持や下流の水利用を優先したダムに改造します。ダム下流河川の濁水長期化の軽減のため、発電取水口に選択取水設備を設置し、ダム貯水池内の澄んだ水を、日野谷発電所の取水口を使って下流へ放流することにより、水環境の改善を図ります。
 一方、洪水調節機能等を確保するため、主として長安口ダム貯水池上流において、堆積土砂の除去を行います。また、渇水時(水位低下時)に、平常時では水没している箇所を優先して掘削を行います。さらに、掘削した土砂はダム直下に置き土を行い、ダムからの放流により下流の河道へ還元され、河川環境の再生に寄与しています。
図3 ゲート放流イメージ図
図4 改造事業による貯水池容量の変更

 こうして、ダム下流河川の整備水準が向上した時点で、基準点古庄におけるピーク流量9,000m3/sを8,500m3/sに低減させるよう洪水調節ルールを変更する予定です。
 那賀川における戦後第2位の洪水であるジェーン台風(昭和25年9月)では、基準点古庄において最大流量9,000m3/sが発生しましたが、長安口ダム改造によって氾濫被害額が約5割、床上浸水世帯数が約4割減少するなど大きな効果が期待できます。また、ダムの底水容量の活用と出水期管理水位の変更により、貯水池容量配分を変更し、不特定容量を増強します。
 さらに、ダム下流にある川口ダムと連携し、不特定容量として合計3,910万m3を確保して、利水基準点の和食において、かんがい期最大概ね32m3/s、非かんがい期最大概ね14m3/sを確保して、7年に1回の渇水に対応します。
 これにより、渇水時における取水制限日数を短縮することができます。例えば、平成17年渇水では113日間取水制限を実施しましたが、不特定容量を増強することで取水制限日数が80日間となり、約30%の短縮となります。

図5 堆砂除去状況

 また、ダム下流における濁水長期化の低減を図るため、日野谷発電所に送水する取水口に選択取水設備を設置します。選択取水設備を設置し、必要に応じて取水する高さを変え、水の澄んだ層から取水することで、ダム下流の濁水の低減を図ります。
 このように、那賀川の治水・利水・環境の要である長安口ダムの改造事業の平成31年度末完成を目指し、事務所一丸となって取り組んで参ります。



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